シニアのタンパク摂取!

2022/05/28

 今日はシニア世代のタンパク質不足について書いてみたいと思います。健康長寿のため、認知症を減らすためには、有酸素運動が必須です。しかしタンパク不足の状態で有酸素運動を頑張りすぎると、かえって筋肉が減ってしまい、最後の日まで、活動し続けることが難しくなったりします。

 まず外国の論文からです。英国バーミンガム地域の120人を対象に、食生活について横断的調査を実施しました。参加者を3つのグループ(若年者:平均23歳、中年者:同51歳、高齢者:同77歳)に分け、それぞれ40人について調査しました。3日間の食事日記から、摂取したすべての食品を測定しました1)。

 タンパク質の摂取量と1日を通じての摂取パターンには個人差があり、とても多様であることが明らかになりました。これは普通に考えてもそうですよね。個人個人で食の好みは様々ですし、経済状態によっても、食べれる物も制限がかかったりします。

 参加者の食生活のパターンを、タンパク質に着目すると、1日のタンパク質の摂取パターンは幅があり、18種類に分類できたそうです。高齢者は、ランチタイムにパンなどの植物からの、アミノ酸スコアが低いタンパク質源を食べる可能性が高いことを発見されました。

 シニアのタンパク摂取量は、若い人の105.1±43.0gと比べても、摂取量自体は83.4±24.6 gと有意に低く、それは加齢による、生理学的要因(感覚障害、咀嚼能力の低下)および心理社会的要因(孤独、費用)によってもたらされる食欲の低下が原因となっているようでした。

 3つのグループで、1日の最低推奨タンパク量である、0.8g/kg/日は満たしていましたが、筋肉を減らさないために推奨される1g/kg/日を満たす割合は、シニアでは35%で、若者の60%よりも低く、筋肉が減りやすくなってしまう値でした。特に女性では少なくなりやすいため、注意が必要です。

 また高齢者では、タンパク質を消化する機能が低下していることや、同量のタンパク質を摂取しても、同化機能の衰えによって、筋肉は増えにくくなっています。筋肉量の維持のためには、特に朝と昼に、アミノ酸スコアが高い食材を選んで、より多く食べ(1食30g以上を推奨)、そして運動する必要があるということになります。

 2つ目の論文は、デンマークのオーデンス(人口第3位の都市)の80歳以上の住民で、介護サービス利用者や認知機能の低下が認められる人を除いた、食事や身体活動量などの調査が完了した126人の研究です。63.5%が女性で、68.8%が独居です。タンパク質摂取量は平均で0.99±0.28g/kg/dayでした。起床時間の64.9%を座位で過ごしています2)。

 1g/kg/日を満たす人は、126人中58人。68人は満たしておらず、平均タンパク摂取量は0.79g/kg/日、摂取エネルギー比14.4%でした。食事からの摂取が少なく、やや高齢(85.2 vs 86.6歳)で、身体機能が低下していました。また日ごとのタンパク質摂取量の変動が大きいこともわかりました。

 満たしていない人は、吐き気(1.7 vs 11.8%)、下痢(3.4 vs 14.7%)、口渇(27.6 vs 52.9%)を訴える人が多く、食欲スコアが低く(SNAQが14点以下の割合が3.4 vs 10.3%) 、痛みを訴える人が多い傾向がありました(29.3 vs 39.7%)。

 海外の研究ではありますが、日本人にも大いに参考になるデータかと思います。日本で最も急速に増加している年齢層は、80歳以上の高齢者層です。高齢者の健康状態は、最も個人差がある年代でもあり、寝たきりの人から、フルマラソンが走れる人まで様々なのです。

 80歳以上の主要な健康リスク因子の一つとして、栄養不良が挙げられています。とくにタンパク質摂取量が少ないことは、除脂肪体重の減少の加速、身体活動量低下につながり、フレイルの増加と関連しています。死ぬまで元気で動けるためには、筋肉を減らさないことは必須事項です
 
 欧州臨床栄養代謝学会のガイドラインで推奨される、高齢者のタンパク質摂取量は1.0g/kg/dayです。これを日本人に当てはめると、65歳以上のデータでは、満たしていない人の割合が、女性23%、男性27%との報告があります。デンマークの研究で54%が満たしていないことを考えると、日本人の食事では大多数が満たしていないように思います。

