今日は少し前から話題になっているサル痘について書いてみようと思います。元々は中央アフリカから西アフリカで見られていた人畜共通感染症ですが、今年の5月くらいから、欧州や北米等で報告が相次ぐようになり、7月23日にWHOから、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言が出てしまいました。
宣言までには、75の国や地域から4万例以上の患者報告が挙げられており、国内でも既に4例の報告があります。死亡例はアフリカで7例、それ以外で5例報告されています(8月22日時点)。これはかつてないスピードでの感染拡大で、その理由もはっきりとは特定されていないため注意喚起がなされているのです。
元々は1970年にザイールで、初めてのヒトへの感染が確認された疾患です。既に絶滅宣言が出された天然痘と同じ、オルソポックスウイルス属のサル痘ウイルスの感染で起こります。二つの系統があり、コンゴ盆地の系統では、患者の10%近くが死亡しますが、現在流行中の西アフリカ系統の致死率は1%未満です。
1970年当初は、感染した野生動物(特に齧歯類)に咬まれたり、引っ掛かれたり、熱を通さずに食べたりすることで感染が起こりました。感染するとまず細胞内にウイルスが侵入し、疲労感や発熱、体の痛み、悪寒、頭痛といったインフルエンザ様の症状が現れます。その後リンパ節が腫れ、顔から始まり、腕、脚、手、足、体幹へと広がる厄介な発疹が出てくるのです。
サル痘ウイルスは症状が出るまで、感染力がないと言われています。皮疹が出た時点で、他人との接触を避けている可能性は高いため、ヒトからヒトへの直接の感染はどちらかと言えばまれです。またヒトからヒトへの直接感染の連鎖は、最大でもわずか6回といわれています。
発疹はウイルス製造工場でもあるため、現在想定されている感染経路は、患部の膿との直接接触、感染者の衣服やタオル、シーツ等との接触です。長時間の会話などの飛沫でもうつります。現在最も多いのは、主に男性と性交渉をもつ男性の間での流行です。しかし純粋な性感染症では無く、女性や子供の感染例も認められます。
サル痘は通常は感染しても軽症にとどまり、治療を受けなくても2~4週間で自然に治癒します。サル痘ウイルスの実行再生産数も、コロナとは大違いで、1~2人程度とされており、人間から人間への感染力は弱いのです。しかし物の表面や呼吸器飛沫からの感染リスクはまだはっきりしていません。
今回の流行は、サル痘ウイルスの流行している国と明確な関連性をもたない人々にクラスターが出現していることが特徴です。新たなウイルス変異も疑われましたが、ゲノム分析での変異は認められず、感染力が急に増した可能性は否定されています。
現在特に欧州地域では、時間を追うごとに、これまで感染例がなかった地域にも感染が広がっています。最悪のケースとしては、人間が野生動物に感染させることで、新たな「病原巣」を作ってしまうことです。その野生動物がウイルスを運び、人間にうつせば、根絶はより困難、あるいは不可能になる可能性があると想定されているのです。
1980年に天然痘が全世界で撲滅され、ワクチン接種運動が終了した後、アフリカではサル痘の患者が増加し始めました。オルソポックスウイルス属のウイルスはゲノム配列が90%近くは共通のため、天然痘のワクチンがサル痘にも有効です。ワクチンを打たなくなってから、オルソポックスウイルス属のウイルスに対する免疫力が低下してきていることは、今回の流行に関与していてもおかしくありません。
コロナの軽症例でも、症状がない人が居るように、WHOでも、おそらくは「かなりの数の患者をとらえられていない」可能性が高いとしています。感染者から採取した精液、唾液、尿、糞便からサル痘のDNAが検出されています。それらに感染性があるかどうかはまだ不明です。精液には感染性があると疑われていますが、まだ研究は途上です。
診断には、発疹がある人や陽性患者と接触した人に対して、水疱や膿疱の内容液や組織を使ってPCR検査が実施されます。子どもはサル痘に感染すると重症化しやすいです。ほとんどの死亡者はかなり若い年齢層です。また肺炎を引き起こしたり、目に感染して失明する場合もあります。全身の皮疹が「あばた」となって残ることもあるのです。やはりなりたくない疾患です。
今回の流行で、従来の報告と異なるのは、発熱やリンパ節腫脹などの前駆症状が見られない場合があったり、病変が局所(会陰部、肛門周囲や口腔など)に集中し、全身性の発疹が見られない場合があったり、水疱、膿疱、痂皮と異なる段階の皮疹が同時に見られる場合があることです。
現在オルソポックスウイルス属に効くワクチンが2種類使われています。アフリカでの過去のデータから、これらのワクチンはサル痘の感染予防効果が最大で85%あります。またサル痘に接触してから4日後までは、感染予防のために使用できますし、感染して2週間後までは患者の症状軽減のために投与が可能です。
アメリカでは州ごとに対応は異なりますが、過去14日以内に複数の男性パートナーがいた、サル痘流行地域の男性はワクチン接種の対象となっています。しかしワクチンは不足しており、またワクチン自体の副作用のリスクもあることから、大々的には使用はされていません。2019年には新世代の天然痘ワクチン「ジンネオス」が承認され、安全性は高まっていると言われていますが、臨床データは不足しています。
抗ウイルス薬は、EUでは承認されている「TPOXX」という薬があります。わが国で利用可能な薬事承認された治療薬はありませんが、この「TPOXX」を特定臨床研究として使うことはできます。日本にも天然痘ワクチンはプールされているので、こちらも研究目的での使用は許可されています。
サル痘に感染した恐れがある場合は自主隔離するように指示され、疑い患者と確定患者はすべて21日間の自主隔離が勧告されています。一度症状が出ると、かさぶたが完全に治るまではウイルスが伝染する可能性があるからです。リスクが高い場合には、早期にワクチン接種を行うことになります。
流行地の動物や感染者への接触を避けることは言うまでもありませんが、目に見えない感染予防には、手洗い・手指の消毒を行うことが重要です。タオルやシーツなどを介した医療従事者の感染の報告もあるため、感染者が使ったものは手袋などを着用して直接的な接触を避けて洗濯などを行うようにしましょう。
我が国でサル痘が蔓延するかどうかはまだ不明ですが、グローバルな世界では、いつ流行し始めてもおかしくは無いと思います。特にウィズコロナ政策となって、活動が活発になってゆく今後においては、新たなパンデミックに対しても十分に備えておく必要があると思いました。
防げる感染症については、やはり知識が大事です。気をつけながら、今後の活動の幅を広げてゆきたい蒼野でした。
参考ページ: 厚生労働省ホームページ サル痘について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/monkeypox_00001.html
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