カプサイシンで気分↑

2022/05/06

 蒼野は最近、カプサイシンに注目しています。それは脳の報酬系に働いて、食べれば楽しくなる食べ物の一つだからです。皆様はスパイシーな食べ物を食べると、気分がハイになった事はないでしょうか? 上手く使うことができれば、健康効果が大きな食材だと思います。

 TVで、激辛料理を食べるという趣向は、以前からありますよね! 出演者がカラダを張って、大きなリアクションをとりながら食べる姿は、とても面白いのですが、決して自分ではやりたいとは思いません。辛すぎる料理は口に入れただけで痛いですし、それが消化管を通ると思うと恐ろし過ぎます。

 辛い物の代表格である唐辛子の辛味成分はカプサイシンです。カプサイシンの名前は、ギリシア語の「咬む」という意味をもつ「kapso」からきているそうです。量が多いと、咬まれたような痛みが走る成分なのです。

 2021年、米カリフォルニア大学のデービッド・ジュリアス教授が、侵害刺激を感じるイオンチャネル型受容体の研究で、ノーベル医学・生理学賞を受賞しました。6つのタイプがある、TRPV (Transient Receptor Potential channels, Vanilloid subtype)受容体のうち、TRPV1が、カプサイシンに反応します。

 TRPV1にカプサイシンが結合すると、感覚神経が興奮し、交感神経系が活性化され、辛味や痛み、灼熱感として感じられるのです。TRPV1は口腔内、気管支、消化管等に存在し、肛門周囲にも多く配置されています。激辛料理を食べると、口の中や喉に痛みが出て、ひどく咳も出て、むせ返り、翌日のトイレでも、大変な思いをすることになります。

 TRPV1は哺乳類や昆虫が持っているため、カプサイシンを持つ植物は食べられずに済みます。鳥類はカプサイシンに反応する受容体を持たないため、カプサイシン入りの実を食べます。鳥の場合、種を丸呑みするため、消化されずにそのまま排出されることで、植物の種の保存に有利に働きます。面白いですねえ。自然の不思議を感じます。

 カプサイシンがTRPV1を介して、細胞内にカルシウムイオンの流入が続くと、TRPV1が反応しなくなるため、感覚神経が麻痺して、辛みや痛みを感じにくくなります。激辛は食べ続けると、分からなくなるのです。これは鎮痛に応用できるため、カプサイシンを含む温湿布やクリーム剤の外用鎮痛薬があります。帯状疱疹後神経痛や糖尿病性神経障害などの、難治性の痛みにも応用可能です。

 カプサイシンは水には溶け出しにくく、油(ラー油)や酒、お酢などの形で調味料として使われます。生の唐辛子での摂取では、10%程度しか吸収されません。茹でたり油と一緒に摂取すると、30~70%は吸収される様になります。

 カプサイシンが身体に吸収されると、体脂肪の分解を促進するアドレナリンが分泌されます。脂肪分解酵素リパーゼが活性化されるため、脂肪燃焼が進みます。エネルギーの代謝が活発になり、体温が上昇し、発汗も促進されます。ダイエット効果が期待できるため、ダイエットサプリにはよく配合されています。

 血圧低下作用やコレステロール低下作用、末梢の血流改善作用もあり、冷え性の改善や、老廃物の排出促進、疲労回復作用が認められます。刺激によって唾液や胃液分泌が促進されるため、食欲の増進にも関与します。消化管の刺激による便通促進作用もあります。

 またカプサイシンには殺菌・抗菌作用があります。ぬか床の中にとうがらしを入れて漬物を作るのは、風味付けだけではなく、雑菌の繁殖を防ぎ、腐敗を防ぐためです。カプサイシンには防虫効果もあるため、虫が発生しやすい米びつの中にとうがらしを入れるという習慣もあります。

 一方で、カプサイシンは致死量もある物質です。体重が50kgの人であれば3,000~3,750mgの摂取で命の危険があります。一般の一味唐がらしに換算すると67瓶分なので、通常の摂取においては全く心配はいりません。激辛番組で、死ぬほど辛くても、死なないと言えます。

 しかし、あまりに辛い料理を食べ過ぎると、舌が麻痺したり、胃腸が炎症を起こす場合があります。これは脳にとってストレスと認識されるため、アドレナリンが分泌されるのですが、アドレナリンの過剰分泌は、睡眠障害や精神疾患の発症の引き金となるため、毎日食べ過ぎるのはNGです。

 珍しいケースでは、トルコの25歳男性が、ダイエットのために大量摂取した唐辛子サプリで、冠動脈の攣縮を起こし心筋梗塞を発症した報告。激辛料理コンテストで、脳の血管の攣縮が起こり、突然の雷鳴頭痛で発症し、可逆性脳血管攣縮症候群(RCSV)と診断された34歳男性の報告。腰痛のためにカプサイシンの湿布を貼った29歳男性が、狭心症を発症し、湿布を剥がしたら治った例なども報告されています。

 催涙スプレーの主成分の多くはカプサイシンです。比較的安全な成分とされていますが、皮膚や目には、強い刺激性があり、角膜潰瘍を起こすこともあります。カプサイシン含有の暴動鎮圧剤の使用で、心臓死や、気管支が攣縮し、喘息や窒息による死亡例の報告もある様です。ガスになるとリスクは高くなるようですね。

 良い面も悪い面も見てきましたが、馬鹿とハサミならぬ、カプサイシンも使いようなのだと思います。最初に書いたように、カプサイシンが、脳に適度な痛みのメッセージを送ると、脳はその応答として、エンドルフィンとドーパミンを放出することが分かっています。

 カプサイシンの刺激で、疼痛シグナルを伝達するサブスタンスPが出ると、脳が痛みの信号を伝達するのをブロックするために、快感物質であるエンドルフィンと、報酬と快感の感覚をもたらすドーパミンが放出されるのです。エンドルフィンはランナーズハイでも出てくる物質ですので、カプサイシンハイとも言えそうです。

 ヒトはドーパミンが出る食べ物を好み、依存しやすい生き物です。健康のためには、ドーパミンを分泌させる糖質やアルコールを摂りすぎないことが大事ですが、いつも我慢するダイエットはずっと続ける事はできません。そこでこのカプサイシンを利用して欲しいのです。

 カプサイシンは、気分を高揚させ、食事の満足感を上げてくれると思います。食べ過ぎることも少ないと思いますので、食事に積極的に取り入れれば、糖質依存やアルコール依存から抜け出る一つの方法になるのではないかと思っています。

 最近料理に一味や七味、タバスコなどをふりかけるのがマイブームになっている蒼野でした。

参照記事: 激辛を食べた翌日、お尻が痛くなるのはなぜ? 中尾 篤典

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