これからのがん治療!

2022/09/08

 昨日はこれまでの癌治療について、その考え方の一部をお伝えしたのですが、今日はこれからの癌治療について、簡単に解説したいと思います。調べてみると、雨後の筍の様に、有望と思われる治療が次々に出て来ており、一部は保険収載もされてきています。

 まずはがんがどうして出来るのかから知っておく必要があります。我々の細胞は日々分裂し、新しい細胞で作り替えられています。何らかの原因で遺伝子が傷つき、異常が起こると、分裂増殖の抑制が効かない細胞ができることがあります。通常は免疫により、異常な細胞は排除されて無くなってしまいますが、その免疫をすり抜けて、異常な細胞が増え続け、広がったものががんと呼ばれるのです。

 これに対しては、手術で異常な細胞を除去する。放射線で異常な細胞を殺す。抗がん剤で異常な細胞を殺すというのが従来の治療でした。現在は第4の治療として免疫療法があります。癌になるのは免疫を回避してそれをすり抜けた細胞です。免疫にブレーキをかける機構を持ったがん細胞に対して、ブレーキを外して、免疫を活性化する薬が出て来ています。

 がん細胞を攻撃するT細胞は、自分の身体の細胞を攻撃しないように、PD-1という免疫チェックポイント、つまり免疫のブレーキをかける分子を持っています。一部のがん細胞は、PD-L1という物質を作り、これがPD-1に結合することで、T細胞の攻撃を免れる機構を持っています。あらかじめPD-1に結合する薬で、がん細胞のPD-L1が結合出来なくなると、T細胞ががん細胞を攻撃できる様になります。

 これがノーベル賞の本庶佑先生が発見した、免疫チェックポイント阻害剤であるオブジーボです。従来の抗がん剤とは異なり、直接細胞を攻撃する薬ではありませんので、正常細胞への影響は無く、今まで見られていたような、副作用が見られないのです。しかしこれだけでは完治しないため、複合治療が模索されているところです。

 T細胞のブレーキを外すのが免疫チェックポイント阻害剤なら、T細胞のアクセルを吹かせて、超強力にしてがん細胞をやっつけるのが、CAR-T療法です。患者さん自身の免疫細胞であるT細胞を取り出して遺伝子を改変し、がん細胞に特異的に結合して殺す細胞として増殖したのち、身体に戻します。現在難治性の一部の白血病に保険適応が収載されました。1回の治療で7~9割が完全寛解するという驚くべき効果を示しています。

 また免疫細胞の司令塔である樹状細胞を患者さんから取り出し、がんの目印(抗原)を取り込ませて体内に戻す治療法が、樹状細胞ワクチン療法です。体内に戻った樹状細胞はリンパ球にがんの目印を教え、がん細胞を攻撃するように働きかけます。これも理にかなった、素晴らしい方法ですが、臨床的には十分な有効性はまだ蓄積されておらず、保険適応外の治療になります。

 脳外科領域では、先日ご紹介した、光線力学療法の他に、腫瘍溶解性ウイルス療法という治療が、2021年に承認されました。単純ヘルペスⅠ型を、正常細胞には感染せず、がん細胞にだけ感染する様に遺伝情報を改変した上で、投与します。ウイルスの増殖力を利用して、がん細胞だけを殺す治療です。

 脳のがんの中で最悪の悪性神経膠腫に応用したところ、従来の治療では約15%だった1年生存率が84%に向上したという結果が得られ、保険で承認されました。破壊されたがん細胞が抗原となって、体内の免疫システムが刺激される効果も加わり、がんに対する免疫細胞の攻撃力が高まるため、転移や再発にも効果が期待される新しい治療です。

 そして現在最も注目されているのは、第5のがん治療である光免疫療法です。がん細胞にだけ選択的に結合する作用を持った抗体に、近赤外線や低反応レベルレーザーによって化学反応を起こす特殊な物質を閉じ込め、静脈注射や点滴で体内に投与します。抗体ががん細胞に届いて結合した時点で、光を照射すると、化学反応を起こし、がん細胞の細胞膜が壊れ、細胞が弾けて死んでしまうのです。

