減らしたいトランス脂肪酸!

2021/12/12

 さて昨日は脂肪酸について書かせて頂いたのですが、引き続き今日は、皆様も気になるトランス脂肪酸について書いてみたいと思います。

 これは不飽和脂肪酸に水素を添加することで、通常は液体である油を、常温で半固体~固体になるように加工したものです。水素を添加することで不飽和脂肪酸の二重結合の数が減り、飽和脂肪酸の割合が増えます。この時に、水素が炭素に対して同じ側についたシス型と、反対側についたトランス型の脂肪酸が出来ます。

 これは動物性脂肪から作るバターのなどと比べ、腐りにくくて保存性も良い上、とても安いのです。自然界の中にも少量のトランス脂肪酸は含まれているのですが、工業的に水素添加された油には、自然界にない割合のトランス脂肪酸が入っており、これが資本主義社会では、原材料コストカットのためにどんどん使われているのです。

 少量であれば、問題はありませんが、細胞膜や脳、神経系の主な材料である、通常シス型の脂肪酸が、トランス脂肪酸に置き換わると、細胞膜の透過性が変化したり、脳神経系の活動に支障が出たりすることは、容易に想像できるように思います。実際に、2017年には、トランス脂肪酸が炎症を起こし、細胞死を促進するという研究が出ています。

 トランス脂肪酸を過剰に摂取した場合の健康への悪影響について、諸外国では、冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症等)を増加させる可能性、肥満、アレルギー性疾患(喘息、アレルギー性鼻炎等)についての関連性、妊産婦、胎児への影響(胎児の体重減少、流産等)などが報告されています。

 WHOによる推計では、年間50万人が、トランス脂肪酸の過剰摂取による心血管疾患で死亡している、とされますが、他の病気に関しても、今から分かってくる可能性があり、がんや糖尿病といった重大な疾病との関係性も疑われています。

 WHO (世界保健機関)は、心血管系疾患リスクを低減し、健康を増進するための勧告(目標)基準として、トランス脂肪酸の摂取を、総エネルギー摂取量の1%未満に抑えるよう提示しました。総エネルギーの1%のトランス脂肪酸の量は、年齢、性別などにより異なりますが、1日当たり約2グラムに相当します。

  2003年には、ナビスコ社のオレオに含まれるトランス脂肪酸は、子供が食べると危険だと訴訟が起こり、同年、マクドナルド社に対しても訴訟が起こりました。その流れを受け、アメリカでは2006年にトランス脂肪酸の表示を義務化し、2013年にはFDAがトランス脂肪酸の使用規制を発表、2018年6月以降の原則使用禁止を発表しました。アメリカだけではなく、デンマークやスイス、オーストリアなど各国が、規制や流通の禁止を行っており、アジアでも中国、韓国、台湾、香港が表示を義務付けています。

 WHOは、2018年5月14日、トランス脂肪酸をとる量の目標とは別に、加工食品中を製造するときにできるトランス脂肪酸の規制を重視し、食品中のトランス脂肪酸濃度の上限値(脂質100 g当たりトランス脂肪酸2g以下)の設定や、部分水素添加油脂の食品への使用の規制を推奨しています。

 こうした規制を導入する国の数は、食事から脂質やトランス脂肪酸を、多くとっている国を中心に増えつつあり、WHOによると、2015年には7か国でしたが、2020年には14か国になり、2021年には40か国に達したと報告されています。一方、低所得国や、トランス脂肪酸摂取による冠動脈疾患の負荷が大きい、と推定される上位15カ国のうち10カ国において、こうした規制の導入に至っていません。

 一方日本ですが、2018年のWHOの、国別の取り組みのデータでは、取り組みもなくデータもないとされています。だいぶ昔になりますが、一度、農林水産省が、平成17-19(2005-2007)年度に、調査した結果、日本人がとっているトランス脂肪酸の平均的な量は、総摂取エネルギーの0.44~0.47%に相当する量でしたので、問題ないとされ、いまだに規制も表示義務もないのです。更に、消費者庁では食品100gあたり、清涼飲料水では100mlあたりのトランス脂肪酸が0.3g未満の場合は0gと表記できることになっているのです。蒼野は調べていて、ゾッとしてしまいました。

 そして日本で、トランス脂肪酸の影響に関する研究が進まない理由も、沢山ある様です。お金にならない上、食事の研究自体が難しいため、多額の研究費を出す企業も、個人もいません。合成油脂のメーカーは絶対にやらないでしょう。公的研究機関も、国の経済活動を低下させるような、食品の有害性の研究には積極的ではありません。大学も産学協同で民間企業からの資金導入が必要なので、民間企業の嫌がることはやりません。

 我々は、世界での研究が進んで、社会が変わるまでは、自分で自分の身を守るしかない様です。何に沢山入っているかを知り、それを避けることが重要です。

 第1位はショートニング:13.574g/100g  第2位以下はマーガリン、ファットスプレットが続きますが、業務用のものほど、沢山入っている様です。家庭用のマーガリンは国民が気にする様になってからは、含有が減っている様です。

 お手頃価格のパン、ドーナツ、クッキー、ケーキ、スナック菓子、インスタントラーメンなどに入っている植物性油脂は、ほぼ業務用の水素添加脂肪酸だと思って間違いありません。

 業務用の油の中には、熱酸化を抑える加工をした油を使用していることがあり、トランス脂肪酸が多く含まれます。そのため、コストカットが徹底したチェーン店やファストフード、コンビニ、ファミレスにある揚げ物は、含有が多い傾向にあるようです。

 日本ではトランス脂肪酸の表示義務が無いですが、表示を見る際には、加工油や植物性油脂、食用調合油など、といった表示を見て避けることはできます。コールドプレス製法で製造された油は、危険性が低いので、購入の際は製造方法も確認すると安心ですね。

 最後に、日本でも、一つ研究がありました。九州大学の久山町研究で、血清中のトランス脂肪酸(エライジン酸)濃度の上昇で、全認知症およびアルツハイマー型認知症の発症リスクは、ともに最大で1.6倍に上昇したとのことでした。

 『蒼野のせいで、外食も買い物も、しにくくて仕方がない』と、怒らないでくださいね! 忙しいとは思いますが、何とか時間をやりくりして、自炊した料理の割合を増やしてゆきましょうね!!