ゾンビ細胞がコロナ後遺症を起こしている!?

2022/10/30

 過去ブログで一度、老化細胞=ゾンビ細胞の話を書いた事がありますが、今日はこの老化細胞が、新型コロナ後遺症の一つの原因になっている可能性があるとの記事を見つけ、とても興味深かったので深堀りしたいと思います。

 老化細胞についてもう一度説明しておきます。我々の身体を作っている細胞は、日々分裂して、新しい細胞を作り変えることで、機械の部品を取り換え続けるようにして、機能を保ち続けています。そしてある一定回数の分裂を終えた細胞は、分裂出来なくなります。

 細胞も古くなる過程で、DNAが損傷されるようなストレスに晒されるため、細胞分裂を停止して、癌化するのを防ぐのです。分裂が止まった細胞はアポトーシスといって自ら死んでゆく事が多いのですが、一部の細胞はそのまま、ゾンビのように生き続けます。これが老化細胞です。

 新型コロナウイルスに感染した場合、直接感染した細胞は死んでしまいますが、死ぬ細胞から出てくる炎症性サイトカインや活性酸素によって、周囲の非感染細胞がこの老化細胞に変化してしまうことが明らかになったのです1)。

 老化細胞の問題点は、老化細胞自体からも炎症性サイトカインや白血球を集めるケモカインなどの様々な炎症性物質を放出して、炎症を持続させる事です。身体の中の慢性炎症が、生活習慣病を始めとする、様々な病気の大きな一因であることは、ブログを読んでくださっている健康リテラシーの高い皆様はご存知のことと思います。

 この炎症性物質の分泌は、細胞老化随伴分泌現象(Senescence-associated secretory phenotype:SASP)と呼ばれています。コロナウイルスが駆逐された後も、感染で生み出された多くの老化細胞が、SASPを起こし続けることが判明し、これがコロナ後遺症に関与している可能性が疑われています。

 老化細胞の研究は今、世界中で進められています。イメージで言えば、老化細胞を無くす薬があれば、それこそ不老不死になれそうな感じですよね! 老化細胞を除去する薬はセノリティックドラッグと呼ばれ、開発が急がれており、いくつか候補が上がっているのですが、まだ問題があり実用化はされていません。

 老化細胞除去薬を投与したマウスの実験では、老化細胞が減少して、さらには炎症反応も低下しています。しかし別の研究では、老化細胞にも色々な役割があって、全てを除去することによって、悪い作用が出る可能性が指摘されているのです。

 フランスの研究グループは、肝臓の血管内皮の組織構造を維持するための老化細胞が存在し、それを除去することで、血管がボロボロになり、肝機能が低下してしまい、マウスの寿命はかえって短くなってしまったと報告しています。

 別の実験で、ハムスターにコロナウイルスを感染させ、ウイルスがいなくなって治癒した2週間後では、残った老化細胞のSASPによって、インフルエンザウイルスに感染させることが出来なくなることが判明しました。短期的にはSASPが別のウイルスの感染から身体を守ってくれる作用があるのです。

 また老化細胞にはSASPを起こさないものや、組織の構造を維持するために存在しているものもあります。SASPで分泌されるサイトカインの一部は、組織の修復や免疫の活性化による癌の抑制、また周囲の細胞増殖を促進する作用もあるのです。

 むやみに老化細胞を根絶やしにしてしまうことで、健康寿命が伸びるどころか、帰って寿命が縮む場合もあるかもしれないのです。蒼野は身体について勉強していていつも思うのは、長い年月の間に進化してきた人体には無駄な物は残っていないということです。若い人にも老化細胞はあり、その場合はがん抑制や傷の修復、新たな感染予防などの、体を守る働きのほうが強いのだと思います。

 闇雲に老化細胞を全滅させると、とんでもない合併症が現れる可能性は否定できないのです。ただバランスの問題で、加齢と共に老化細胞が増えてしまったり、コロナウイルスで大量に増えてしまったりすると、身体にとっての悪い面が出てきてしまうのでしょう。短期的に老化細胞の量をコントロール出来る様な治療が研究されています。

 現在のセノリティックドラッグは、身体に必要な老化細胞を区別できません。慢性炎症を起こしている老化細胞や、がん細胞の増殖を促進する老化細胞だけを除去できる薬の開発が望まれます。また悪い老化細胞を除去すれば加齢に伴う疾患が治るという考えが正しいかどうかは、これからの課題です。

 別の研究で、肥満になると腸内細菌が変わって細胞老化を引き起こす事がわかってきました。BMI30以上の過体重は、大腸がんや直腸がんの強いリスク因子ですが、健常者に存在せず、大腸がんの患者様に特異的に増えている腸内細菌が12種類同定されていて、そのうちの2種類の菌に細胞老化を起こす作用が分かりました2)。

 この菌を遺伝子変異を加え大腸がんを起こしやすくしたマウスに与えると、大腸がんの発症率が高くなることも判明しました2)。細胞老化を起こす腸内細菌は加齢によっても増えてくることが明らかになっています。老化細胞は短期的には癌を抑制しますが、数が増えてしまうと、SASPによる炎症が続き、癌の発症率が上昇すると考えられます。

 人類はポテンシャルとしては120歳までは生きられると言われていますが、様々な生命の危機に囲まれた原始時代の人間は、老化細胞の増加が影響するような年齢まで生きれる人は、一握りだったに違いありません。人生100年時代の現代では、加齢性の病気を避ける方法の一つとして、老化細胞を増やさない腸内細菌叢を手に入れることは、重要な事だと蒼野は思います。

 コロナの重症化はサイトカインストームで起こりますが、ベースの体内炎症が高いと、異常な反応に繋がりやすいと思います。慢性炎症につながる肥満、糖尿病、内臓脂肪、脂肪肝などにならないよう、腸内細菌を整えてゆく必要があります。やはり老化細胞から見ても、腸活は健康の大きな鍵になります。

 そのためには糖質過多、アルコール過多にならないことや、食べ過ぎないこと。食物繊維と発酵食品の摂取を増やし、適度な運動と、7時間睡眠に近づけてゆくことが、癌も含めた他の慢性病の予防と同様に、本当に重要なことだと思いました。不老不死の薬(?)ができるまではこれでやってゆくしかありませんね!

 生活の中で、細胞老化を抑える方法を確立して行きたい蒼野でした。

参考文献:
1)SARS-CoV-2 infection triggers paracrine senescence and leads to a sustained senescence-associated inflammatory response. ;  Nature Aging 2, 115–124 (2022)

2)Gut bacteria identified in colorectal cancer patients promote tumourigenesis via butyrate secretion. ; Nat Commun. 2021 Sep 28;12(1) :5674. doi: 10.1038/s41467-021-25965-x.

参考記事: 「細胞老化」は「COVID-19」にも関与する!

過去ブログ:  ゾンビ細胞!
https://healthist.net/medicine/2595/

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