風邪を早く治すには!

2021/12/02

 『風邪を治す薬はない」という事を、皆様も聞いたことがあるかもしれません。薬局で売られている風邪薬や、クリニックで処方される総合感冒薬は、症状を抑えるだけの薬で、実は風邪の治癒を遅らせる薬だということはご存知でしょうか?

 風邪は、上気道にウイルスが感染することによる症状であり、現時点では何千もある風邪のウイルスを、体から排除する薬は存在しないのです。もちろん細菌ではないため、抗生物質は無効です。生物質を飲むと、腸内細菌が激減することがわかっており、免疫力を弱め、耐性菌のリスクも増すことから、投与はしないことになっています。

 風邪の症状を抑えるとは、具体的には熱を下げたり、鼻水やくしゃみや咳を抑えたりすることです。風邪を引いて、熱や鼻水、くしゃみ、咳などに悩まされているけど、それでも仕事をしないといけない場合などは、一時的に症状を改善する、総合感冒薬のメリットがあるかもしれません。

 しかし発熱は、体内の免疫システムが、ウイルスを排除するために有利なように、体温を上げて戦おうとしている反応です。発熱は体の免疫系を活性化させる号令であるとともに、体内をウイルスが苦手とする、温度の高い環境にしようとしているのです。

 鼻水やくしゃみや咳などは、異物を外に排泄するための反応です。そのため、総合感冒薬を飲んで、症状を抑えることによって、風邪が治るのは、遅くなります。仕事を休めないから、無理をして、症状を緩和するために総合感冒薬を飲んで、治るのをさらに遅らせている、ということになってしまうのです。

 風邪を治すには自身の体力と免疫力でウイルスを排除するしかありません。世界中の医師の共通の教科書である「UpToDate」には、「軽症の風邪なら、ほとんどの患者は治療不要」と書かれています。しかし、風邪でクリニックを受診すると、何か薬を出されないと、受診した患者様も納得しませんし、医師の方も格好がつきませんので、総合感冒薬が処方されてしまいがちです。

 総合感冒薬はいくつかの成分の組み合わせなのですが、熱を抑える成分は、NSAIDs(非ステロイド性抗消炎薬)です。これには免疫抑制作用があることを先程書きました。重篤なものは、インフルエンザ脳炎・脳症を悪化させるリスクの存在です。サリチル酸系解熱剤をはじめとするいくつかの解熱剤は、まれではありますが、インフルエンザ脳炎・脳症を悪化させる可能性があります。

 くしゃみや鼻水を抑える成分は抗ヒスタミン薬で、眠気を起こします。抗コリン作用を持つものも多く、高齢者の場合、総合感冒薬を飲んで尿が出なくなることがしばしばあります。眼圧上昇、口渇(口の渇き)、便秘などの症状も起こりえます。

 それでは、風邪を早く治す薬は存在しないのでしょうか? 実は漢方薬には、風邪の治癒期間を短縮できるというデータがあるのです。

 もともと漢方薬は、歴史的にみて、最初から急性期の疾患を標的とした薬だったのです。最古の漢方治療マニュアル『傷寒論』が編纂された2千年前は、平均寿命が20~30歳で、死因の約7割を、腸チフスやコレラといった感染症が占めていました。そんな時代、薬に求められるのは速効性と有効性です。生きるか死ぬかの人に対し、優れた速効性を示す薬だけが『傷寒論』に収載され、驚くべきことに、その時の処方が、現代まで2千年以上使われ、いまだに残っているのです。

