デジタル認知症

2022/01/18

  以前のブログで、スマホ依存の問題について書きました。。今日は高齢者だけではなく、全世代にスマホに関連する認知症が増えているという話題について書いてみたいと思います。

 デジタル認知症(スマホ認知症)とは、デジタル機器(特にスマー トフォン)に依存することで、記憶力の低下や言語の障害などの、認知症と同じような症状が出てくる状態のことです。これは始まってすぐなら、元に戻りますが、何年も続けると若年性認知症のリスクが上がってきますので要注意です。

 繰り返しになりますが、デジタル機器は依存になりやすいツールです。1998年にネイチャーに掲載された論文によれば、50分間ゲームした人の、ゲーム開始前とゲーム終了後で比較すると,脳 内の線条体でドーパミンの放出が 2 倍に増えていました。覚醒剤(アンフェタミン)を静脈注射したときのドーパミンの放出増加が2.3倍であり、デジタルへの依存の強さが、証明されています。 

 スマホは言うまでもなく、とても便利です。小さなコンピューターでもあり、ネットと繋がっているため、様々なことが手軽に検索できます。人間の能力は使わなければ、衰えてしまうようにてきています。これは蒼野も、電子カルテになってから、漢字は読めても、ずいぶん書けなくなったことを、実感しています。

 どこかに行く時も、アプリでスマホが連れて行ってくれます。乗り継ぎも時刻表は要らなくなりました。カメラで撮っておけば、記憶しておく必要は無くなります。思い出せない名前もスマホで検索します。そんな生活を続けていると、実際に海馬も萎縮し、記憶できる量自体が減ってゆくことが報告されています。

 そして枯れない泉のように、スマホから沢山の情報が、次から次へと溢れてきます。情報を処理しているのは、前頭葉にある、前頭前野という部分です。普段の生活以外に、スマホから多くの情報を収集してしまうことで、前頭前野が処理しきれずパンク状態になるのです。

 テレビやスマートフォンなどインターネット端末での「動画視聴」や「SNS」の利用は、視覚にかかわる「後頭葉」と、聴覚にかかわる「側頭葉」ばかりが使われ、前頭前野の血流はむしろ低下して、働きに抑制がかかります。この前頭前野を使わない状態が毎日続くと、認知機能が次第に低下し、長期的には認知症リスクが高まります。高齢者がテレビの守りばかりしていると、認知症が進むことと同様です。

 人類のこれまでの生活で、このような状況は一度もありませんでした。集中力も途切れがちになり、思考力も停止してしまいます。これは常にスマホを携帯し、仕事でもプライベートでも、メールの処理やチェックを欠かさず、インターネットでの情報収集も怠らない人に多く見受けられる症状です。

 情報のインプットが多過ぎることや、スマホは何かをしながら使う事も多く、同時に二つのことを行うデュアルタスク作業になりやすいことから、余計に「脳疲労」の状態に陥ります。脳疲労による情報処理機能低下で起こる認知機能低下が、『デジタル認知症(スマホ認知症)』『スマホによる脳過労』『オーバーフロー脳』なのです。

 脳の情報処理には、3段階あります。情報を入れる「インプット」。その次には、情報を整理するための、「デフォルト・モード・ネットワーク」と呼ばれる、ぼんやりする時間が必要です。最後が、話したり書いたり、行動したりする「アウトプット」になります。

 しかし、絶えずスマホを使っていると、この「情報の整理」が行われないため、脳がまるで、ごみ屋敷のような状態となり、新しい情報が処理できなくなります。新しく記憶ができなくなるのです。こうして前頭葉の機能が低下すると、他の前頭葉機能である、判断や意欲、感情までおかしくなってゆきます。

 感受性豊かに感動できていたのが、興味がなくなったり、意欲がなくなったり、好奇心がなくなったり、イライラしたりもします。インターネット依存によ って,うつ状態や無気力,無関心になることも多いことが報告されています。このうつ状態が長く続くことによっても、認知症になりやすいことがわかっています。

 もう一つのリスクは、スマホの使い過ぎで、ちゃんとした良質の睡眠が取れなくなることです。スマホの画面が発するブルーライトは、眠気を誘うホルモンである、メラトニンの分泌のバランスを崩してしまいます。紫外線の次に波長が短く、強いエネルギーを 持つブルーライトを目に入れてしまうと、脳が興奮し、体内時計のリズムが乱れます。

