嗅覚障害!

2022/08/28

 コロナ感染は少し減ってきているものの、相変わらず高止まりですね。8月の初旬に大阪で暮らしている長女も感染し、味覚、嗅覚が分からないとのことでちょっと心配したのですが、幸い回復したようです。そこで今日は嗅覚障害について調べてみました。

 匂いの分子は鼻や口から入り、鼻の奥にある嗅細胞という細胞の粘膜表面にある繊毛にキャッチされ、電気信号に変わって脳の眼窩前頭皮質という場所に伝わることで匂いを感じます。これらのどこかの伝達が障害されたり、脳自体が感じにくくなったりすると嗅覚の障害が出てきます。

 物理的に匂いが嗅細胞に届きにくくなるような、慢性副鼻腔炎で鼻が詰まって起こる嗅覚障害が39%と最も多い原因です。続いて感冒後の21%、コロナはこの範疇ですね。ウイルスによる神経細胞のダメージによるものとされています。新型コロナウイルスは、嗅細胞自体ではなく、支持細胞に受容体があるため、その障害が示唆されています。

 3位が外傷、嗅神経の線毛は細くて切れやすいため、重傷の外傷で剪断力が働くと切れてしまいます。蒼野も車が横転するような重大事故に合った若者が匂いがしないといった例の経験があります。また。前頭蓋底を通る頭蓋内手術の合併症としても、嗅覚の繊毛が切れやすいことには、十分に注意が必要です。

 その他アレルギー鼻炎の鼻詰まりや鼻茸、先天性、薬物などの原因がありますが、21%を占める加齢性のものや、認知症に伴うような原因不明のものが少なくありません。リスクとしては、糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病、動脈硬化がある人も、嗅覚障害を起こしやすいと言われています。

 この中には、においの情報を脳が受け取れなくなるような、脳の病気が含まれます。アルツハイマー病やパーキンソン病の初期症状に高率に嗅覚障害が認められます。脳内変性疾患の異常蛋白である、アルツハイマーのタウやパーキンソンのαシヌクレインは早期から嗅内皮質に溜まって、神経細胞を傷害するため、他の症状よりも先に嗅覚障害が起こりやすいのです。

 一般的な嗅覚障害は、どんな人に多いのかというと、60歳以上、男性、喫煙者です。喫煙率が男性に高いこともありますが、女性は料理をする人は多いですし、化粧品、香水などにも敏感な人が多く、日頃からしっかり嗅覚を研ぎ澄ましている人の割合が多く、嗅覚が衰えにくいのです。女性の嗅覚障害が目立つようになるのは70代以降と言われています。

 嗅覚障害を早期に発見するために有用なのが、カレーの匂いです。嗅覚障害は認知症の初期症状として出ることがあります。そこで金沢医科大学医学部耳鼻咽喉科では、健常な高齢者、アルツハイマー型認知症の人、軽度認知障害(MCI)の人の3グループに分け、カレーを含む12種類の匂いを嗅いでもらう実験を行いました1)。

 健常な高齢者の97%はカレーの匂いが分かりますが、MCI、アルツハイマー型認知症と進むにつれ、カレーの正解率が下がることがわかりました。このことからカレーの匂いが分からないようなら認知症の心配をしなければいけません。カレーは強烈で特徴的な匂いですので、判別に役立つのです。

 かといってアルツハイマー型認知症の大半がカレーの匂いがわからない訳ではありません。メントール、バラの香り、ヒノキの香りの認識率は20%程度ととても低いのですが、カレーなら45%、ローストしたニンニクなら53%が判別可能でした2)。自宅で行う簡易な嗅覚検査として、紙で包んだカレー粉やインスタントコーヒーなどの匂いを当ててもらうのは良い方法です。

 幸いなことに、一般的に、他の神経細胞は再生しませんが、嗅神経は 変性後も再生するという性質を有しています。嗅神経の再生とともに嗅覚が改善する例が存在するため、もし嗅覚が低下しても、リハビリを繰り返すことによって、改善が期待できる場合があるのです。嗅神経より中枢の障害からの改善は難しいので、鑑別が重要です。

 理由なく嗅覚が悪くなってきている事が自覚された場合には、まずは耳鼻科を受診しましょう。同時に嗅覚のトレーニングを始めることをお勧めします。嗅神経の再生を促すために、積極的に、においを嗅ぐ行為を生活の中に取り入れるのです。

 具体的にはコーヒー豆やスパイスの効いた料理、入浴剤、整髪料など、複数のものを意識して嗅ぎわけます。もちろん多種類のアロマオイルでも構いません。朝晩1分ずつ、4種類程度のにおいを15秒ずつ嗅ぐ習慣をつけると、嗅覚の良いトレーニングになります。もちろん好きな匂いで構いません。

 食事の時に匂いにも精神を集中すると、食べ物がより深く味わえます。食事に集中することにもなりますので、マインドフルネスにもなります。好きな入浴剤を入れて。香りを楽しみながら、ゆったりと湯船に浸かるのも良いですね。石鹸の匂いやシャンプーの匂いなど、入浴中も違う匂いを嗅ぐ練習ができます。

 コロナ後遺症の嗅覚障害については、鼻水や鼻詰まりなどの鼻の症状がなくても突然起こるといわれています。個人差が大きいのですが、後遺症として長く残る方も中には居られます。およそ7~8割の患者さんは、1か月ぐらいで自然に治っていくことが多いとされています。

 もし改善の傾向が少ないようであれば、嗅覚トレーニングと共に当帰芍薬散を内服すると良いかもしれません3)。臨床研究でも治癒51%・軽快48%と良い成績が出ています。ガイドラインでも提案されており、ステロイド治療無効例にも効くことがあるようなので、コロナ後などに困っているようなら、試す価値がありそうです。

 嗅覚は加齢と共に落ちてゆきます。1000万~2000万個あるとされる嗅神経細胞も、年をとると再生スピードが衰え、薄毛になるのと同様で、少しずつ減ってゆくのです。嗅覚が少しずつ鈍くなるイメージです。急な嗅覚障害と違って、嗅覚低下は自分ではなかなか気づきにくく、日常生活に支障をきたしたり、周りから指摘されるまでわからないことが多いです。

 しかし進んでゆけば、味覚が変わって美味しくなくなり、食欲低下につながったり、腐敗がわからずに食べることで食中毒を起こしたり、ガス漏れに気づかずに爆発に繋がったりする可能性が指摘されています。認知症の進行も含めて、男性は60歳、女性は70歳くらいから気をつけると良いと思います。

 蒼野ももう危ない年代に差し掛かっています。毎日五感を研ぎ澄ませて生きるというのは、新しい発見もあり、毎日が楽しくなります。散歩中に花や樹の匂いを嗅ぐことも意識したいと思う蒼野でした。もっとカレーも食べようかなあ!

参考文献:

1)カレー1臭による嗅覚スクリーニングの可能性 日本味と匂学会誌 14 (3) : 517-518 2007

2)Science Reports 2017;7: 4798 1-7

3)嗅覚障害×当帰芍薬散  薬局 72(11) 42-44 2021

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