孤独とオキシトシン

2022/01/13

 今年になってから、身体の話が多かったので、そろそろ脳関係からの健康の話を書きます。孤独が健康に与える影響についてです。蒼野の外来に来る人で、健康状態が悪いなあと思う人は、未婚、もしくは離婚後の、中年以降の独身男性である確率が高い気がします。

 調子の悪い独身男性の特徴としては、あまり健康に気をつけておらず、ストレスいっぱいで、飲酒、喫煙、お弁当や外食での食事、好きなものや簡単なものしか食べない偏食、などの影響が大きいようにも思いますが、孤独で暮らしているということ自体でも、健康リスクが増加するという研究が沢山報告されています。

 2010年、アメリカ・ブリガムヤング大学の30万人の研究によると、孤独感を引き起こす社会的孤立は、喫煙、飲酒、運動不足、肥満よりも大きい短命リスクだと指摘し、2015年には、約340万人のデータから、孤独感が死亡率を26%高めると結論しています。

 コロナ禍の社会となり、今後ますます孤独は、大きな健康リスクとなる可能性があるようです。孤独はその人の主観です。同じ状況でも寂しいと感じる人もいれば、1人で気楽だと感じる人もいます。家族と同居していても、つながりを感じられなければ孤独だったりします。

 元々ヒトは群れをつくる生き物で、孤立は危険を意味します。だから孤独を恐れるのは本能だ、とも言われています。機能的MRIを用いて検討すると、ヒトが社会的に拒絶されると身体的痛みを感じたときと同じ領域(背側前帯状皮質)が活性化されており、脳は孤独を、痛みとして感じているのです。

 個人が孤独をストレスと感じると、副腎皮質から、ストレスホルモンである、コルチゾールが分泌され、全身に炎症が起こりやすくなります。慢性炎症はあらゆる現代病の要因ですので、死亡率に影響することも納得です。

 英国では国民の7人に1人、65歳以上の10人に3人が孤独を感じており、それによる経済的損失は年間4.9兆円といわれています。これを大きな問題と捉えた英国では、孤独はもはや個人の問題ではなく、国を挙げて取り組むべき課題だと認識し、孤独問題担当大臣が任命されて話題になりました。

 日本の状況も深刻です。独居世帯は全体の3分の1を超え、生涯未婚率は2020年で、男性26%、女性17.4%と急増しています。友人や同僚との交流がゼロ、もしくはほとんどない人の割合が、経済協力開発機構の20カ国中、最多で15.3%、同居の家族以外頼れる人はいない人の割合も16%で最多でした。老後の孤独も深刻で、近所付き合いしない高齢単独世帯は女性でも39.1%、男性は63.9%にもなっています。

 日本は地縁・血縁・社縁によるつながりが強い社会だったため、地域に長く住んでいれば、社会的孤立にはなりにくかったのですが、今や地域での交流も、親戚の集まりも、一生同じ会社に勤めることもなくなってきており、社会的に孤立することで、孤独を感じる人が増えています。

 逆に、絆や結束が強く残る地方部では、居住年数が長い人より、短い人の方が健康状態が悪いという調査結果も出ており、周囲とのギャップ、疎外感が影響している可能性が指摘されています。経済的に貧しい地域に住む裕福な人や、裕福な地域に住む貧しい人の死亡率が上がるという結果も認められています。

 汗水たらして働き続け、定年を迎えると、今まで自分を守ってくれていたポジションが急に無くなり、今まで繋がっていた仕事仲間もいなくなります。自分の価値や肯定感を失うことで、孤独を感じ、仕事を辞めた途端、急に健康を害することも大きな問題です。

 これらには、すべて個人の感じ方によって分泌される、脳内伝達物質のオキシトシンが関与していると考えられています。別名『幸せホルモン』『愛情ホルモン』『癒しホルモン』『絆ホルモン』とも呼ばれており、分泌されることで、我々に幸福感を与え、孤独や不安からくるブルーな気分を和らげてくれます。

 オキシトシンが分泌される生活を心掛ければ、孤独による健康悪化が防げるのです。残念ながら、オキシトシンは食べ物で増やすことはできません。まずは友人や家族と触れあうことです。スキンシップという意味だけではなく、会って一緒に何かをしたり、食事をしたり、おしゃべりすることで分泌されます。マッサージしてあげたりするのも、とても良い方法です。

 電話で喋るだけでも効果があります。遠くのご家族には、電話をかけましょう。自分の気持ちを正直に話したり、相手の話をしっかり聞いたりして、キャッチボールするのが大事です。他人に親切にすることでも、分泌が促進されます。健康のために、毎日人の役に立つことを心がけましょう。高齢で1人になっても、地域のボランティアなどに参加すれば、自分の健康に大きな効果が得られます。1日1善は自分のためになるのです。

 考え方のコツとしては、他人と自分を比べないこと。必ず自分よりも、どこかが優れた人は世の中にいるので、比べて劣等感を抱くと、人と関わりたくなくなり、孤独感が生まれやすくなります。自分より優れた能力を持っている人間がいたら素直に褒めましょう。褒めることでオキシトシンが分泌されますし、その人と仲良くなることもできます。他人の批判もしないようにしましょうね。

 特にSNSとの付き合い方も同様です。Facebookを長時間利用している人は、他人と自分を比べることで、孤独感を感じる人の割合が多くなる傾向にあります。批判せず、褒めることが、SNSでオキシトシンを分泌するコツになります。

 オキシトシンは一人で居ても、分泌可能です。抱き枕を抱いただけでも分泌されます。犬や猫などのペットと触れ合うと、動物も人間も幸せを感じます。映画、ドラマ、アニメ、漫画など、とにかく感動することができれば分泌されます。感動した時は『綺麗』『すごい』『素晴らしい』と感情を口に出しましょう。さらに分泌が高まります。

 自然とふれあうことは重要です。屋外に出て太陽の光を浴び、緑の多い場所を歩くと、心身が健康になります。誰かと一緒に歩けるともっと良いですし、一緒にスポーツすると最高です。またマインドフルネスなど、瞑想のトレーニングも、効果があります。

 孤独を感じるのは、考える時間がある時です。夢中で好きなことをしている時や、集中していれば、孤独を感じることはありません。定年後でも趣味がある人の健康状態は良いことが多いです。自分が楽しいと思うことを追求しましょう。またもし孤独を感じる時間が訪れてしまったら、思いきり泣いたりすることも効果的です。孤独な感情を誰にも相談できない場合は素直に涙を流しましょう。

 孤独な感情のコントロールは、心血管疾患、脳卒中、がん、認知症、うつ病、精神疾患、自殺念慮などの発症に、大きな影響を及ぼすことが、様々な研究で証明されています。コロナ禍で、孤独リスクは増しているため、積極的につながりを求めて生活してゆくことが大事ですね!

 去年6月に9歳の愛犬(ゴールデンレトリバー)が、急に亡くなり、オキシトシン不足になった蒼野一家です。また飼いたくて探しているのですが、コロナ禍で、ペットの値段が高騰していて、まだ踏み切れません。みんなもつながりを求めていて需要が高まっているのだろうなあと思う、今日この頃です。 

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