ウォーキング!

2022/07/20

 今日は日常の運動として、人間活動の中で最も自然な全身運動であり、基本でもあるウォーキングについて、考えてみたいと思います。ウォーキングのさまざまな健康効果については、皆様もご存知とは思いますが、一度改めて振り返ってみようと思ったのです。

 かつてヒポクラテスは「歩くことは人間にとって最良の薬」と言いました。またプラトンはオリーブの木の下を歩きながら講義し、その弟子のアリストテレスも学校の廊下を歩きながら授業をしました。現代でもスティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグは歩きミーティングを採用しています。

 そう聞くと偉人は、歩くことは頭脳や閃き、健康維持にとても重要だと気づいている人が多かったように思います。しかし国民健康・栄養調査(厚生労働省,2014)によれば,歩行を含む運動習慣のある者(30分以上の運動を週2回以上、1年以上継続)の割合は男性33.8%,女性 27.2%と生活に取り入れていない人が多いのです。

 健康になるため、健康寿命を伸ばすためには、栄養、運動、睡眠が大切であることは、皆様はもうご存知ですよね! しかし現代人は忙しすぎて、運動は後回しになりがちです。眠らなかったり、食べなかったりしたら、すぐに体調は悪くなりますが、運動せずにダラダラ過ごしていても、すぐに体調が悪くなる事はないからです。

 歩行についてはさまざまな研究や論文が発表されています。ウォーキングの健康寿命への影響については、1986年に主要な慢性疾患がない女性(看護師)の歩行速度を測定、70歳以上まで生き残った1万3535人の健康状態の関連を調べた研究があります。

 70歳時で、がん、糖尿病、心臓病、認知症などの大病に罹らない、サクセスフルエイジング達成率は、中年期の歩行速度が時速3.2km未満のゆっくり歩きの人の健康状態を1とすると、時速3.2~4.8kmの普通のスピードで歩く人は1.9、時速4.8km以上の早歩きができる人は2.68と、早く歩けた人ほど、70歳になっても元気な人が多いという結果が出ています1)。

 また65歳以上の男女3万4485名を6~21年間追跡調査したピッツバーグ大学の研究でも、65歳男性で、時速5.76kmで歩行できる人の、平均寿命は95歳以上でしたが、時速2.88kmの人は約80歳。時速0.72kmの人の平均寿命は約74歳でした。これは女性も同様の傾向があり、すべての試験で歩行速度が増加するにつれて、生存率が有意に上昇していました2)。

 歩行レベルと糖尿病患者の死亡率低下の研究では、18 歳以上の糖尿病患者 2,896人を調査したところ、1週間に少なくとも 2時間歩く人で死亡率が39%、心疾患による死亡率は34%低下していました。1週間に3時間から4時間歩く人の死亡率が最も低い結果が出ています3)。

 40~65才までの女性70,102人について、身体活動量と2型糖尿病発生率を8年間追跡調査したところ、1,419 人の糖尿病発症が見られましたが、1日に少なくても30分、中強度の運動もしくは足早に歩くことを行えば、成人型糖尿病のリスクが減少することが証明されました4)。

 メタボリックシンドロームの発症抑制と身体活動レベルの関係を調査した16の研究があります。40~65 歳の 334 人の男女を対象に食生活を変えずに6ヶ月間、3種類の運動強度と非運動群で比較したところ、毎日30分程度の中強度の運動を行うことが、メタボリックシンドロームの発症予防には適していることが分かりました5)。

 その他にも、1日30分以上、1週間で合計2時間以上の早歩きを行う人は善玉コレステロールが増えたり、1週間に3~5時間歩く人は、1時間未満しか歩かない人に比べて乳がんによる死亡率が半分になるなど、歩行の恩恵を示す研究は数知れません。

 厚生労働省も、身体活動量が多い者は、生活習慣病(高血圧症・糖尿病・高脂血症・骨粗鬆症)の発病率と、脳卒中・心筋梗塞による死亡率が低いこと。メンタルヘルス・生活の質(Quality of Life)の改善に効果があることから、成人においては、1日1万歩のウォーキングが推奨されています。

 蒼野自身も、歩行の恩恵は実感しています。交通事故で複視が残って、車に乗らなくなったことから、この6月の歩数も37万歩と、平均して毎日1万歩以上歩く生活を続けています。以前に比べると、ちょっとした物忘れが減り、人や薬の名前が咄嗟に出て来なくなる頻度が減りました。

 食生活も気をつけていますが、体重コントロールも楽になり、BMIも21前後でキープできており、自覚症状も、健康診断の値も、問題ない状態が続いています。しかし事故以前には、長く歩く習慣は無く、やはり個々の事情によっては、歩く習慣を続けられない人が多いことも理解できます。

 それではどのようにすれば、習慣化できるのでしょうか? 蒼野の実体験からは、歩くことの健康効果を知ることと、歩くことが楽しく、気持ちが良いという事を実感できることが大切だと思います。有酸素運動を続ければ、快感ホルモンであるβエ ンドルフィンの分泌が促されます。今の時期であれば、特に朝涼しい時間の散歩がお勧めです。朝日を浴びるとセロトニンも出てくるので、気持ち良さはさらにアップします。

 一緒に歩く人や、ペットが居ると続きやすいです。一緒に歩くことでオキシトシンも出てきますので、さらに健康効果は高まります。歩数計やデバイスで活動量を記録することも有効です。以前紹介した、ポケモンGOや、歩数に応じてビットコインなどのポイントがもらえるものを利用することも、モチベーション維持に役立ちます。

 ウォーキングする道を整えたり、道端の花壇を整備したりすることも有効です。季節毎に景色が変われば、毎日出かけたくなります。景色の良い安全な歩道が整備されていると、嬉しいですね。蒼野も歩く道は毎日変えることが多いです。なるべく景色が良い道や、公園、緑の多い道を選ぶことが多いなあと思います。

 国民の健康に大きく関わることだけに、自治体において歩行の有用性を訴える健康講座や、健診の受診、ウォーキングイベントへの参加などにポイントを付与し、金券や健康グッズと交換する仕組みが有用であるという研究報告もあります。

 特に高齢者が出かけやすいイベントを定期的に開催すれば、友達も出来やすく、一緒に目標を達成しようとする気持ちや、負けずに頑張ろうという気持ちも生まれ、フレイルやサルコペニア、認知症の予防に有効であると思います。

 コロナ禍で家に篭る人が増えて、健康を害する人も増えている現在だからこそ、もう一度歩行の重要性を再認識してもらいたいなあと思っています。2016年の調査では、1日の平均歩数は、成人男性で7200歩、女性で6200歩です。今の生活からあと3000歩、20~30分増やせば合格です。

 蒼野も頑張って歩きますので、皆様ももう少しだけ歩数を増やす意識を忘れないでくださいね!

参考文献:

1)Physical activity at midlife in relation to successful survival in women at age 70 years or older : Arch Intern Med.170(2):194-201,2010

2)Gait speed and survival in older adults : JAMA. 2011 Jan 5;305(1):50-8

3)Relationship of Walking to Mortality Among US Adults with Diabetes, Archives of Internal Medicine, Vol.163, 2003, 1440-1447

4)Walking Compared With Vigorous Physical Activity and Risk of Type 2 Diabetes in Women, JAMA. Vol.282, No.15, 1433-1439,Oct., 1999

5)Exercise Training Amount and Intensity Effects on Metabolic syndrome(from Studies of a Targeted Risk Reduction Intervention through Defined Exercise: American Journal of Cardiology, vol.100, 2007, 1759-1766

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