 過去ブログでご紹介した、光線力学療法との違いは、5-ALAのような光増感剤は、一旦すべての細胞に取り込まれるため、光増感剤が残っている細胞は、光照射で活性酸素を生み出して障害されてしまうことです。がん細胞と正常細胞では、細胞内からの排出速度が違うため、がん細胞が傷害されやすいという特性があり、臨床応用されています。

 しかし光免疫療法では、がん細胞特有の抗原に対して、特異的に光に反応する色素であるIR700を抗体を介して結合させるため、正常細胞の障害が起こりません。抗体をつけたIR700自体は、通常投与量で毒性はありません。光照射時のみにIR700-抗体複合体が結合したがん細胞のみが、1~2分で物理的に破壊されるのです。

 しかも弾けたがん細胞のかけらが抗原となって、近くに居る免疫細胞を活性化するため、がん免疫の強化作用も併せて持っているのです。光免疫療法後に生き残ってしまったがん細胞に対しても、さらに攻撃が続くことになります。遠隔転移にも効果が期待できます。今後様々のがんに対しても、それぞれの特異抗体とIR700を組み合わせることで、効果が期待できるのです。

 現在保険収載されている、切除不能な頭頸部扁平上皮がん患者を対象とした試験では、がんが完全に消えた完全奏効が13.3%、がんが30%以上縮小した部分奏効が30.0%、合わせて奏効率が43.3%という高い治療成績を示しました。現在適応拡大に向けて、様々な臨床研究が進んでいます。

 血流に乗って転移するがん細胞にも、IR700-抗体複合体を結合させた上で、手首や首などの皮膚表面に近い血管に、ウェアラブルな、光照射のブレスレットやネックレスを装着し、光線を照射することで、転移が防げる時代も来るかもしれません。機器が発達すれば、直接血管の中に入れるステントなどから光を照射することも可能になると思います。

 深部の癌には、腫瘍内から照射できる装置を埋め込み、消化管や気管支の癌には、内視鏡で照射できる装置ができると思います。さらに上記の免疫チェックポイント阻害剤等の、違う治療を組み合わせることで、さらに治療成績は上がるように思います。

 もちろん現時点では、しっかりした検証がありませんので、夢物語の様に感じるかもしれませんが、近い将来には、がんは克服される可能性がありそうですよね! 本当に医学や科学技術の進歩は素晴らしいです。残されるのはコストの問題です。実は新規のがん治療は高額です。

 オブジーボも高額です、承認当初はもっと高かったのですが、現在は年間の薬剤費が約1090万円です。3割負担では300万円、高額療養費制度の利用で、年間60万円くらいになります。CAR-T療法はもっと高額です。1回で済むことは多いのですが、3349万円かかります。樹状細胞ワクチン療法は1セット5~7回の投与で約200万円です。保険の適用はないため全額自己負担です。

 悪性神経膠腫に対する腫瘍溶解性ウイルス療法は、6回フルに行った場合、約860万円です。保険適応ですので、高額療養費制度の利用で、年間60万円は変わりません。最後の光免疫療法は、1クール6回あたり180万強を要します。他の薬と比べると安く思えます(でも高いです)。もちろん保険収載の、一部の頭頸部癌以外は現在も、全額負担です。

 調べてみると、がんの未来は明るい感じに思える蒼野です。免疫を逃れて大きくなるがん細胞を、強化した免疫で、追い詰めてゆく方法は、理に適っていますし、期待が持てる方法だと感じました。あとはこれらの治療にも対応してくれる、民間保険に入るだけ?でしょうかね。しかし先進医療と言っても、自由診療も補償する保険でなければ、認められない様ですので、気になる方は確認してみて下さい。

 現時点では、癌にならないよう、免疫力を高く保つ生活習慣を続けてゆくことが、一番良いという結論になりそうですよね!

参照ページ: 光免疫療法とは    https://www.symphotony.com/photoimmunotherapy01/

過去ブログ:

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