慢性病を防ぐ最先端の方法!

2022/09/30

 さて、今日は昨日の続きにはなるのですが、メタボの源流の段階での治療を行うための現在の試みや、可能性のある薬やサプリメントなどについて、深堀りしてゆきたいと思います。

 少し昨日のおさらいです。消化管には味覚を感じる細胞があるため、特に糖などの貴重なエネルギーを食べて、消化管が甘みを感じると、それを吸収するためのSGLTトランスポーターが増えるようにできています。食べることが出来た物の吸収率を最大化することで、人類は飢餓の歴史を生き延びてきたからです。

 これが飽食の現代になると、糖尿病を始めとする慢性病、現代病の大きな原因になっています。糖が身体の中で余っているような状態であっても、そこに糖があると、腸も腎臓も貪欲に糖を吸収し、同時に塩分も吸収してしまいます。糖の量が多い程、SGLTトランスポーターの発現も増えてしまうため、糖の吸収も増え、インスリン抵抗性や耐糖能異常が強くなります。また同時に腸や腎臓の疲弊、老化も進み、ミトコンドリア機能が低下します。

 この悪循環はとても危険です。血圧が上昇し、それほど食べていないつもりでもカロリーはオーバーし、小さかった脂肪細胞は肥大化します。小さい脂肪細胞から出ていた、脂肪細胞から出ていた善玉ホルモンであるアディポネクチンの分泌は減り、肥大した脂肪細胞は炎症を伴い、悪玉ホルモンである炎症性サイトカインや、満腹ホルモンであるレプチンを常に分泌するようになります。

 アディポネクチンの分泌が減れば、脂肪燃焼が悪くなり、血管拡張作用や血管修復作用が低下します。インスリン抵抗性が増し、抗炎症作用が低下します。炎症性サイトカインによる全身の慢性炎症が起こることに加え、レプチン濃度が常に高くなるため、視床下部はレプチンに反応しなくなり、どれだけ食べても満腹にならなくなるのです。

 面白いことに、この反応は皮下脂肪では起こりにくいことが分かっています。腸の間にある内臓脂肪によってのみ起こる現象です。腸には様々な食べ物が入って来ます。腸は身体に良い成分は吸収し、悪い成分は除去しなくてはいけません。その為腸は悪い成分をやっつける免疫が発達していて、体内の免疫システムの7割を占めています。

 沢山食べるということは、異物が体内に侵入する可能性が高まるということです。食べれば食べるほど、腸の免疫反応が活発になり、炎症を起こしている状態となるのです。そしてそのそばにある内臓脂肪でも、免疫細胞が活発化し、炎症を起こすのです。この状態がメタボリックシンドロームです。

 これはマウスの腸でも確かめられています。健常なマウスに1ヶ月間高脂肪の食事を与えると、内臓脂肪が溜まる前に、腸の炎症が活発化し、腸は短縮し、腸内細菌が減り、盲腸も縮小しているのが観察されています1)。腸が炎症を起こして変性することで、バリア機能が侵され、身体に入ってはならない異物が腸の周囲にも広がりやすくなり、そこにある内臓脂肪にも炎症が起こると推察されています。

 メタボの最上流には、まず腸の炎症があるということになり、これは肥満関連腸炎と呼ばれています。つまり全ての慢性病の始まりは『食べ過ぎ』ということになります。食べ過ぎて炎症が強くなり、さらに貪欲な臓器の作用で吸収が高まり、肥満サイクルから抜けられなくなります。そして全身のミトコンドリアの機能も低下してゆくのです。

 これは肥満による糖尿病の治療のための、腸管バイパス手術の結果からも証明されています。日本でも2014年に保険収載されたスリーブ状胃切除術を行うと、糖尿病のコントロールはすぐに良くなります。BMIが40→30のように痩せる上、糖尿病は手術だけで80%が寛解するのです。血圧も10mmHg程下がり、心臓病の発症も半分となります。

 胃を小さくする効果だけではなく、胃が感じる味覚が低下することで、腸のSGLTトランスポーターの発現が抑えられ、糖や塩の吸収が正常化するのが、改善の原因と考えられます。つまり貪欲な臓器による悪循環が抑えられれば、慢性病から解放される可能性があるということを示しているのです。

 大事なのは食べ過ぎないことと、ちゃんとカロリーを消費することです。腹八分目とか、運動の効果は、ミトコンドリアの機能改善作用で説明できます。摂取カロリーが少し不足気味だったり、運動で消費したりすると、その分ミトコンドリアが頑張って機能を上げようとするのです。

