AIと医療!

2022/05/08

 今日はAIと医療についてのお話です。AIに仕事を奪われるため、将来の職業、働き方は激変するという情報は、最近よく目にするようになりました。蒼野はデジタルネイティブな世代でもなく、ITリテラシーは高くないし、デジタル知識もほぼ無いと自認しておりますが、考察してみたいと思います。

 米ピッツバーグ大学などの研究チームが、「脳スキャン画像から『外傷性脳損傷患者の予後』を高精度に予測する機械学習モデルを構築した」という記事を目にしました。蒼野も沢山の患者様を診てきましたが、外傷による脳損傷は、救急搬送されてきて、一刻も早い判断が、社会復帰できるかどうかの分かれ目になったりする病態です。

 蒼野自身の交通事故での外傷は、急性硬膜外血腫でした。事故直後から外転神経麻痺で、右目が動かなくなっていたため、世界が全て二重に見えていたのですが、意識はしっかりしていました。全身血だらけでしたが、救急車の中で、勤務先に電話し、今日は休ませてもらう事を話しました。

 搬送先の病院には、いつも患者様を紹介していたため、自分が脳外科医という事は知られており、頭部CTスキャンを、ストレッチャーの上で見せてもらいました。脳の硬膜の外に2箇所の出血と、外傷性くも膜下出血がありました。まだ手術適応は微妙な大きさだったのですが、蒼野は意識障害まで出た後では、元に戻れないことが多いことを知っていたため、手術をお願いしました。

 手術後に主治医の先生から、脳硬膜の動脈が切れていて、出血が続いていたので、手術して本当に良かったと聞きました。術前に様子を見ることも出来るかもと言われていたので、ある意味急死に一生を得た思いです。私事を書いてしまいましたが、外傷性頭蓋内出血は、素早く正確な判断が必要な病態であることは少し感じて頂けたでしょうか?

 外傷性脳損傷は、全米では毎年300万人が治療を受け、45歳以下における死亡原因の1位となっています。症例毎の病態に合わせた医療を行い、予後を改善することが強く求められてきました。研究チームは、外傷性脳損傷の急性期における頭部CT画像、および関連する臨床データと、受傷後6ヶ月時点での生存率と回復の程度をAIに学習させました。

 このAI予測データを、ピッツバーグ大学医療センターで過去に治療を受けた外傷性脳損傷患者群、および全米18施設から集められた患者群、の2つ群で性能を検証したところ、この精度は脳神経外科医による予測を有意に上回るものだったということなのです。

 論文では、このAIシステムは、外傷性脳損傷患者が救急搬送された際に、早期の臨床的意思決定を支援するものだとの主張の上で、システムの臨床実装によって、患者アウトカムの改善が期待されるものだと述べられています。確かに素晴らしいことだと思います。

 蒼野自身の経験では、稀なことで、運としか言いようが無いのですが、同じような時刻に、2例の外傷患者様が搬送されてきて、出血が大きな人から手術に入ったけど、意識が良かったもう1人の人が急変して、後遺症が残ってしまった事が、悔しい記憶に残っていたりします。

 また日本ではありがちなのですが、脳死寸前の状態で搬送されて来ても、年齢が若かったりすると、ご家族は「どうなってもいいので、手術してください」と言われることが多いです。経験的に感じていた通り、救命だけのための手術をすると、救命はできるのですが、植物状態になることがほとんどです。生きていれば、いつまでも家族は悲しみから抜け出すことが出来ません。

 もしAIが、ビッグデータで、正確な未来を予測することが出来れば、別の手術をしていて、すぐに処置ができない様な患者様を、別の病院に運ぶことが出来たり、99.9%植物状態になる未来が分かっていれば、家族の気持ちの問題はありますが、静かに見守るという判断もしやすくなるのでは無いかと思ったりしました。

 1997年IBM社が作ったチェスAI『ディープ・ブルー』が人類最強のガルリ・カスパロフ(チェス世界チャンピオン)を倒しました。2013年将棋AI『ポナンザ』が佐藤慎一四段(当時)を倒しました。2016年囲碁AI『アルファ碁』が世界トップ棋士の李世ドルを倒してしまいました。

 デジタル音痴の蒼野が平たい言葉で言えば、最近のAIは、日進月歩で、深層学習(ディープラーニング)という脳神経細胞がモデルとなった手順(アルゴリズム)で、データを与えておけば、1人でどんどん賢くなるというものらしいです。ゲームではもう敵わないですよね!

 しかしまだ万能ではなく、「特定の何かを識別する能力は人間を超えるものが出てきた」ということらしいです。別の研究では、電子カルテの記録から小児疾患を識別するAIでは、インフルエンザを含む複数の疾患で小児科専門医の診断精度を超えたとの報告もあります。

 AIは人間の目では識別できない微細な変化までを捉えることができるため、診断画像との親和性が高く、放射線科領域における技術発達が著しいとのことです。手始めに放射線科医が、お払い箱になったりする日が来るのかも知れませんね。

 医療に関するAIの導入には、技術の発展があまりに急な為、法整備が遅れている面が現実的にある様です。保険適応されなければ、病院の採算は取れないと思います。またAIの検証が人種によっても違ったりするため、アメリカ人で検証されたAIアルゴリズムが、日本人に有効で無い可能性はあるのです。

 AIを使う側の問題もあります。最初から書いているように蒼野はAIのことは分かっていません。医師をはじめとした医療者も、ある程度のAIに関する知識が今後必要不可欠となりそうです。医師のカリキュラムに、AIの授業が入ってくるのも、もうすぐかも知れません。

 本当に激動の時代に生きているのだなあと感じます。様々な分野でAIの方が効率的で、コストパフォーマンスが良く、人の力が要らなくなる分野が増えてくるのだろうと思います。しかし、それに対応する様々なイノベーション、新しいものを作り出せるのは人間だけです。

 将棋の世界でも、プロ棋士はAIに9割がた負けるそうです。しかし人と打たずに1000局、AIと打ち続けることで、6冠を達成した最強棋士の1人である豊島将之さんとか、従来のソフトとは異なる“ディープラーニング系将棋AI”を研究し続けて、従来AIソフトの最善手とは違う指し方をする藤井聡太さんの活躍は、皆様ご承知の事と思います。

 しかし藤井さんは、将棋の真理に到達するまでにはどういった道のりがいいのか、常に考えているというマインドがあるからこそ、あらゆる方法で研究し、これまでの人間のレベルとは違ったレベルに到達しつつあるのが事実の様です。

 AIをどう使いこなすのか、それを使ってどうなりたいのか、何が実現したいのかということを考えながら、新しい事を勉強してゆきたいなあと思っている蒼野でした。

参考論文: Outcome Prediction in Patients with Severe Traumatic Brain Injury Using Deep Learning from Head CT Scans  

Radiology  Apr 26 2022    https://doi.org/10.1148/radiol.212181

もし記事が良かったよ!と思われた方は蒼野健造公式ラインのボタンをポチッと押して、ご登録くださいね。ライン登録された方で希望される方は、オンライン面談での相談に乗りたいと思っております。