うつ病の科学

2021/11/21

 セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン。いずれも大切な脳内伝達物質ですが、うつ病はこの3つの物質が欠乏することと密接に関わっていると考えられています。抗うつ剤はこれらを補うことで改善を図る薬です。

 セロトニンは、悩みや不安を和らげ、心と落ち着かせて冷静な判断や、強い精神力の源になります。セロトニンが欠乏すると、機嫌が悪くなったり、不安になったりします。

 ノルアドレナリンは、やる気や注意深さ、集中力を促します。欠乏すると疲労を覚えたり、気持ちが滅入ったりするのです。

 ドーパミンは脳の報酬系の中心物質であり、喜びや意欲、活力の源になります。集中力や意思決定に関わります。

  現在、世界中で処方されている抗うつ剤は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)や SNRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などであり、一度放出されたセロトニンやノルアドレナリンの細胞内への再取り込みを阻害することで、脳内のセロトニンやノルアドレナリンの濃度を上昇させ、神経伝達をスムーズにし、抗うつ作用、および抗不安作用を期待する薬です。

 足らない物質を補えば治る?? うつ病がこれらの薬で良くなれば、素晴らしいことですが、それほど簡単ではありません。脳内物質はこの3つだけではありませんし、同じうつの状態でも、人によって、その物質が、どのくらい不足しているのかは個人差があります。脳は複雑なネットワークで動いているのです。

 薬を投与すると、すぐに脳内物質の濃度は上昇しますが、気分が楽になるまでには、数週間かかります。タイムラグがあるのは、うつ病の症状を最終的に取り除いている物質が、『BDNF』(脳由来神経栄養因子)であるためだったのです。

 これは、脳内最強とも呼べる物質で、脳細胞が傷ついたり、死んだりしないように保護する物質です。BDNFが豊富な状態だと、有害な物質による脳細胞の損傷を避けられるのです。新たに生まれた脳細胞を助け、初期段階の細胞の成長や生存を促します。脳細胞の連携を強化し、学習や記憶の力も高めてくれるのです。驚くべきことに、前頭葉や海馬の細胞を増やして、脳を大きくしてくれる効果まであります。そのほかにも、挙げればキリがないほどのメリットのある、脳の天然肥料なのです。

 研究ではうつ病の人のBDNF濃度は低く、自殺した人は、かなり低値になっています。神経症患者でも低いことが確認されています。残念ながら、脳内にBDNFを補給する方法が、見つかっていません。錠剤では胃酸で溶けてしまいます。注射で血液中に入れても、脳血液関門という脳のバリアを通過できません。頭蓋骨に穴を開けて注入すれば可能ですが、実際には難しいでしょう。

 しかしこのBDNFを増やせる自然な方法があるのです。ダカダカダカダーン!!!

運動です。運動ほどBDNFを増やしてくれるものはないのです。定期的に運動していけば、その度に生成量も増えてゆきます。運動をやめても、2週間程度は維持されるのです。

 BDNFを増やせる運動は、有酸素運動です。毎日する必要はありません。大量に増やしたい場合には、インターバルトレーニングです。HIIT(ハイ・インテンシティ・インターバル・トレーニング)などは最適と言われています。20秒から60秒の高強度の運動とその半分の10秒から30秒ほどの休憩を繰り返すトレーニング方法。そのため、時間を最小限にしようとすれば、たったの4分でトレーニングを終えることができます。

 最も肝心なことは、心拍数を増やすことだと言われています。運動習慣がない人は、ウォーキングからでも、BDNFは分泌されます。歩くのに慣れてきたら、少し大股、早足にしてゆきましょう。心拍数が上がってくるはずです。怪我が少ない点からはフィットネスバイクなどもお勧めです。

 ストレスの多い現代社会では、抗うつ剤は世界中で爆発的に売れており、何百万人という人が服用しています。しかし研究では服用した人の3分の1の人には、全く効果が無く、3分の1の人では効果は十分ではありませんでした。一時的に気分が晴れても、症状が回復しなかったのです。逆に副作用の睡眠障害や喉の渇き、吐き気や性機能障害なども多くの人に認められ、副作用のために服用をやめる人も沢山います。

 156名のうつ病患者の研究で、抗うつ剤グループ、週3回30分運動するグループに分けた実験では、4ヶ月後、抗うつ剤のグループと、運動のグループの回復率は変わりませんでした。さらに半年後、うつ病の再発に関しては、運動グループでは8%でしたが、抗うつ剤グループが38%だったのです。

 莫大な費用をかけられ、マーケティングされる抗うつ剤に比べて、運動で良くなり、再発も少なくなるという情報は、薬関連の企業や学会にとっては『不都合な真実』です。マスコミで報道されることも少なく、あまり知られていないのも、仕方ないのかもしれません。

 その後も良心ある研究者(研究費用を出す企業はありません)による論文が何本も発表され、そのうち25本のレビューで『運動によってうつ病が予防できる』という結論が出されています。

 最近、気分が落ち込んで、やる気の出ないあなた! 外に出て走りたくなったのではないでしょうか? 怪我をしないよう、柔軟体操をしてから、少しずつ運動を始めましょうね!

 そして、極度の疲労感で、朝起きられず仕事にも行けない、不安でたまらず、夜眠れない、食欲が落ちて痩せる、反対に食べても満足できず急激に太る、など計り知れない苦悩を抱えているあなた。朝日を少しでも浴びることから始めましょう。それができたら、5分でも良いので外に出て歩きましょう。30分早足で歩けるようになって、数ヶ月すれば、うつ病はかなり改善しているはずです。小さな一歩で良いので、始めてみてくださいね!

参考書籍: BRAIN 一流の頭脳 アンダース・ハンセン

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