気候変動と死亡率!

2022/07/19

 福岡は朝から土砂降りで、朝の散歩にも行けずパソコンに向かっている蒼野です。今年も異常気象の日が多いですね。異常な暑さや雹、ゲリラ豪雨、線状降水帯など、蒼野の子供の頃を思い出すと、どんどん変わって来ていることを肌でも感じます。今日は気候変動と死亡率というランセットの論文を見つけたので、一緒に勉強してみましょう!

 皆様はどの季節が好きですか? 夏や冬が好きという人ももちろん居ると思うのですが、やはり過ごしやすいのは、ちょうど気持ちの良い温度の日が多い春や秋という人が多いのでは無いでしょうか? 身体への影響も、ちょうど良い温度の時が最も死亡率が下がる様なのです。

 論文では毎日の気温と23の平均気温ゾーンに沿った176の個々の死因の原因固有の相対リスクをモデル化しています。毎日の死亡率データが利用可能な国で、死亡の原因別、および総気温に起因する負担を計算しています1)。

 1980年から2016年の36年間、9カ国6,490万人の死亡を検討し、気温が影響を与えたと考えられる死亡原因を特定しました。虚血性心臓病、脳卒中、心筋症および心筋炎、高血圧性心臓病、糖尿病、慢性腎臓病、下気道感染症、および慢性閉塞性肺疾患については、ちょうど良い温度の時に最も死亡率が低いことがわかりました。

 外的要因(例、殺人、自殺)のリスクや、溺死、および災害や事故、およびその他の意図しない傷害は、温度とともに増加していました。またその数は、地球温暖化の影響があって、年々増加する傾向にある事もわかりました。しかし暑さが心肺疾患や代謝性疾患もかなりの原因である可能性もあるとのことでした。

 ほとんどの地域では、寒冷効果が支配的で、死亡数も多いものでした。しかし元々気温が高い地域では、一定以上暑くなった時の、高い温度に起因する死亡率の増加は、主に外因死に大きな影響を与えていました。最近の異常気象を見ていると、あまりに暑いと、殺人や自殺が多くなったり、台風や洪水、土砂崩れなどが多くなって、死亡が増えるのは納得できますね。

 この論文では、毎年世界全体で約170万人の死亡が、最適でない気温に起因すると推定されています。各国のデータベースがしっかりしていなかったり、実際に死亡する原因となった病気や外傷が起こった日と、死亡した日の乖離等もあるため、なかなか難しい検討ではある様ですが、大きな傾向としては正しいと考えられます。

 寒い気候は、肺炎などの呼吸器疾患死亡や脳心血管死亡を引き起こしますが、過去20年でその影響は減少する傾向にありました。これは冬が暖かくなりつつあることが一因の様です。一方、暑い気候は、溺死・自殺など外因死の増加と関連しており、その数は地球温暖化の影響で増加する傾向にありました。

 もう一つ、地球温暖化をはじめとしたグローバルな気候変動に対する、環境・資源問題に関する国際的な作業部会が2017年のペーパーを紹介します。1995年~2015年で最も多かった災害は1)洪水3062件 43% 2)暴風2018件 28% 3)地すべり・山火事638件 9% 4)極端な気温405件 6% 5)干魃334件 5%と続きます。

 毎年報道される、太平洋赤道域の海面水温の上昇や低下である、エルニーニョ現象やラニーニャ現象が原因とみられる、自然災害の増加は怖いです。今後も竜巻、熱帯性低気圧、山火事、暴風などは、発生頻度、影響度の両面で増大することが予想されています。

 大雨や台風、竜巻それに伴う土砂崩れなど、我々の身近でも、大きな被害のニュースの頻度が上がっていることに、蒼野は気づきました。ヒトは今まで経験しなかったことは、今からも起こらないと思いがちですが、どの地域でも条件が重なれば、起こり得ることだということは認識して、防災対策を意識し、命を守ることが大切ですね!

 心配なのはこの暑さです。極度の高温は、高齢者などの体の弱い人に、より大きな影響をもたらします。もちろんエアコンを利用すれば、影響を削減できるのですが、長い目で見ると、エアコンの利用は、電力需要を増大させ、温室効果ガスの排出につながり、気候変動のサイクルを悪化させてしまいます。この悪循環はやるせないですね!

 2005年から2014年の間に年平均25個の大規模な熱波が発生し、年間7,232人の死亡につながったそうです。人口の高齢化が、気候変動の死亡率を上昇させます。WHOによると、2030年には、65歳以上の高齢者の高温関連の追加死者数は毎年37,588人~92,000人と身積もられ、特に南アジア、東アジア、東南アジアで増加するとのことです。

 突発的に発生する洪水と、徐々に高まる海水面の上昇の2つも大きな問題です。洪水に関しては事前に十分な警報があれば、死者数を大幅に減らすことができます。しかし、人々が避難所に集中すると、感染症が拡大したり、医療資源が被害を受けると、医療サービスが提供できないことなどから、死亡率が増加する可能性もあります。

 地球温暖化で、今まで住んでいた土地が海面下になってしまうと、大勢の人々の退避に伴って疾病や紛争の発生も予測されています。農業用地が水没すると、食糧危機が起こることも避けられません。特に東南アジアが危ない様です。難民が大挙して日本を目指すことだってあるかも知れません。

 蒼野はピンと来ていませんでしたが、旱魃や飢饉の発生も大問題です。世界の多くの地域が、極度の旱魃に見舞われ、食糧危機が起こります。日本ほど水資源に恵まれた国は無いのです。飢饉になれば、栄養失調や栄養不足が直接影響して子どもの死亡率の上昇につながります。また紛争や暴力につながるリスクもとても高いのです。WHOによれば2030年には、栄養失調等により発育が阻害された5歳未満の子どもの追加死者数は95,176人、これらの死亡の多くは、アジアで発生すると予測されています。

 地球温暖化によって増える特定疾患も指摘されています。1)下痢性疾患(アフリカ63%、南アジア31%)、2)マラリア(アフリカでさらに増加)、3)胃腸疾患と感染、4)喘息や呼吸器疾患(大気汚染の進行による若年者死亡の増加が、中国やインドで増加)5)癌(環境悪化や紫外線の増加)。

 今日はちょっと暗いお話になって、申し訳ありません。地球温暖化をはじめ、グローバルな気候変動は待ったなしで進んでいくのは間違いなさそうです。未来の事ばかり考えて不安になっても、何も良いことはありません。現在の防災意識を高め、天候や気温に気をつけながら、自分の健康を守ってゆきましょうね!

 あと次の世代に幸せと健康を繋いで行くためには、地球温暖化を止める行動を、みんなが少しずつでも意識することが、本当に大切なことだと思いました。今雨が止んだので、少し歩こうと思う蒼野でした。

1)Estimating the cause-specific relative risks of non-optimal temperature on daily mortality: a two-part modelling approach applied to the Global Burden of Disease Study

: THE LANCET   VOLUME 398, ISSUE 10301, P685-697, AUGUST 21, 2021

2)Climate Change and Mortality”(International Actuarial Association, Resources and Environment Working Group, Nov. 2017

もし記事が良かったよ!と思われた方は蒼野健造公式ラインのボタンをポチッと押して、ご登録くださいね。ライン登録された方で希望される方は、オンライン面談での相談に乗りたいと思っております。