子宮頸がんワクチン

2022/03/17

 今日は小学6年生から高校1年生までの女の子がいるご家庭に関係のある、子宮頸がんワクチンについて書いてみたいと思います。8年前の2013年に積極的な接種の呼びかけを中止していた子宮頸がんワクチンが、ようやく今年から正式に再開されることが決定されたからです。

 蒼野の専門外にはなるのですが、医療者の立場から見ると、社会的に大きな問題を孕んでいる問題だったため、皆様にも知っておいてもらいたいと思うのです。

 最近20代~30代の若い女性で子宮頸がんが急増中です。性感染する発がん性ヒトパピローマウィルス(HPV)というウイルスが原因で起こり、約80%の女性が一生に1回は発がん性HPVに感染するといわれています。

 発がん性HPVに感染し、運が悪い場合、数年かかって細胞が前がん状態になり、さらにもっと運が悪い(約0.15%)と、数年から数十年かかって子宮頸がんになると言われています。発がん性HPVは15種類ほどありますが、そのうち若い女性の子宮頸がんに特に多い16型と18型に感染しないように抗体をつけるのが、子宮頸がん予防ワクチンです。子宮頸がんワクチンの接種により、子宮頸がんの5割~7割を予防できると考えられています。

 日本より7~8年前からワクチン接種をはじめた欧米やオーストラリアでは、ワクチンの高い有効性が報告され、子宮頸がんの撲滅宣言を出す国もあります。WHOが15歳までに90%以上の女子が接種することを目標としている、国際的に効果と安全性が確立されたワクチンなのです。またHPVは、中咽頭がん、肛門がん、尖圭コンジローマなど、男性がかかる病気の原因にもなるため、海外では女性だけでなく男性も公的な予防接種の対象とする国が増えているという状況です。

 我が国でも子宮頸がんワクチンの積極的な接種が、2009年12月に開始されました。しかし、接種後に体調不良を訴える症例があり、中には、「副反応でやせ細った何の罪もない少女が、ぽろぽろと大粒の涙を流し、元の体に戻りたい。学校に行きたいと訴えている」などの情動に訴える報道がなされました。

 某大学医学部長が予備実験でマウス1匹!?の海馬に、HPVワクチンで自己抗体による障害が見られたことを発表し、著名なDr.でもあったことと、これがNEWS23で全国放送されたことで日本中にHPVワクチンが危険であるという認識が広がってしまい、世界的なワクチン接種の流れとは逆行するように、厚労省は2013年に「接種の積極的な呼びかけはしない」と方針を転換しました。

 しかし事実は、マウスに対する追加実験でも、全く同じ現象は確認できませんでした。また後遺症とされる重篤な神経症状の発症は、ワクチン接種者と非接種者で有意差は認められず、同世代の女の子には、ある一定の確率で生じる別の疾患である確率が高いことも分かっていたのです。

 具体的には、副反応で後遺症が残る割合は、接種をした2万人に1人で、これはワクチン接種していない人に起こる症状と変わりなく、確率も変わらないことが分かっているということです。世界的にもワクチン接種を勧めない日本は、強い批判を受けました。しかし国民の「ワクチンは恐い』という意識は変わらず、70%以上あった接種率はここ10年間、1%を下回りました。

 その結果、毎年およそ1万1000人の女性が子宮頸がんにかかり、手術で1万個の子宮が無くなり、およそ2800人が亡くなっています。ここ10年で、ワクチンを打たなかったために、10万個の子宮が無くなり、2万8千人が亡くなったことになります。子宮頸がんは40歳までの若い女性で、がん死亡の第2位なのです。2000年度から2004年度までに生まれた現在16歳から21歳までの女性のうち、およそ260万人が無料接種の機会を逃したことになります。

 ヒトパピローマウィルスは、主に性交渉によって感染するため、予防のためには性交渉を経験する前にワクチンを接種することが最も有効です。公費助成の対象になるのは小学6年生~高校1年生までの間です。しかしこの失われた10年に、接種が受けられなかった女性は、無料接種の対象とする方針を厚労省が示しています。

 これらの適齢年齢を過ぎた女性でも、性交渉の経験がなければまだHPVには感染しておらず、ワクチンの高い効果が期待できます。また既に性交渉を迎えている場合でも、今までワクチンで防げるHPVに感染したことがない場合、今後の感染を予防することができます。婦人科のガイドライン上では、性交渉の有無を問わず、26歳までの女性には強く接種が進められています。そして26歳を過ぎてしまっても45歳までの年齢層では子宮頚癌ワクチンの有効性が証明されています。

 現在使われているワクチンは、「サーバリックス」と「ガーダシル」という2種類で、子宮頸がんを引き起こしやすいHPV16型と18型の感染を防ぐことができます。6か月間に3回接種することで、有効率は50~70%です。公費なら0円、自己負担であれば、1回1万5千円×3回分です。

 また去年7月に新たに承認された「シルガード9」というワクチンは、HPV16型と18型を含む9種類のHPVの感染を防ぐことができ、子宮頸がんの原因の90%を防ぐことができるとされています。9歳以上の女性であれば医療機関で接種できますが、およそ10万円の自己負担が必要です。

 ワクチンの副反応としては、世界のメタアナリシスで、注射部位の症状がプラセボ(効果のない偽薬)群と比較して1.18倍、個別の症状では痛みが1.35倍、腫れが1.73倍、赤みが1.72倍起こりやすいと報告されました。重篤な副作用に関しては、プラセボと差はありませんでした。発売から十分な時間も経っており、安全なワクチンであると言えると思います。

 人間は感情の動物です、我が子がワクチン後に、重篤な状態になれば、ワクチンのせいだとして、訴訟を起こしたくなる気持ちもわかります。また不幸な報道は、多くの人の目を惹きます。しかし、冷静な目で、科学的な検討を元に、報道する必要があるのではないでしょうか? 

 世界の流れと逆行するように、日本だけで多くの命、多くの子宮が失われたこの10年がようやく終わります。令和4年4月から、対象の女性には、順次接種のお知らせが発送されることになっています。コロナワクチンでも様々な噂があって、意見が色々あることもわかります。でも蒼野としては、このワクチンは是非受けていただきたいなあと思っております。

 うちの三人娘はギリギリみんな2013年までに接種が済んでいました。胸を撫で下ろしている蒼野でした。

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