生物の知識が大好物で、昔から生物だけはあまり勉強しなくても、点数が取れていた蒼野です。今日はジャイアントパンダから学べたことについて、シェアさせて頂きたいと思います。パンダは本来、ライオンや狼と同じ食肉目であり、グリズリーや北極熊と同じクマ科に属しています。
消化器の構造も、草食動物とは異なり、肉食動物の形をしています。遺伝子から見ると肉食であるべき動物なのに、竹や笹だけ(90%以上)を主食として、むしゃむしゃ食べて、まん丸の大きな身体を維持しているのはとても不思議なことです。
竹、笹に含まれる栄養分はデンプンなどの炭水化物ですが、その中に肉食動物は消化できないセルロースや細胞壁のミセルロースが含まれており、それらが消化できないと、栄養として利用することができません。草食動物は、消化できるセルラーゼを分泌する微生物と共生しており、また食物繊維自体のの消化酵素も持っているため、草などの植物を分解して、グルコースに変えることができるのです。
しかしパンダは草食動物のような消化酵素や、長い腸や、セルラーゼを分泌する菌を持っていないのです。そのためパンダが竹を食べることができる謎は、なかなか解明されませんでした。パンダの糞便を詳細に検討することができるようになり、85種類の細菌が発見され、うち14種類はパンダ特有のものでした。その中にセルロースではなく、竹に含まれるリグニンという化合物を分解するラッカーゼという酵素を作る菌が2種類いることが判明しました。
パンダは毎日9キロから14キロの竹を食べています。それでもエネルギーは多く得られないため、野生のパンダの1日の活動エネルギーは少なく、一般的な哺乳動物の45%で済ませることができます。代謝を司る甲状腺ホルモンによる内分泌活動も、ほかの哺乳類の46.9%〜64%であり、とても省エネな動物なのです。
パンダは進化の過程において、天敵が居らず、栄養のある餌も少ない地域で、リグニンを分解する腸内細菌と共生し、日がな竹や笹を食べ、ゴロゴロしながら暮らすことを選びました。それが種の保存にとって最適だったのだと思います。それにしてはパンダは丸々としていますよね!
パンダのエサは1年のうち約8ヶ月が竹や笹ですが、春から初夏にかけての約4ヶ月間は、糖やタンパク質を豊富に含むタケノコです。パンダの体重はタケノコ食の季節に増えます。研究で、タケノコを食べる季節と葉を食べる季節では、腸内細菌の種類や量が変化することがわかってきました。
そこで無菌マウスに、季節の違うパンダの糞便を移植する実験が行われました。マウスの餌として同じ量の竹を与えたところ、タケノコを食べる季節のパンダの糞を移植したマウスは、葉だけを食べる季節の糞を移植したマウスよりも成長が速く、体重が増えて脂肪も多くなりました。またタケノコの季節だけに、酪酸を産生する腸内細菌クロストリジウム・ブチリカムが著しく増加することが分かりました。
パンダは1年のうち、この時期に栄養不足を補い、脂肪を蓄えておくのです。ヒトでいうデブ菌とやせ菌のお話と似ています。そして食べる物が変わると、腸内細菌が変化するというのも、パンダに限ったことではありません。ある種の猿は葉や果実を食べる夏と、木の皮を食べる冬では、腸内細菌の種類や量が変化します。
現代でも狩猟採集生活を送るタンザニアのハッザ族の腸内細菌も、季節によって変わる入手可能な食料の種類によって、短期間で変わることがわかっています。食べ物が変われば、腸内細菌のエサも変わるため、そのエサが適している腸内細菌が増えるのは、考えてみれば当たり前です。
腸内細菌が変われば、肉食の動物が竹を食べて生きれるようになるというのは、ある意味衝撃的です。ヒトに応用すれば、これまで食べても栄養にならなかったものまで、栄養にできる可能性があるということです。ゴミムシダマシという甲虫の幼虫であるミールワームは、腸内にポリスチレン分解菌を持っているため、発泡スチロールを栄養分にして生きることができるのです。
これは蒼野の妄想ですが、将来の食糧危機にも、腸内細菌が自由にコントロールできる技術が発達すれば、発泡スチロールを食べて、生きていけるヒトが誕生してもおかしく無いということになります。発泡スチロールはやり過ぎかもしれませんが、竹や笹を食べて生きるヒトが出てきてもおかしく無いと思います。
蒼野は今まで、ヒトのDNAは変化しないため、健康長寿のための理想の食事があるはずだ、それは自然の中で暮らす時代にヒントがあるはずだ、と考えていました。しかし世界にはさまざまな食事があり、例えばイヌイットなら、アザラシばかり食べるし、マサイならヨーグルトなどの乳製品ばかり食べているのに、元気なのが今まで疑問でした。
おそらく食べ物によって、ヒトの腸内細菌が激変し、それぞれの共生関係の中で、ちゃんと生きて行けるのだと思います。とすると万人に共通の健康食というものは無いのかもしれませんね。また民族によって、受け継がれてきた腸内細菌も、いろいろだと思われます。
日本人が参考にすべき食事は、やはり日本食の中にあるのだろうと思います。原始時代に遡った食事にしなくても、こんなに現代病が多くなかった、2~3世代前とか、現代の日本の長寿地域のライフスタイルが本当に参考になりそうです。地中海食が良いと言っても、我々が毎日パスタとオリーブオイルばかり食べるのは無理があると思います。
日本人の腸内フローラは、イタリア人の腸内フローラとも違うし、原始人の腸内フローラともおそらく違っています。長年のベジタリアンの人には、植物の細胞壁が分解できる菌が増えてきますし、動物食中心の人は、必要なビタミンを合成したり、肉の焦げの発癌成分を解毒する菌が増えてきます。どんな食事をしても、細菌が補ってくれる部分はあるのです。
しかし腸内フローラは、同じものばかり食べていると、一定の菌ばかりが増えてしまいます。毎日カップラーメンやコンビニ弁当、チェーン店の外食やお菓子などで済ませていると、菌の種類が減り、多様性が失われ、菌が作る本当に必要で微量な栄養が得られなくなると思うのです。厚労省が提案する1日30品目というのは、難しいけど的を得た目標なのだと思いました。
腸内フローラは食べ物が変われば4日でバランスが変わって来るそうです。身体が最高のパフォーマンスが出せる食事は、皆様それぞれ腸内フローラが異なるため、違う可能性があります。もちろん野菜多め、食物繊維多め、発酵食品多めなのは基本です。これは自分で普段の調子を見ながら工夫してゆくしか無さそうですね!
パンダから学んだのは、、腸内フローラを変えれば、肉食獣が草食獣になることさえできるということです。その元になるのは食事です。できるだけ多様な素材から作る日本食を、これからも楽しんでゆきましょうね! 蒼野も可愛い腸内細菌たちが沢山増えることをイメージして、食べ物を選んでゆきたいなあと思っています。
参照書籍: あなたの体は9割が細菌; 微生物の生態系が崩れはじめた アランナ・コリン
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