1、漢方薬は初期免疫に介入することにより、免疫系を迅速に立ち上げるとともに、過剰な炎症を抑制します。

2、漢方薬は微小循環を改善する力にも長けていて、組織の隅々にまで、栄養を届け、不要なものを排出させることができます。

3、漢方薬は細胞の水の出入り口であるアクアポリンを介し、局所で生じている水分代謝異常にピンポイントで作用し、水が溢れていれば排出し、不足していれば補います。

1~3の効果で、感染による、身体の中のシステムの異常を元に戻すことで、我々の持つ自然治癒力を取り戻し、ウイルスを排除することにつなげることができるのです。

それでは、どんな漢方を、どんな時に使うのか、簡単に紹介させて頂きます。

 まず喉風邪です。咽頭に炎症が起こり、痛くなった時には3日目くらいまでなら、『桔梗湯』(ツムラ138番)です。急性咽頭炎のみに使える漢方で、水と一緒に口に含んで、うがいしてからそのまま飲み込む『含み飲み』が有効です。早ければ1回飲めば良くなる人がいます(Responder)。

 咽頭炎の初期が過ぎて、3~4日後、咳が出たしたら、喉がマグロの赤みのように腫れてきます。その時は『小柴胡湯加桔梗石膏』(ツムラ109番)です。1日飲めば良くなる人がいます。

 発熱している場合には、身体の発熱を助け、発汗させる作用をもつ麻黄剤、『麻黄湯』(ツムラ27番)、『葛根湯』(ツムラ1番)、『小青竜湯』(ツムラ19番)、『麻黄附子細辛湯』(ツムラ127番)などを投与すると、速やかにウイルスが不活化することが多くなります。

 特に体力中等度以上で、発熱、頭痛、頸部肩こり、鼻炎、咽頭炎などを伴う場合、『葛根湯』は、ファーストチョイスとして用いることができます。解熱し、汗が出てきたら飲むのは終了です。『麻黄附子細辛湯』は体力が無い高齢者などで、ファーストチョイスになります。

 解熱後の亜急性期には、体力が消耗し、易疲労感、全身倦怠感などが残ります。このステージでは免疫力を補強する作用のある柴胡剤、例えば『小柴胡湯』(ツムラ9番)や消化器症状が強い場合に柴胡桂枝湯(ツムラ10番)などを投与します。これらはNK活性を上げ、ヘルパーT細胞を増加させることが報告されています。

 咳が出る場合、鎮咳作用をもつ『麦門冬湯』(ツムラ29番)を加えるとよいです。麦門冬湯は、「かぜ症候群後遷延性咳嗽の診断基準」に治療薬として記載されているほか、「EBMに基づいた喘息治療ガイドライン2004」でもその臨床文献が高い評価を受けています。喉が潤うので、日中の咳こみなどが、楽になります。

 回復期では、減退した体力そのものを補う必要があります。漢方で補剤といわれる『補中益気湯』(ツムラ41番)などが用いられます。『補中益気湯』も免疫力を上げてくれるので、青野は栄養ドリンクのように、疲れた時などに愛用しています。コロナにも罹りにくくなると言われています。

 漢方薬を効果的に使うポイントは、「急性期の症状が強いときには、通常の数倍量を服用する」ことです。具体的には、最初の1~2回は2~3倍量、重症ならば5倍量が望ましいです。日本の漢方薬の処方用量は中国の3分の1から5分の1なので、増量によって副作用が増強される心配はほとんど無いと言われています。

 いきなり高熱が出たインフルエンザなどの場合には、『麻黄湯』を汗が出るまで15分おきに3回飲んだら治ったりするのです。漢方は不思議ですね!

風邪は最初が肝心です。

1、適切な漢方薬を使った上で、

2、体を温め、睡眠時間を十分確保する。

3、室温程度の水をこまめに補給して脱水を防ぐ。

4、ビタミンCサプリを沢山補給する。

5、お腹が減らない間は断食して、オートファジーを効かせ、細胞内のウイルスの除去を進める。

 以上が、現在、蒼野が考える、もともと元気な人が、風邪を最も早く治す方法だと思います。

参考文献: 147処方を味方にする漢方見開き整理帳   井齊 偉矢

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参考講義: サイエンス漢方処方セミナー(かぜ、インフルエンザと漢方)  井齊 偉矢