今日は睡眠医療のスペシャリストである、琉球大学の高江洲義和先生の睡眠に関するお話を、睡眠薬の話も含めて紹介します。
コロナ禍になって、テレワークやステイホームが増えた、新しい生活様式は、通勤もない為、日中の活動量が減りやすく、日光にも当たらないことから、体内時計が乱れることで、睡眠が損なわれてしまう人も多いようです。海外の論文でも、ロックダウンの影響で、睡眠の質の悪化や、不眠症の増加、睡眠・覚醒リズムの乱れなどが報告されています。
またパソコンに向かう時間が増えて、夜遅くまで頑張ってしまうと、画面からのブルーライトによって、メラトニン分泌が損なわれ、睡眠相が後退し、徐々に昼夜が逆転してしまいます。これは睡眠薬の投与だけでは、十分な効果が期待できません。
こうした生活の中で、意識しなければいけないのは、まず1日の中でPCに向かう時間を決めて仕事をする習慣をつけることです。寝る前までPCをみるのはやめましょう。1週間を通じて、寝る時間と起きる時間を一定に保つことが、とても重要です。毎日異なる時間に起きて活動するのは、時差ボケを作ってしまうため、大きな不調につながってしまいます。だから夜勤は大変なのです。
体内時計のリセットのためと、日中運動する目的で、一定時間、外を歩く習慣をつけましょう。朝日を浴びながらの散歩が一番効果的です。一旦昼夜が逆転してしまうと、戻すのにも時間がかかります。短期的には睡眠薬などの使用も、選択肢の一つになります。
しかし睡眠薬は長期にわたって飲み続ける薬ではありません。依存の問題や、用量が徐々に増えてしまう問題、転倒や転落リスクが増加したり、認知機能が低下する要因の一つになったりもします。長期連用すると、いざ中止しようと思っても、離脱症状がひどかったり、不眠症状が再発することも多いのです。
現時点では、睡眠薬長期服用者が内服を継続する場合と、中止する場合のメリットデメリットを比較検討した、明確なエビデンスは存在していません。内服の継続・中止については個々の患者様について、睡眠薬のメリットデメリットのバランスをよく考えて、話し合った上で決定することが望ましいのです。
蒼野の外来でも、眠れないと訴える患者様は多いです。時間がある時には、眠りやすくなる生活習慣について、一生懸命お話させていただくのですが、患者様が沢山で、待っている方が多いときには、つい睡眠薬を処方して済ませてしまいたくなります。でもやめようと思ったときに止めやすい睡眠薬から使うことを心がけています。
一番困るのは、眠れないと訴えて、色々な病院から様々な睡眠薬をもらい、多剤併用することで、日中にふらふらしたり、強い眠気を感じたり、認知症が疑われるような患者様です。積極的に減量をお願いするのですが、なかなか聞き入れてもらえないことが多いのです。同意が得られなければ、減量は困難です。
睡眠薬を減量中止に踏み切るタイミングとしては、まず不眠が解消していることと、患者様自身が睡眠薬を辞めたいと思っていることです。その2点が揃っていなければ、睡眠薬の減量中止は不可能です。
昨今、長期連用での問題が叫ばれてきている睡眠剤は、ベンゾジアゼピン受容体作動薬です。長い間、抗不安薬や睡眠薬として使われてきています。常用量で処方していても、強い依存性があり、時間が経つと同じ量では効かなくなってくるといった特性があります。ふらつきや筋弛緩作用があり、転倒リスクが増加します。記憶障害を助長し、認知症リスクを増してしまいます。
蒼野が研修医だった頃は、投与に制限も無かった時代で、特にデパス(エチゾラム)は頭痛にも肩こりにも不眠症にも効くため、外来患者の半分くらいの人に投与している時代がありました。今考えると、とても恐ろしいことです。効かなくなってくれば、増量し、別の種類のベンゾジアゼピンを併用するなど、依存に拍車をかけるような処方が一般的でした。