 食べ過ぎによって、吸収率が増し、酷使されている腸や腎のミトコンドリアが疲弊することで老化が進み、病気へと進行するという話は昨日も書きましたよね! ミトコンドリア機能を若い頃のように高めることができれば、慢性病にはならないのです。

 ミトコンドリア機能の改善は、若返り、抗老化そのものです。お腹が空くと腹の虫がグーッと鳴ります。この時に胃から空腹ホルモンであるグレリンが分泌されるのですが、グレリンにミトコンドリアを高める作用があることが発見されています。お腹が空いてから食べるのは、とても重要なことなのです。現在、腎臓が悪くなり透析になってしまう人にグレリンを投与して、腎臓のミトコンドリアを高めて、透析を先に伸ばす試みがなされています。

 脈が上がるような運動をすると、血管内皮細胞からNO(一酸化窒素)が分泌されます。これは動脈硬化を予防し、血管を拡げて、ミトコンドリア機能を改善します。また運動で、心臓からはANPやBNPといったナトリウム利尿ペプチドというホルモンが分泌され、血管を拡げ血圧を下げると同時に、ミトコンドリア機能を改善します。

 ANPやBNPの効果が増強するように遺伝子改変したマウスは、高脂肪食を食べさせていても、太らないのです。我々が若い頃、ミトコンドリアが元気な時期には、食べても太らなかったのはこういう理由があったのですね。カロリー制限と運動は、がん、心血管病、糖尿病、認知症といった病気のリスクを大きく下げてくれます。

 メタボを元から断つには、腸の炎症を抑えて、全身のミトコンドリアの機能を上げる事というところまで行きつきました。これは老化という病気を治すということに他なりません。そのために今試されている物質の一つがNMNです。

 長寿遺伝子(サーチュイン=NAD依存性脱アセチル化酵素)はNADという物質を介して、体の至るところで働き、遺伝子のスイッチをON-OFFしたり、様々なタンパク質を活性化したりする機能があります。ミトコンドリアを増やす作用があり、老化を抑えて長寿にする作用があります。

 このNADの前駆物質がNMNです。NMNは現在サプリとしても売られていますが、高濃度投与での臨床試験も行われています。メタボの源流の治療になる可能性があり、肥満や糖尿病、慢性腎臓病などの治療に期待されているのです。長寿サプリということで大人気ですが、結構お高いです。レスベラトロールにもミトコンドリアの増強効果があり、こちらの方が少し安いです。

 5~ALA(5アミノレブリン酸)もミトコンドリア機能を上げてくれる天然のアミノ酸です。以前のブログにも書いたように、様々な食べ物にも入っていますが、メタボ予防とか筋肉をつけるためには、有効だと思います。感染予防効果もあるので今の時期にはピッタリです。

 あとは昨日書いたSGLT2阻害剤はよさそうですね!糖尿病の薬のメトホルミンにも抗老化作用が報告されています。どちらも現時点では処方薬なので、誰もが使えるわけではありません。メトホルミンもSGLT2阻害剤も飲んでいると便中に糖を排出することや、腸内細菌が変化することが分かっており、貪欲な腸を調整して整える作用が、長寿に影響すると考えられています。

 老化したミトコンドリアからの活性酸素を、抗酸化物質で全て消すのは難しいようです。それよりもミトコンドリア自体の機能を上げるアプローチの方が、老化を抑制し、メタボなどの慢性病の根元に働く方法であることが、見えてきているようです。

 これからの我々の生活への応用としては、やはりサプリだけに頼るのではなく、日常生活に、カロリー制限や間欠断食、運動や寒冷刺激などを組み合わせること、そして食材を選び、腸内環境を整え、炎症を抑えることが、これからの健康長寿の鍵になるのだと思いました。

 この二日間勉強したことで、少し頭の中が整理され、腑に落ちた気がする蒼野です。自分の身体でも試しながら、皆様にも最先端の情報をお伝えしてゆきたいなあと思っています。

参考文献: 

1)Colonic Pro-inflammatory Macrophages Cause Insulin Resistance in an Intestinal Ccl2/Ccr2-Dependent Manner. : Cell Metab 24 : 295―310, 2016.

メタボリックドミノと先制医療  伊藤 裕  日本内科学会雑誌 107巻 9号 1913-1919

過去ブログ:

https://blue-zone-life.com/ミトコンドリアの増やし方!/

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