寄生虫の話!

2022/06/03

 今日は現代社会では激減している寄生虫の話題です。罹患数が少ないため大きな問題になることはない疾患ですが、運悪く虫に取り憑かれると、疑いの目を持った医師に罹らなければわからないということになりますので、頭の片隅に置いておくとよい知識となります。

 蒼野が小学校の頃は、ギョウ虫検査といって、セロファン紙を朝起きた時にお尻に押し当てて、ギョウ虫という寄生虫の虫卵がいないかどうか調べる検査が義務付けられていました。しかしこれは衛生環境が改善することによって、ほぼ絶滅したため、2016年から廃止されています。

 ギョウ虫は人間の腸に寄生する虫で、虫卵を介して感染が広がります。虫卵が口から入ると、約2週間から3週間で成虫となり、30日~50日で産卵を開始します。早朝に成虫のメスが肛門周囲まで出てきて、1万個前後の卵を産みます。想像するとちょっとゾッとします。

 お尻が猛烈に痒くなり、掻くことで手についた虫卵が、あちこちに付着します。数週間から数ヶ月は感染する力があり、一緒に暮らす人に広がったりします。もし感染した場合はコンバントリンという薬を2回飲めば治ります。

 明治時代の日本には多くの寄生虫病があり、重要性が認識されて、各大学で研究される様になりました。戦後米軍による対策、指導などにより激減し、1960年くらいから検便しても見つからなくなりました。大学の医学部の寄生虫学講座も減ってゆき、例えば九州では、宮崎大学、長崎大学、産業医科大学のみになっています。

 各大学の教授は、専門の虫を得意としていて、「~教授は~虫」という専門性を持って業界で活躍ができるとのことです。寄生虫に興味を持つ人は、一定の割合でおられるそうで、その方達は、怖いもの見たさのような魅力を寄生虫に感じられているそうです。

 蒼野が初めて聞いた芽殖孤虫(がしょくこちゅう)という虫は、これまでに疑い例を含めても18例しか報告がなく、専門家はそのうち、真の芽殖孤虫症は7例だけと考えているという、超珍しい寄生虫です。致死率がほぼ100%、皮膚に寄生し、どんどん虫が湧いてきて、「虫死に」するそうです。こうなるとエイリアンの世界ですね。

 ベネズエラの研究者が、この幻の芽殖孤虫を植え替えながらマウスの腹腔内で飼い続けていたそうです。東大の寄生虫研究者が日本に招き、接待攻勢してようやく譲り受けました。ゲノム解析まで行い論文にしたところ、マニアの間で大盛り上がりになったという話が、寄生虫学会の最近一番のトピックスとのことでした。めちゃくちゃマニアックで、蒼野は面白く感じました。

 それでは気をつけるべき、寄生虫の話をいくつか書いてみます。まずはマラリアです。ヒトが感染するマラリアには5種類あるそうですが、「熱帯熱マラリア」は放置すると確実に死亡する疾患です。国内での感染はありませんが、アフリカやインド、中南米、オセアニアに渡航し、帰国後に発症することがあるのです。

 最初は発熱だけで、時に下痢を認めます。それ以外ほとんど所見がないので、インフルエンザと区別がつきません。早い段階でマラリアと気付ければ、内服薬ですぐに治り、何てことはないのですが、見逃して4-5日が経過してしまうと、非常に厳しい状況になり、命に関わります。

 海外旅行でハマダラカに咬まれると、発症の可能性があります。帰国して1ヶ月以内に、発熱が続く場合には、必ず海外に渡航したことを伝えましょう! マラリアのヒントはそれしかありません。年間数人から10人くらいまでの発生ですが、万が一にも命がなくならないよう、確実に診断してもらいましょう。

 肺炎にも寄生虫で起こるものがあります。国内で多いのは肺吸虫症です。熱を加えないカニを食べると感染することがあります。モクズガニやサワガニ、上海蟹を紹興酒に漬け込んだ酔蟹、朝鮮料理の生ワタリガニのケジャンなどでの感染例があります。またジビエのシカとか猪の刺身でも感染するため、加熱が重要です。