最近では、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の依存性や副作用が周知されたため、多剤投与や多量投与、長期連続投与などにも、制限がかかるようになりました。患者様を睡眠薬、抗不安薬依存にしないためにも、最初からこういう薬は出さないことが重要になります。
ベンゾジアゼピン受容体作動薬について、皆様にも具体的に知っておいて欲しいので書いておきます。デパス(エチゾラム)、マイスリー(ゾルピデム)、アモバン(ゾピクロン)、ルネスタ(エスゾピクロン)、サイレース・ロヒプノール(フルニトラゼパム)、レンドルミン(ブロチゾラム)、ワイパックス・ユーパン(ロラゼパム)、メイラックス(ロフラゼプ酸エチル)、ベンザリン・ネルボン(ニトラゼパム)、リスミー(リルマザホン)、ユーロジン(エスタゾラム)、ハルシオン(トリアゾラム)、ドラール(クアゼパム)、セルシン・ホリゾン(ジアゼパム)などは、常用でも依存性がある薬です。
それではどんな睡眠薬が勧められるのでしょうか? 長期的に明確な安全性が示されている睡眠薬は存在していないのですが、最近開発された新規睡眠薬のメラトニン受容体作動薬や、オレキシン受容体拮抗薬が、依存性もなく、安全性が高いと言われています。
高齢者では、生理的に睡眠の質が低下してきたり、眠りにくくなる人は多いです。昔からベンゾジアゼピン系の薬を何十年も飲んできている人もよく見かけます。こういう全ての人の睡眠薬を中止するのは、現実的ではありません。量が増えないように気をつけたり、新規睡眠薬を上乗せしてから減らしたり、新規睡眠薬に置き換えたりする方法が試みられています。
新規睡眠薬は、ほとんど依存になる事なく、止めようと思った時もやめやすいことが報告されています。ベルソムラ(スボレキサント)、デエビゴ(レンボレキサント)はオレキシン受容体拮抗薬で、筋弛緩作用が少なく、呼吸機能や緑内障などへの影響もありません。レム睡眠を増やすため、夢を見やすくなります。ロゼレム(ラメルテオン)は、メラトニン受容体作用薬で、メラトニンの代わりとして働き、自然な眠りを促します。
睡眠薬はある意味最後の手段であり、生活習慣を指導する睡眠衛生指導は、全例に行うことが推奨されています。一般論は最初に記載したので、年代別の注意をもう一度、確認しておきます。
10歳代~20歳代前半の学生の場合、時間の制約が少ない分、睡眠リズムが夜型化して眠れなくなっている場合が多いです。夜遅い時間にスマホやタブレットを過度に使用していないかが、キーポイントです。せめて23時までで終了するとか、画面のナイトモードやブルーライトカット、部屋の照明を暗くするなどの工夫が重要です。
30歳代~50歳代の仕事が忙しい世代では、日頃の睡眠不足による、休日の寝だめで、時差ボケが起きて、不眠が悪化している場合が多いです。土日も平日も同じ時間に起きましょう。食生活の乱れや、運動不足なども目立つ年代ですので、個人個人の健康リテラシーを高め、生活習慣を見直しましょう。
60歳代以降になると、生理的に睡眠の質が下がって来ます。高齢になると体内時計が朝型化して、極端な早寝・早起き型になり、「午前2~3時には目が覚めてしまって辛い」と訴える方も出てきます。あまりに早く床に着くより、少し遅めに就寝すると良いことがあります。長い昼寝で、夜間の睡眠の質が下がらないよう、眠たい日中は身体を動かしましょう。
蒼野も気がつけば、高齢者!? 最近運動量がちゃんと確保できているためか? はたまた、ブログで就寝が24時前後になるためか? お酒を飲まなくなったためなのか? 朝まで6~7時間熟睡できることが多くなりました。とても気持ちの良い朝を迎える日が多くなり、幸せです!!
健康長寿のための、大きな柱である睡眠! 皆様も大切にしてゆきましょうね!
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