かつてのがん治療!

2022/09/07

 今日はもしも皆様が、がんと診断された時に知っておいて欲しいことについて書いてみたいと思います。「患者よ、がんと闘うな」などの著作で知られる近藤誠医師が、8月13日に73歳で亡くなられました。がん治療は必要無いという、ちょっと独自で過激な主張は、蒼野も強く印象に残っています。まずはご冥福をお祈りします。

 日本のがん医療に一石を投じたと言われる近藤理論は、癌と呼ばれている腫瘍には、「本物のがん」と「がんもどき」があり、本物のがんは見つかった時点で既に転移しており、治療しても治らない。一方のがんもどきは治療しなくても生命を奪わない、というものです。

 1993年に逸見政孝アナウンサーが、著名人で初めて癌を世間に公表し、壮絶な手術治療の3ヶ月後に亡くなられました。当時は癌は不治の病で、治療の選択肢も副作用の多い危険なものだったと思います。蒼野も畑違いではありますが、まだ機能している臓器の転移巣を全て取り去るような大きな手術をしなければ、もっと長く生きられたのではと思ったことを覚えています。

 そんな中、近藤先生の主張は1995年あたりから始まり、がん検診で見つかるがんは「がんもどき」なので、早期発見する意味はない。もし癌だった場合には、すでに転移しているので、手術しても治らない。抗がん剤にはがんを治す力はなく、元々が毒なので、むしろ副作用のために寿命は縮むため、がんと診断されたら治療せず放置するのが一番だと主張されました。

 本物の癌であれば、治療すると、副作用で苦しんだ上、体力が奪われ、治療しない場合よりも早く死ぬ。がんもどきであれば、治療しなくても死なない。だから治療せずに放置するのが得策なのだという論理です。これは癌治療に医療不振のある患者やその家族にとっては、大きな支持を集め、それに従う患者様も少なくは無かった様です。

 蒼野の父親は広島で被曝たためか、5種類もの様々ながんに罹患しました。超早期で食道がんが見つかったのがちょうどこの頃でした。食道がんの症例数が多い東京の病院に手術をお願いしました。術後1回目の抗がん剤治療で、見ていられないほど弱ったのを見て、蒼野も2回目の治療は拒否することを決め、助言しました。その後10年以上生きたので、選択は正しかったと思っていますし、注目していた近藤先生の主張も影響していたのは確かです。

 その後の研究で、確かに超早期の、周囲に浸潤していない癌の場合、(近藤理論でいう「がんもどき」の場合)無治療で経過観察した報告では40~58%でがんの自然縮小が見られた一方、3~5%で浸潤がんになることが報告されました。しかしそれを見ても、主張は変えませんでした。

 時代は進み、がん治療はどんどん進化しました。効果のある抗がん剤も開発され、生存期間は伸びています。がんは今や3~5割は治癒させられる疾患となってきています。がんの治療成績が良くなるにつれて、近藤理論は、一般的な医学常識からは認められない方向に向かってしまいます。さまざまな理由で、最初の主張を自身で翻せなかったのだと思います。

 しかし、独自の理論を主張する前には、米国留学から帰国後、当時はタブーとされていた、がん告知の意義を広めたり、乳癌の乳房温存療法を導入したりと、自分が良いと思った先進的な考え方を次々と日本に紹介された先生だった様です。患者様に手術等の治療のデータを詳しく説明した上で、治療法を選んでもらうという事を始めたのも近藤先生でした。

 患者様に病名をはっきりと告げ、それぞれの治療法のメリットとデメリットをきちんと説明した上で、治療法を患者自身に選んでもらうという方法を実践し、多くの患者が乳房温存療法を選択し、遜色ない治療成績を収めることを証明したのも近藤先生の功績です。

 患者様と真摯に向き合うことで、現在では当たり前の、インフォームドコンセントの考え方が広がることにつながりました。まだ臨床試験の質が低かった日本で、クレスチンという抗がん剤の臨床試験結果の誤りを指摘し、効果がないと訂正したことも、功績の一つです。

 若い頃は聡明で、素晴らしい先生だったのだろうと思います。1995年からの10年に及ぶ執筆活動に入ってからは、医療の常識を覆し、医療界の権威を挑発、否定する方向に向かってしまったのは、何があったのでしょうか? 確かにその著作は、ベースに医療不信を抱いている読者の共感を呼び、その治療に大きく影響しました。

 蒼野も当時の悪性脳腫瘍治療を見ていて、家に帰れず、病院で治療の副作用に苦しみながら亡くなる患者様たちを見ていると、自分の家族がもし同じ病気になったら、抗がん剤治療は勧めないと思っていた事があります。そこには西洋医学の限界を感じていたのです。だからこそ、父親に抗がん剤治療をやめる様、話しました。

 しかし時代は変わります。新しい治療や知見が出てくれば、考え方も変えなければいけません。明日素晴らしい治療が出てくるかもしれないのです。しかし近藤先生は2013年に、セカンドオピニオン外来を開設し、過去の考え方を、患者様に伝え続けました。この時期には、公平な立場からのインフォームドコンセントでは無くなっていたと思われます。

 そこが蒼野としてはとても残念に思います。現場の医師からは「本を読んでがんを放置した結果、死んでゆく患者がいる」「救える命も救えなくなる」などの批判が出てくるのも当然かもしれません。また50冊以上出した医療批判の著作によって、億単位の印税を受け取っています。

 また著作はあっても、独自理論についての学術論文は書いておりません。若い頃は、患者に寄り添い、謙虚に向かい合っていたのだと思いますが、著作活動をして行くにあたって、そこからかけ離れ、読者が驚いて共感する、人と違う斬新な主張にはまっていったのでしょうか? 胆管がんを発症した女優の川島なお美さんが、近藤医師の助言に従ってがんを放置し、その後自著でこれを批判しつつ亡くなられています。

  2018年のデータでは、日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、男性65.0%、女性50.2%です。また2020年の日本人ががんで死亡する確率は、男性26.7%、女性17.9%でした。すごい数値ですね。蒼野は残りの35%に入れるよう努力したいと思います。しかしもしなった時には、きちんと病状を把握した上で治療法を選びたいと思っています。

 紙面がなくなってきたので明日に回しますが、がん治療も今までスタンダードだった「手術療法」「放射線療法」「化学療法」以外の素晴らしい方法が出てきています。副作用もどんどん軽微になってきている様です。がんが克服できる未来も近づいてきています。

 近藤先生の記事を読んでいて、他山の石としたいと思いました。どんなに歳を取っても、新しい知識は入れ続ける必要があるということと、それを元に考え方は柔軟に変えて行く必要があるということです。自分がまだ生きていられる間は、医師として患者様に一番良いと思われることを紹介し続けたいと思う蒼野でした。

参照ページ: Wikipedia    近藤 誠    https://ja.wikipedia.org/wiki/近藤誠

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