 寄生虫は生態系の中で、宿主動物に寄生して生きています。ヒトは陸上の生態系に属するため、海の生物にいる寄生虫の感染の可能性は低いのですが、陸上の生態系にある川魚やカニ、動物などの寄生虫には感染しやすいのです。牛や鶏の生肉・生レバーにも、トキソカラという寄生虫が居て、肺炎を起こすことがあります。

 寄生虫肺炎になると、採血の白血球の分類で、好酸球が増加します。原因不明の好酸球増加、特に1000-2000/μL程度あったら、寄生虫感染を疑うべきでしょう。肺吸虫にもトキソカラにも特効薬がありますので、滅多にない疾患ですが、ちゃんと診断できることが一番重要です。生食の既往がないかどうかは重要ポイントです。

 キタキツネに寄生するエキノコッカスは有名な寄生虫ですが、面白いことに、寄生した状態で産卵して繁殖する最終宿主であるキタキツネにはあまり危害を加えません。むしろ中間宿主である、ネズミやヒトに、重篤な症状を引き起こします。

 エキノコッカスにとって、繁殖するための最終宿主は元気でいてくれた方が都合が良いのです。しかし中間宿主のネズミは、弱ってキタキツネに食べられることで、エキノコッカスは繁殖できます。ヒトの場合、エキノコッカスの虫卵が体内に入ると感染します。数年から数十年後に肝臓や肺、脳などに障害が出ることがあり、致死率も2.2%程度あるのです。北海道では、毎年数十名の患者が見つかっています。

 最後はアニサキスです。鯖にいるというのが有名です。蒼野も九州に住み出してからは、新鮮な鯖の刺身が手に入るので、注意が必要です。通常は鯖の内臓表面に寄生していますが、時間が経って鮮度が低下すると、身の部分に移動する様です。めっちゃ新鮮な美味しい刺身なら大丈夫かもしれません。

 脂の乗った腹身あたりにいることが多く、よく噛むと死ぬと言われていますが、小さくてかなり硬いので、相当噛む必要があるそうです。生きたまま飲み込むと通常は胃の中で死んでしまいますが、運が悪いと胃の壁に入り込もうとして、激痛につながることがあります。その場合には内視鏡で除去する必要がありますが、基本的には数日で死んでしまうため、怖い病気ではありません。

 蒼野は脳外科医なので、滅多に出会うことはない寄生虫疾患ですが、若い時に1例だけ経験があります。脳有鉤嚢虫症といって、サナダムシの幼虫が脳に迷入して、脳腫瘍の様な症状を引き起こしていました。手術すると、多数の卵が脳内から出て来て、ゾーッとしたのは忘れられません。

 まとめますと、海外渡航後に病気が出た場合には、必ず医師に言う事、生の川魚や蟹、肉の刺身などは避けること、鯖の刺身を食べるときは、超新鮮なものを選び、腹身を食べる時には、液状になるまで噛むことなどが、寄生虫を寄せ付けない方法だと思います。

 興味深い話としては、寄生虫は宿主の免疫機能を低下させるシステムを持つため、宿主の攻撃を回避していることが知られており、寄生虫がいる事で、アレルギー疾患や自己免疫疾患の発症が抑えられていたという話があります。寄生虫も昔から自然の中でヒトと共に生きて来ました。

 発想を変えれば、害の無い寄生虫と共生することで、増加の一途を辿る、花粉症や喘息、アトピーや自己免疫疾患を減らすことも可能かもしれません。研究が進めば、脚光を浴びる分野に変わるかもしれませんね! サナダムシを飼うと、痩せやすいと言う話もありますからね!

 病気を減らすために、皆様が自分で名前をつけたサナダムシを体内に飼う時代が来るのも、ちょっと気持ち悪いけど、面白いなあと思ったりする蒼野でした。

参考ページ: M3.com【時流◆寄生虫のはなし】 宮崎大・丸山治彦氏に聞く

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