寝たきりのキッカケを防ぐ方法!

2022/09/20

 救急外来の仕事をしていると本当に多いと感じるのが転倒です。顔から転倒してズル剥けになった方などは、見るだけでこっちまで痛く感じます。健康長寿を達成するには、避けて通れないのが転倒の問題です。今日はどうして転んでしまうのかと、その対策について書いてみたいと思います。

 子供の頃はよく転んで膝小僧を擦り剥いでいたものでしたよね! バランス感覚がまだ未熟な子供は良く転びます。同じようにバランス感覚が衰えてきたり、さまざまな病気の影響が出やすい高齢者も良く転びます。自宅で暮らしている高齢者の約3分の1は少なくとも年に1回転倒し、介護施設に暮らす高齢者は約半数が少なくとも年に1回転倒するそうです。

 アメリカでは転倒は事故死の主要な原因であり、65歳以上の死亡原因の第7位とされています。日本の統計では、転倒・転落・墜落とひとまとめになっていますが、令和2年度において、その死亡者数は、なんと交通事故死の4倍で8851人と報告されています。

 高齢者の要介護の原因としても、1位認知症、2位脳卒中、3位フレイルに次いで骨折・転倒が第4位となっています。そしてその半数が自宅で転倒しています。転倒したことがある人は、再び転倒する確率は高いです。転倒による怪我で、寝たきりになるのが一番多いのが大腿骨頸部骨折です。高齢で骨が脆くなると尻餅をついただけで、大腿骨は簡単に折れてしまいます。

 日本では50代の9人に1人、60代の3人に1人、70代の2人に1人は骨粗鬆症です。特に女性に多く、男性は300万人、女性980万人と言われており、女性に限れば50代の3人に1人は骨粗鬆症を持っているのです。これには閉経後にエストロゲンが急減することが関係しています。

 足腰が弱くなって転びやすくなると、活動量が減るお年寄りも多くなります。転倒を恐れるあまり、自宅に引きこもって、テレビばかり見ているような生活は、筋力低下、フレイルに簡単に移行する上、刺激が少ないことで認知症も進行しやすくなります。ますます転びやすくなるということです。

 転倒リスクを増加させる原因を考え、できればまだ元気なうちから対処しておくことはとても大切なことになります。転倒しやすくなる身体的要素としては、1、バランスまたは歩行の障害 2、視力障害 3、特に足の感覚不良(糖尿病性神経障害など)4、筋力低下 5、認知障害 6、血圧や心拍動の障害などになります。

 これらのそれぞれに、さまざまな原因があるため、紙面で全ては網羅できませんが、やはり日頃から毎日鍛えて、予防することや、食事にも留意して糖尿病などを進行させないこと。注意力に影響を与えるような強い鎮痛剤や抗不安薬、抗うつ薬に注意すること。降圧剤や糖尿病薬で血圧や血糖が下がりすぎて、失神しやすくなっていないかなどに目を向けておきましょう。

 蒼野の経験では、めまいを訴えるお年寄りはとても多いです。日頃の運動不足があると、めまいの中枢も衰えてしまうので、振り向いたり、方向を変える時などに、クラッとして倒れてしまうのです。肩こり首こりからのめまいや、水分不足のめまいも多い印象です。

 先日入院されたおじいさんは、不整脈で血圧が下がって転倒されたようです。意識消失して転倒すると、思わぬ大怪我に繋がります。その方は来院時にくも膜下出血があったため、慌てていろいろな検査をしました。脳血管に出血の原因は無く、最終的には意識消失による転倒で、外傷性のくも膜下出血を生じたものと診断しました。経過を見るだけで良かったので、お元気になられると思い安心しました。

 環境因子も重要です。自宅内の不十分な照明や滑りやすい床や敷物、足に引っかかるコード類、段差などは、高齢者がおられる家庭では特に、足を取られないように整備しておきましょう。救急外来に来られる患者様も、ベッドからの立ち上がりや、トイレ、お風呂などで転倒される方は多いです。夜暗い中でトイレに行こうとして、段差のある玄関の大理石の上に転落して大怪我された方なども診たことがあります。

 一度転倒された方は、2回も3回も転倒されると考えて、環境を整えたり、対策を立てることが重要だと思います。65歳以上の方のいる世帯は全世帯の49.4%。その中で65歳以上の一人暮らし世帯は49.5%、どちらも65歳以上のご夫婦だけの世帯は46.6%を占めています。若い人が助けてくれる世帯は全体の3.8%に過ぎず、いざ転倒が起こった時には、かなり厳しい状況と言えるでしょう。

 ですから転倒リスクは少しでも減らさなければいけません。一番必要なのは定期的な運動です。特に筋トレが有効です。始めやすい自重のトレーニングから始めましょう。運動習慣の無い高齢者では、掴まるところがある所に椅子を置くか、机の前に椅子を置いて、最初は手も使いながら立ち上がりましょう!

 朝、昼、晩で計100回くらい出来るようになると、筋力は徐々に改善します。膝を痛めないように下腿を垂直に保ったまま立ち上がれるよう、お尻は後ろに引き、体を前に倒してバランスをとりながら立ち上がりましょう。机や掴まる所がなければ、正しいスクワットになるような形が理想です。

 安定してきたら、太極拳や片足立ちなどの、バランストレーニングも行ってみましょう。立ったままでの踵上げや、足指でしっかり地面を掴めるように、椅子に座って足指でタオルを引き寄せるとか、足の指でグー・チョキ・パーをするトレーニングも行ってみましょう。個人個人でできる運動はそれぞれ異なるため、できることから取り組むことが大切です!

 寝ていて起きる時は、ゆっくり動く方が安全です。特に夜中のトイレは注意しましょう。姿勢の変化に適応する時間をしっかり取る習慣をつけましょう。朝起床前にはベッドの上で少しゴロゴロ頭も動かしてから、ゆっくり立ち上がるとめまいになりにくいです。転ばぬ先の杖やシルバーカーも大事です!

 足のケアは特に重要ですので、また別の日に書きたいと思います。足に合った底が硬く、足首を少し支持して安定する、ヒールが低めの靴を選ぶようにしましょう。視力が悪くなってきたら早めに眼科受診し、可能であればメガネ等で調整してもらいましょう。良好な視力は転倒防止の助けとなります。

 転倒リスクが高くなってきている場合には、トイレや浴室など立ち上がる必要があるところには、手すりをつけましょう。自宅内の滑りそうなところには、滑らないマットを置き、引っかかりそうなコード類は、壁の上の方を這わせましょう! 感知式の照明にするなどして、夜間歩く時にも、暗闇を歩かないようにしましょう。

 独居の場合は、もし転んだまま起き上がれなくなることも考え、個人的な医療警報装置などを導入し、いつも首にボタンをかけておくことも安心につながります。転倒しやすくなる神経疾患や、めまい、心臓疾患、足の問題などについては、日頃から医療機関で相談しておくことが重要です。

 蒼野の実体験でもあるのですが、思わぬ突然の事故で、生活は激変してしまいます。後遺症が残るような怪我にならないよう、特に高齢になったら、転倒について十分な注意が必要です。歳取ったら下半身から衰えてくることを意識し、せめて70代くらいからは(出来れば今から!)、全ての人に毎日の運動習慣をお薦めしたい蒼野でした!

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