 アメリカのコホート研究では、高齢者女性2.4 万人を 3年間追跡し、たんぱく質摂取量を 20%増やすとフレイルの発症率を30%下げると予想できると結論付けました3)。また、65歳以上(平均 75 歳)の日本人女性高齢者 2,108 人を対象とした研究でも、たんぱく質摂取量が 63g/日未満の群に対して 70g/日以上の群のフレイル罹患率は62~66%程度に減っています4)。

 若年及び中年成人に比べて高齢者では、たんぱく質摂取に反応して筋たんぱく質合成が起こるために必要なたんぱく質摂取量は多いとする研究報告があります。フレイル又はプレフレイルの状態にある高齢者に、1.5g/kg/日のたんぱく質を摂取してもらうと、0.8g/kg/日のたんぱく質摂取量に比べて、有意に筋肉量や身体機能を改善させたとする報告もあります。

 しかし、厚生労働省のページには、まだ研究数、研究の質が十分でなく、フレイルを改善させるためのたんぱく質摂取量に関して結論を出すことはできないとされていました。高齢化社会はどんどん進んでいるため、結論が出るまで待っていたら、手遅れになりそうに思います。

 蒼野の私見にはなりますが、事故以来、毎日8km前後歩いて、有酸素運動は十分に行っています。オートファジーのために、16時間ファスティングを取り入れてからは、痩せすぎて困るかもといった状態に至りました。ボディスキャン(高精度の体組成計)で定期的に測定したところ、筋トレも含めて、毎日行っていたにも関わらず、筋肉量も減っていました。

 これではフレイルのリスクが増えてしまう、との心配もあり、今年になってタンパク量を増やしました。毎日コンスタントに増やすのは、意外に難しいですね! プロテインドリンクやプロテインバーなども利用しながら、最近ではようやく筋肉量と体重が増えるようになりました。

 オートファジーは、飢餓の時などに身体を守るシステムです。老化を遅らせ、確かに寿命は伸びるのだと思いますが、昨日も書いたように、元気がなくなって寿命が伸びても意味がありません。タンパク質はオートファジーは止めますが、活動的になり、元気さを増す作用があります。バランスを取って利用してゆくのが良いと思います。

 蒼野自身としては、絶対に100年以上生きたい、ということではなく、健康寿命=生命の寿命を目指したいのです。そのためには筋肉を減らさないように、モリモリタンパク質を食べる必要はあるのでしょうね! 自分の体調と筋肉量を観察しながら、朝食にタンパクを時々入れることも視野に調整してゆきたいと思います。

 シニアや女性、そして経済的に食費が掛けられない方にとっては、1.5g/kg/日の良質なたんぱく質摂取は、結構ハードルが高いです。グラム数での換算では、肉や卵、魚などでは、タンパク重量の5倍程度が必要となります。3食均等の摂取が効率的です。50kgの人なら1日375g、3食なら1食125gの肉、魚、卵など、アミノ酸スコアの高い食材が必要なのです。

 こうしてみると、和食でバランス良く食べるのであれば、実際的にはプロテインの追加利用も考えないといけないと思います。健康寿命を伸ばすのって、本当に個人個人の工夫が必要です。たまには朝からカツカレーや、朝からステーキにもトライしてみたいですね!

 野菜や果物、海藻、きのこなど、生の酵素や食物繊維も食べたいし、肉、魚、卵はたくさん必要だし、良質な脂肪も必要です。考えただけでお腹が一杯になってしまいそうな蒼野でした。
  
参考文献: 
1)Amount, Source and Pattern of Dietary Protein Intake Across the Adult Lifespan: A Cross-Sectional Study:    Frontiers in Nutrition, 2020; 7 DOI: 10.3389/fnut.2020.00025

2)Prevalence of low protein intake in 80+ year-old community-dwelling adults and association with dietary patterns and modifiable risk factors– a cross-sectional stud: Br J Nutr. 2021 Mar 8;1-29

3)Beasley JM, LaCroix AZ, Neuhouser ML, et al. Protein intake and incident frailty in the Women’s Health Initiative observational study: J Am Geriatr Soc 2010; 58: 1063 ─71.

4)Kobayashi S, Asakura K, Suga H, et al. High protein intake is associated with low prevalence of frailty among old Japanese women: a multicenter cross-sectional study.
 :    Nutr J 2013; 12: 164─73.

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