めまいを訴えて、蒼野の外来にも沢山の方が訪れます。薬を飲んでもなかなか良くならないという方も沢山おられます。めまいは医者泣かせの疾患で、耳鼻科をはじめとして、様々な科が取り扱うのですが、原因が多岐に渡るため、担当科のめまい以外のめまい患者様が来院されると、よくわからないまま、めまい薬が処方されることも多いのです。
一般的には、めまいと言えば、『メニエール病』という認識がある方が多いのではないでしょうか? めまいに関心の無い医師は、今でもそう思っている方も多いように思います。平衡感覚を司る、三半規管は内耳にあり、めまいの大半は耳鼻科疾患であると思われている方も多いのです。しかし、耳鼻科で出される薬でめまいが治る方は一握りです。
現在、西洋医学的に、一番多いと言われているめまいは、『良性発作性頭位めまい症』と言われる、三半規管の中にある、平行斑と呼ばれる部分にある耳石が、剥がれて、三半規管の中を漂うことで、通常のリンパ液だけでは起こり得ない刺激が、前庭神経に伝わることで、突発的にぐるぐる回るめまいが起こり、耳石が排出された後しばらくは、頭を動かすたびにふわふわした感じが残ります。耳石が浮遊している間は、動けず、嘔吐も見られるのが特徴的です。
しかし蒼野の35年間の経験では、耳鼻科領域以外のめまいが圧倒的に多いように感じています。動くたびにふわふわしたり、何でも無い時にふらっとしたりするめまいです。今日は簡単にはなりますが、そういうめまいの原因や治し方についてお話ししたいと思います。
現在、蒼野が一番多く遭遇するめまいは、ベースとして肩こり、首こり、運動不足、ストレスと自律神経失調が存在しているめまいです。ぐるぐる回るめまいではなく、朝ベッドから起きるとクラッとする、頭を動かすとグラグラする。歩いていると地面が雲の上のようにふわふわするなどと訴えられる、浮動性めまいです。
これは若年から中年くらいまでの方に多く見られ、パソコン、デスクワーク、スマホなどが多い生活をされている方に見られることが多いです。スマホ首、パソコン首と言われる、ストレートネックが、ほとんどの方に見られます。姿勢が悪いことが多く、運動不足で、肩首が凝っています。別名として、頚性めまいと言われることもあります。
首肩が凝ることによって、脳へ血流を送っている椎骨動脈の周囲にある交感神経が刺激され、椎骨動脈が若干収縮することによって、めまいの中枢である、前庭神経核への血流が低下すると、機能低下が起こります。ちょっとした体動などにも、タイムラグなく反応することができなくなるため、少しの動きでもフラッとしたり、グラグラしたりするめまいが起こるのです。
もう一つは、動脈硬化が進行した、生活習慣病リスクが高い中高年や、高齢の方に多くなる、椎骨動脈の血流低下から、脳幹(前庭神経核を含む)や小脳の機能低下が生じて、浮動性めまいを生じるパターンです。これは特に首肩が凝ったり、全身の血流が悪くなることをきっかけに、症状が出現したりします。どちらの場合も、血流低下から脳幹、小脳の機能が悪くなって生じる『中枢性発作性頭位めまい』と考えられる病態です。
浮動性めまいがあると、まず耳鼻科を受診される患者様が多いのですが、西洋医学で最も多いとされる『良性発作性頭位めまい』の後の状態と、この『中枢性発作性頭位めまい』は臨床所見も酷似しているため、ほとんどが『良性発作性頭位めまい』と診断されているように思います。
一般的なめまい薬で治療され、若い人は治ってゆくこともありますが、特に血流低下が強い高齢者では、なかなか治らずに、めまい難民になってしまう患者様も見られます。
基本に立ち戻ると、初診のめまい患者様に必要な検査はMRIとMRAです。頚椎や首の椎骨動脈まで画像を撮っておけば安心です。最初に危険なめまいを鑑別する必要があるからです。聴神経腫瘍、脳梗塞、頭蓋内出血、くも膜下出血、脳動静脈奇形などが無ければ、次を考えます。
聴力障害と、耳鳴りを伴った回転性のめまいは、メニエール病です。これは内リンパ水腫と呼ばれ、内耳にリンパ液が溜まって生じるめまいです。必ず聴力障害と耳鳴りを伴いますので、伴っていなければ、メニエール病ではあり得ません。
病歴をよく聞いて、めまい発症後に嘔吐して寝込み、その後浮動性めまいになっているものは、『良性発作性頭位めまい』を疑います。薬の内服と体操で、回復してゆくと考えられます。
そして『中枢性発作性頭位めまい』です。これは、首凝りやドロドロ血が原因の椎骨動脈の血行不良による、ヘモダイナミックタイプと、元々の動脈硬化による、生活習慣病を基盤にしたヴァスキュラータイプの2種類があります。
その治療ですが、ヘモダイナミックタイプでは、まず首凝りを解消し、脳血流を増やします。
1、猫背の解消や、頭を真上に乗せるような姿勢の保持のための、柔軟性(特にもも裏)の向上
2、長時間の座位を避けて、小まめに立ち上がること、パソコン、スマホ、ゲーム、タブレットなどの時間をなるべく減らすこと
3、少なくともノンカフェインで(体重×40ml)- 1.3Lの水分摂取を行うこと
4、筋緊張緩和剤や凝りをほぐす漢方薬の投与と、肩こり体操を頻回に行うこと
5、漢方薬も含むめまい薬の投与
6、マッサージや湿布、鍼治療などを行います
7、めまいを怖がって動かないでいると、前庭神経核の機能低下が戻らないため、ゆっくりで良いので、前屈や側屈、体回しなど、頭を動かす運動をして慣らしてゆくこと
8、有酸素運動の習慣を取り入れること(可能なら少し汗ばむ運動30分×週4回)
ヴァスキュラータイプでは、上記の対策に加えて、肥満(内臓脂肪や脂肪肝)、糖尿病、高血圧、脂質異常症や喫煙などの、リスクが下がるよう、採血等の結果も見ながら、生活指導(一番大事です)や、薬物によるコントロールを行います。
何年もめまいを抱えている人は、色々トライしてもなかなか改善が見られない人もおられます。蒼野の経験では、以前書いたパイオネックスによる鍼治療(局所血流が改善します)で、長年のめまいが解消したおばあちゃんや、漢方薬に加えて、抗ヘルペス剤を使うと改善した症例がありました。しつこいめまいの時には、前庭神経節に潜伏したヘルペスウイルスが再活性化して生じている場合は少なく無いようです。
メニエール病に関しても、抗ヘルペスウイルスが著効したという報告もあり、免疫力が低下すると、多くの日本人の身体の中に潜伏しているヘルペスウイルスが、さまざまな症状を誘発することが徐々にわかってきています。難治性の頭痛やめまい、耳鳴り、耳閉感などが抗ヘルペス剤で改善することがあるため、特に帯状疱疹とか、口唇ヘルペスなどの既往がある方では、試してみる価値がある治療法ではないかと考えます。
めまいでお悩みの方の参考になれば幸いです。もしお困りで相談が必要であれば、公式ラインでご連絡頂ければ、対応いたしますのでご利用くださいね!
参考書籍: なかなか治らないめまいが治る めまいは耳からとは限らない! 中山 杜人