リコード法 序章

2021/12/26

 最新の発表によると、2021年9月現在の高齢者人口は3,640万人、高齢者人口率は29.1%となりました。大きな問題となるのは、今後の認知症患者数です。2025年には65歳以上の認知症患者数が20%(約700万人)に、2060年には33.3%に増加すると予測されています。

 しかし、現在の我が国の認知症の基本的な医療は、症状の進行を遅らせる薬の処方が主であり、介護しながら、症状が進行してゆくのを見ているしかない現状は、蒼野も沢山経験しています。認知症の発症時点では、すでに取り除けないほど大量の有害なたんぱく質が脳に蓄積されており、それを取り除いても機能の回復は望めないのです。

 今年6月に、アメリカで条件付き承認された、今話題のアルツハイマー型認知症予防薬である『アデュカヌマブ』ですが、軽度認知障害の段階で治療を始めると、病気をプラセボに比べて22%防ぐ効果が確認されています。またPET検査でも、脳の中の「アミロイドβ」が、59%~71%ほど、減少していることが確認されました。 

 アルツハイマーの根本原因と言われている「アミロイドβ」を取り除くのですから、夢のような薬だと思われるかもしれません。しかし、認知機能自体を回復する効果は無く、治療開始までに受けた神経細胞のダメージを回復させる薬ではありません。

 また実際に使おうと思うと、かなり非現実的な話になってしまう薬でもあります。まず軽度物忘れが気になる人の脳に「アミロイドβ」が溜まっているかどうか確認が必要です。しかしアミロイドPET検査は高額で、1回当たり40万~60万円かかります。「アミロイドβ」が溜まっていなければ、薬は効かないということです。

 そして治療が始まりますが、これがめちゃくちゃ高額です。アメリカでの1年間の薬剤費は5万6000ドル(約610万円)です。予防ですから、これを毎年続けてゆく必要があります。我が国で、公的保険で承認したとしても、3割負担できる人は限られているでしょう。今の制度では、医療負担のない生活保護の人なら続けられることになります。

 医療費が国を滅ぼすと言われている我が国で、アルツハイマー型認知症の発症を、たかだか2割程度減らすために、使える方法ではないし、使うべきではないと蒼野は考えます。また使う人の適応を決めるのも大変な選択になるでしょう。

 生活習慣から来る病気を、「アミロイドβ」が悪いのだから、「アミロイドβ」をやっつけてしまおうという、西洋医学的な考え方で治そうというのは、やはり難しいと思います。

 そこで紹介したい方法が『リコード法』です。認知機能の低下(COgnitive DEcline)の回復(REversal)という3つの英単語の頭文字から名付けられた方法で、早期であればなんと9割もの患者が回復する、と報告された革命的治療法です。

 アルツハイマー病などの神経変性疾患を専門とする、カリフォルニア大学神経学の名誉教授 デール・ブレデセン博士が提唱しました。2014年に論文を発表して大きな反響を呼び、2018年に大ベストセラーになった『アルツハイマー病 真実と終焉』で世界のスタンダードになりつつある方法です。蒼野もこれを読んで、大きな衝撃を受けました。

 ブレデセン博士が着目したのが『なぜアミロイドβが脳にたまるのか』ということです。研究の結果、様々な原因で脳がダメージを受けると、防御反応としてアミロイドβが発生、蓄積するという事実が判明しました。「炎症」「栄養不足」「毒素」という大きく3つの脅威で、細かく分けると36の原因があると書かれています。

 認知症の患者さんの脳は、いわば『穴が36個開いた屋根』のようなものです。一つの穴だけ塞いでも症状は良くなりません。複数の要因を細かく調べ、それぞれの状態に合った食事、運動、睡眠などの指導や、脳の栄養を補うサプリメントの処方、解毒治療などを行うことで、36個開いた穴を一つ一つ修繕したり、小さくしたりするのがリコード法というわけです。

 アルツハイマー型認知症は40代からひっそり進行し、20年あまりで発症してきます。36の原因が沢山ある生活をしていれば、気付いた時には、進行しているのです。家族が気づいて病院に来た段階では、神経損傷は進んでおり、本人が病態を理解して、生活習慣を大きく変更するということは難しくなっていることが多いです。

 逆に言えば、アルツハイマー型認知症は、食事・運動・睡眠などの生活習慣をしっかり見直すことで発症を防げるということです。蒼野自身、運動不足になっていた、50代後半で人の名前がすぐに出てこない、薬の名前が喉元まで、出てきているのに思いつかないなどの症状に、恐怖を感じて、生活を変えたところ、61歳の現在の方が、困ることが少なくなりました。

 健康長寿にも、働き続けてゆくにも、明晰な頭脳が必須です。症状のない今のうちから、生活習慣を整えてゆきましょう。具体的な方法については、沢山あるので、また一つ一つ書いてゆきますね! それでは今日はこの辺で!!

参考書籍: アルツハイマー病 真実と終焉   デール・ブレデセン