今日はやってみたら、様々な健康メリットと楽しさが得られるかもしれないダンスの話を書きたいと思います。体を動かすという側面だけではなく、曲を耳で聴きながら、それに合わせて振り付けを真似て動くという、色んな脳の処理を同時に行う運動であるダンスは、老化予防、認知症予防にも大きな効果がありそうなのです。
コロナ禍で運動機会が減り、特に外に出なくなった高齢者の認知症率が上がっているという記事を目にします。そこでTRFのSAMさん達と東京大学先端科学技術研究センターの研究グループが共同開発した高齢者向けのダンスが、認知機能や実行機能の改善に有効であることを示す論文が報告されました。
認知症予防に一番効果のある方法は運動です。屋内でも行える30分のダンスプログラムを、30年以上の経験を持つTRFが共同開発し、認知機能や実行機能に及ぼす影響を検討しました1)。2020年10~11月に、60歳以上の健康な人を対象に、無作為比較試験を行なっています。
認知機能テストMMSEで30点中24点以上の、認知症の無い人90人を、無作為にダンス群、歩行群、何もしない対照群の3群に分類しました。ダンス群と歩行群は週3回、30分の運動を行い、4週間続けました。ダンス群はTRFのDVDを渡し、自宅で踊ってもらいました。
もちろん元々の認知機能や実行機能、教育歴、就業状況、疾患有病率、BMI、SMI(骨格筋指数)、歩行速度、握力、ふくらはぎ周囲長などの、全項目について、有意な群間差がないことを確認しております。
4週後の結果としては、認知機能(MoCAスコア)の変化量は、ダンス群+2.0667点、歩行群+0.7037点、対照群-0.2414点で、ダンス群で歩行群よりも有意に改善していました。また実行機能(FABスコア)も同順で、+0.7333点、+0.2963点、-0.5862点であり、ダンス群と歩行群は、対照群より改善幅が有意に大きく、ダンス群と歩行群の有意差はありませんでした。
歩行速度や模倣機能、視空間認知機能についても、ダンス群の方が歩行群よりも有意に大きく改善していました。筋肉量や筋力自体は4週間での各群の有意差はありませんでしたが、かかと上げテストの成績は、対照群よりもダンス群と歩行群で良くなっていました。
当然の結果とも言えるのですが、脳の様々なところを同時に鍛えることができる、ダンス運動は、4週間行なっただけでも、明らかに様々な改善が認められました。もちろん歩行もやっただけの効果はあるのですが、ダンスほどではありませんでした。
お年寄りにダンス?と思われるかも知れませんが、若いころにダンスをする機会が少なかっただろう日本の高齢者でも、見よう見まねで楽しく行えた人が多かった様です。特に自宅に引きこもることが多くなったコロナ禍の現代では、自宅でDVDで踊るだけで認知機能や身体機能を向上させることができるというのは、素晴らしいことだと思います。
またこの研究にTRFのSAMさんが関与していることに、蒼野も頷ける理由があるのが、とても面白いと思います。SAMさんは明治時代から続く代々医師家系のご出身です。父親が総合病院を創設し、男兄弟は全員医師になっています。親戚も医師だらけです。その中でSAMさんだけがダンスの道を歩んできました。
SAMさんも進学校に進んでいましたが、ディスコダンスのかっこよさに魅了されました。毎晩ディスコで5時まで踊り、7時まで喫茶店で過ごしてから、学校に通ったり、15歳で家出したりしながら、ダンサーとしての道を歩みます。
小室哲哉さんとの出会いからTRFに加入。ダンス&ボーカルグループの先駆けとなり、ただ歌のバックで踊るのではなく、ダンサーとしての地位を上げるパフォーマンスを続けて今に至ります。途中TRFの20周年記念でリリースしたエクササイズDVD『EZ DO DANCERCIZE』が、シリーズ累計300万枚を突破する大ヒットをして、エクササイズとしてのダンスが求められていることも経験されています。
SAMさんも今年の1月に還暦を迎えられました。そして最近のライフワークの一つが、蒼野と同じく、日本人の健康寿命を伸ばすということだと聞き、深く共感する次第です。高齢でも行える「ダレデモダンス」とか、認知症に特化した「リバイバルダンス」というプログラムを作り、普及に努めておられます。
50歳過ぎてから、代々の医師の血が騒いだのかも知れません。従兄弟の丸山泰幸医師や、従兄弟の医師で弁護士で政治家である古川俊治参議院議員からの要請もあり、高齢者の方の、健康寿命を延ばすプログラムを作りたいと思っておられたとのことです。SAMさんは医師にはなりませんでしたが、別の形で人々の健康に貢献する仕事を選ぶことになったのです。
「ダレデモダンス」は丸山泰幸医師と一緒に、誰でも楽しく踊れるように、血圧や脈拍、ADLなどのデータも取りながら、安全性と運動強度を両立したプログラムになっています。ラジオ体操やボーリング、家庭内の掃除とだいたい同じ運動強度です。転倒しそうな動きも入れていません。
実際にこのダンスを続けることで、100m歩くのもやっとだった透析患者さんが、毎日10kmも歩けるようになったり、初めて踊るおじいちゃんおばあちゃんが、ゆっくり説明して、一緒に動いていくと、だんだん笑顔になってゆきます。最初は上手く動けませんが、やればやる程元気になってくるのです。
『リバイバルダンス』の方は、TRFの楽曲ではなく、高齢の方が懐かしい、美空ひばりさんや山口百恵さんなどの、昭和の名曲を使っています。体よりも、脳に刺激を与えることで認知症予防効果を高めたプログラムになっています。
SAMさんは、59歳で南カリフォルニア大学デイビススクールの通信教育課程で学びはじめ、ジェロントロジー(加齢学)を修了しています。生物学・心理学・社会学などさまざまな分野の研究成果を合わせ、人間がポジティブに年齢を重ねるためにはどうしたらよいかを考えてゆく学問です。自分自身も、一生踊り続けるための勉強だそうです。
年齢は大きいですね。若い頃は自分のダンステクニックを、若い人に伝えることを目標にされていたそうですが、40代後半辺りから、自分自身の身体にも老いを感じる部分が出てきて、もっとポジティブに年を重ねたいという気持ちになったことが、SAMさんをこういう方向に向かわせたのでしょうね。蒼野も深く共感します。
蒼野自身、30代から40代にかけては、フィットネスクラブでエアロビクスダンスに傾倒していた時期があります。ダンスって本当に楽しいんですよね! 最初はタコ踊りの様でも、何度か繰り返すうちに脳が勝手に覚えて動ける様になります。踊り切った時の爽快感は格別でした。
アンチエイジングや、健康長寿のための運動として、ダンスを見直す必要があると本当に思いました。ずっと踊っていませんが、昔買ったTRFのDVD『EZ DO DANCERCIZE』を探してやってみようと思いたった蒼野でした。
1)Effects of Two Short-Term Aerobic Exercises on Cognitive Function in Healthy Older Adults during COVID-19 Confinement in Japan: A Pilot Randomized Controlled Trial.
JournalInternational journal of environmental research and public health. 2022 05 19;19(10); pii: 6202.
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