蒼野は4月に、62歳になりました。例にもれず、いつの頃からか、夜おしっこに起きるようになりました。以前2回起きていた時は、熟睡感が無く、調子がいまひとつでしたが、最近は1回だけで、ぐっすり眠れるようになっています。今日はおしっこについて書いてみたいと思います。
正常な排尿というのは、「尿が膀胱いっぱい溜まる⇨尿がスムーズに出る」で成り立ちます。尿意を感じることが多くなったり、急に行きたくなったり、夜間の回数が増えたり、排尿に時間がかかったり、というのは、正常ではない排尿と言えます。
正常でない場合は『排尿障害』と言って、医学的には、1、「膀胱が一杯ではないのに尿意がある」(尿が近い、間に合わない気がする)という場合と、2、「尿の出が悪い』(尿が細い、排尿時にいきむ必要がある、残尿感がある)という場合があります。
1、のおしっこが近い場合の要素は、膀胱の柔らかさと尿意を感じる神経の影響が考えられます。膀胱内圧が高まると、それを神経が感じて、尿意となります。膀胱が軟らかいと、尿が十分(150ml程度)たまるまで、中の圧力は高くならず、尿意は感じません。膀胱が硬くなると、ちょっと尿がたまっただけでも、尿意を感じるということです。
膀胱の硬さは、膀胱の血液の流れと関係があるため、動脈硬化が進むと、尿が近くなります。糖尿病は動脈硬化の大きなリスクですので、その合併で悪くなりやすいようです。歳をとると、老化で動脈硬化が進み、おしっこは近くなりやすいのですね!
統計を見ると50歳以上の方の過半数は、夜中に1回はトイレに行くとのこと、蒼野は正常範囲のようです。男性では、夜間排尿回数が2回以上の人は、50歳代で20%、60歳代で40%、70歳代で60%、80歳以上で80%で、悩んでいる方は加齢と共に、とても多くなります。
年齢とは関係なく、尿意が感じやすくなる因子はストレスです。ヒトは強いストレスを感じると、交感神経の働きが亢進します。交感神経は、尿意を感じさせると同時に、膀胱の尿の出口と尿管を締めてしまいます。夜間、何度もおしっこに行くのに、少ししか出ないという時は、ストレス過多の状態かもしれません。
交感神経は大きなストレスだけではなく、車の運転や人混みを歩くこと、スマートフォンやパソコンを見ること、寒さなどでも活性化します。冬になるとおしっこが近くなるのも納得ですし、やはり寝る前にブルーライトを目に入れるのは、おしっこから見ても、不眠の原因となり良くないのです。
2、の尿の出が悪い場合ですが、ここに関与するのも交感神経です。交感神経は尿の出口を締める作用があります。トイレが混んでいて、後ろに人が沢山並んでいる時、早くしないとと思うと、なかなかおしっこが出ずに焦る、というのは、蒼野も記憶にあります。
高齢になると、男性は前立腺が肥大して、膀胱から続く尿道を圧迫しやすくなります。前立腺は交感神経が亢進すると、さらに尿道への圧迫が強まるため、歳を取るにつれておしっこが出にくい場面が増えてくるのです。ひどい場合は、交感神経が尿の出口を締める働きをストップする、「α1阻害薬」という薬が必要になります。
逆に、尿の出口を緩める作用があるのが一酸化窒素(NO)という物質です。NOは、血管や神経でアルギニンというアミノ酸から作られる物質で、全身の平滑筋を緩める重要な作用があります。高血圧、糖尿病、動脈硬化症、うつ病、そして排尿障害では、すべてこのNOが減少しています。
NOが減る原因は、活性酸素による酸化と、糖化です。活性酸素は、カロリー過多の食事、喫煙、紫外線、放射線などで増加します。糖化は、高血糖、高果糖、揚げ物、飲酒などで進行するのは皆様ご存知ですよね! 酸化と糖化による老化の進行が、排尿状態を悪くさせます。
NOを増やすのに有効なのが運動です。少し心拍が上がる程度の早歩きで、効果があります。運動の後は、交感神経も落ち着きます。ストレッチや、ゆっくり入浴するのも有効です。ストレスコントロールにも、お勧めですので、毎日の生活に取り入れてゆきましょう。
夜中に3回以上トイレに起きる状態は「夜間頻尿」と言われ、改善が必要な状態です。おしっこで睡眠が中断されると、翌日の体調は優れませんよね。70代の男性で30%くらい、女性では15%くらいが、治療が必要な「夜間頻尿」に悩まされているようです。このために水分摂取が少なくなるのも大きな問題です。
北欧の研究で、高齢者の集団を4年間追跡したところ、「夜間頻尿」の方はそうでない方よりも、なんと2倍多く亡くなっていた、という衝撃的な結果が出ています。夜中に何度も起きてトイレに行くと、転倒して大腿骨骨折を起こすリスクが高くなります。大腿骨骨折は、寝たきりになりやすく、最終的に肺炎などを起こし、寿命に影響するのです。
若い人の夜間頻尿も注意が必要です。「睡眠時無呼吸症候群」との関連が注目されており、30代以下なのに必ず夜中にトイレに行く、という方は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。いびきが大きい、肥満しているなどのリスクがあれば、一度睡眠外来を受診することをお勧めします。(睡眠時無呼吸症候群 1月20日ブログ参照)
尿量自体がいつも多いという方は、水分摂取が多い方が多いのですが、中には糖尿病や心臓病、腎臓病などが隠れていることがあったり、脳腫瘍などで抗利尿ホルモン(ADH)分泌が障害されて尿の濃縮ができず、多飲・多尿となる尿崩症などの場合もあるため、気になる方は、泌尿器科で相談されてみてはいかがでしょうか?
2015年のイグノーベル賞(物理学賞)で、体重が3kg以上ある哺乳類は、どれも約21秒で排尿しているという研究があります。身体の大きな動物も小さな動物も、おおむね21秒なのだそうです。興味深い現象ですし、何か理由がありそうなのですが、まだ明らかではありません。
ヒトも生殖年齢では、ほぼ21秒で排尿しているとのことです。しかし高齢になると、男女とも膀胱の筋力が低下し、男性はさらに前立腺の肥大によって、排尿を21秒で終えることが難しくなります。おしっこの時間が長くなるのは、加齢の度合いを反映しているのです。
前立腺を手術で摘出した男性は、排尿時間が21秒以下に一気に減少します。海外の研究では、前立腺を摘出した男性は、一般の男性よりも長生きであるというデータがあり、血液データでも、元気が出るテストステロンの値が上昇し、精力が戻る人もいる様です。(全員ではない様です)
高校生の時のように、気持ちよくおしっこができる様になることに、アンチエイジング効果があり、若返るのかもしれないというのは、蒼野もとても面白く感じました。
今日は脳とはあまり関係のないおしっこのことを調べてみて、自分自身とても勉強になりました。おしっこの症状も、酸化、糖化、ストレスの影響が大きいのですね。やはり健康長寿につながる方法は一つなのだと思います。
事故後に色々考えていた時は、何度も夜中におしっこに行っていたなあ、と思い出した蒼野でした。
参照記事: 順天堂大学大学院教授、泌尿器科 堀江重郎
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