ランナーズハイ!

2021/11/24

 19世紀初頭に、ドイツの科学者が、アヘンからモルヒネを抽出することに成功すると、鎮痛剤として、医療現場で使われるようになりました。現在でも末期癌の鎮痛などで使われていますが、当時から両腕、両足を失った負傷兵でも、その痛みを消すことができる夢の薬でした。

 これは脳内にモルヒネの受容体があることで生じる効果なのですが、体内でもモルヒネのような作用がある、神経伝達物質が存在していることが判明しています。これはエンドルフィンと呼ばれ、目覚ましい鎮痛作用と多幸感をもたらします。

 限界を越えるくらいの長距離を走ったランナーは、この上ない多幸感に包まれて、足の痛みなどの苦痛を感じなくなります。エンドルフェンレベルを測定した研究によると、ランナー全員の脳内のエンドルフィンが増えており、高揚感が高いランナーほど、エンドルフィンレベルが高いことがわかりました。

 最近では、エンドルフィン以外にももっと分子が小さく、容易に脳に到達する、内因性カンビノイド(マリファナの有効成分の受容体に反応する物質)も、ランナーズハイに関与していると言われていて、この二つの物質の関与によって起こる、という説が支持されています。

 なぜランナーズハイがあるのでしょうか?それは人類がサバンナで暮らしていた時代、長く走ることで獲物を捕まえていたことと関係するようです。実は人間は、地球上で最も耐久力のあるランナーなのです。

 走るには弾力性に富むアーチ構造のある足が必要です。このような足は人間だけに見られ、他の類人猿には見られません。また上半身と下半身を逆に捻る必要があり、上半身の筋肉構造も走るのに適しているのです。

 人間よりも足の速い動物は沢山いますが、鹿やレイヨウなどは短距離走者であり、人間は、獲物を執拗に追いかけることができます。疲れて、群れに逃げ込んだ動物は、判別ができなければ、捕まえることはできないのですが、人間は、もう一つの武器である大きな脳で見分けて、捕まえていたと考えられ、『持久力仮説』と呼ばれています。

 ユタ大学の研究者であり、トレイルランナーである、デヴィッド・キャリアーは、ワイオミングの草原で、レイヨウを走って追い、力尽きたところを捕獲して、それを証明しました。何度も失敗しましたが、狩猟民族に狩りの方法を学びました。獲物の動きとその習性を深く知ることで、疲れて群れに逃げ込んだ獲物を判別できる様になり、狩りに成功したのです。走力+知能による狩りであり、『人間は走るために生まれた』ことが証明されました。

 走っていて、捻挫したり、筋肉を痛めることもあったでしょう。しかし人類は生き残りのためにその痛みを打ち消す物質を作ることで、走り続けることができました。息が苦しくなっても、獲物を狩るために、高揚感で走り続けられたのです。それがランナーズハイの理由です。

 少なくとも45分は走らないと、ランナーズハイは訪れません。頻繁に走れば走るほど、ランナーズハイになる可能性が高まります。残念ながらウォーキングハイは起きません。ランナーズハイは強烈な体験ですが、ちょっとした高揚感は運動すれば得られます。運動でエンドルフィンや内因性カンナビノイドは分泌されるのです。

 疲労感が抜けない時、気分が塞ぐ時などは、外に出て走りましょう。心拍が増えるような運動を定期的に続ければ、素晴らし気持ちが実感できるはずです。週3回、30~40分の息が上がる程度のランニングやサイクリングなどの有酸素運動を行いましょう。定期的に、数週間以上続けていけば、エンドルフィンや内因性カンナビノイドのおかげで、毎日、意欲に満ちて、快調で、気持ちよく過ごすことにつながってゆくでしょう。

 最近散歩の途中で、短い距離ですが、ちょっと走ってみたりしている蒼野でした。

参考書籍: GO WILD   野生の体を取り戻せ!  ジョン・J・レイティ

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BRAIN 一流の頭脳 アンダース・ハンセン

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