 睡眠不足が慢性化すると、脳は寝ている間に、取り込んだ情報を処理しているため、処理が追いつかず、新しい情報が取り込めなくなるのです。ベッドにスマホを持ち込んではいけません。睡眠のせめて1時間前からは、目の届かない所にしまいましょう。

 仙台市の中学生の数学の学力と、スマホの利用時間の関係を調査した研究では、最も点数が高いのは、スマホを「全く使わない」、もしくは「1時間未満」という生徒たちでした。全員の勉強時間は、ほぼ同じだったにも関わらず、スマホを使う時間が長ければ長いほど、平均点が下がっていく傾向が認められました。

 東北大学の川島隆太教授は、この結果に驚き、スマホが子どもたちの記憶の能力自体にマイナスに働いている。極端だと思うけれども、法律によって18歳まではスマートフォンを1時間以上使ってはいけないと、強制的に規制するほうが、未来にとっては幸せではないかとコメントされています。

 若年であれば、脳の可塑性(環境で変わる力)は非常に高いといわれており、すぐにリカバリーすると考えられます。もちろん中高年でも、スマホとの付き合い方を変えることで、デジタル認知症は改善することが可能です。一言で言えば、デジタル認知症は脳の疲労なので、疲れを取れば治るのです。

 スマホで疲れた脳の休ませ方は脳科学的には次のようになります。

● 1日5分「ぼんやりする時間」をもつ(デフォルトモードネットワークの時間が大切)

●「ながらスマホ」はやめて、脳のオーバーワークを防ぐ(デュアルタスクを避ける)

● 体を動かすなどの、脳のアウトプットを増やす。(インプットばかりにしない)

● 疑問や問題をすぐにスマホで解決せず、まず自分で考える。(前頭前野を活性化する)

 前頭前野をしっかり活性化させるには、適度な負荷が重要です。音読をする、簡単な計算問題を全力で解く、調理をする、楽器を演奏する、人と対面で会話をするなど、目的を持って、積極的に脳を使うことで、適度な負荷がかかり認知機能の維持・向上につな がります。

 現代ではスマホを手放す生活は考えられません。しかしスマホに使われないことが大切です。ですからスマホ利用の時間を決めましょう。それ以外の時間は、スマホに使われないように、目や耳が届かない場所にしまったり、通知機能をオフにしたり、一定の時間以上使えないようなアプリを利用しましょう。

 時にはデジタル・デトックスも行ってみましょう。これはスマホなどの機器に一定期間接触することを避けて、出来れば自然の中に入って、ストレスを軽減する取り組みです。人間には視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感が備わっています。身体を動かし、五感を働かせてこそ、脳機能が高まります。

 私たちの遺伝子は、まだサバンナの上で生活するようにできています。与えられた、全ての能力を使って、サバンナで生き残る行動を取ることによって、脳は疲れ知らずで活性化し、大きく発達してゆくのです。

 今日の外来にもデジタル認知症と診断した50代の女性が受診されました。コロナになってから、自宅ではずっとNetflixを見続けているとのことでした。最近やる気も出ず、すぐに忘れてしまうのが心配とのことです。MRIに異常はなく、知能テストも満点でした。しばらくの間、動画等の視聴は1日1時間以内にするようアドバイスさせて頂きました。

 コロナ禍で外出もままならず、自宅に籠る人が増えています。高齢者の認知症も増加しているというニュースも目にします。その一つの誘因として、デジタル認知症には十分注意が必要です。皆様も十分にお気をつけくださいね!

 参考書籍: その「もの忘れ」はスマホ認知症だった      奥村 歩

10万人の脳を診断した脳神経外科医が教える その「もの忘れ」はスマホ認知症だった (青春新書インテリジェンス) [ 奥村 歩 ]楽天で購入

もし記事が良かったよ!と思われた方は蒼野健造公式ラインのボタンをポチッと押して、ご登録くださいね。ライン登録された方で希望される方の中で、月に1人程(まだ春までは忙しいので)オンライン面談での相談に乗りたいと思っております。