突然死

2022/01/26

 睡眠時無呼吸症候群の時に出てきた、突然死について書いてみたいと思います。元気だと思っていた人が、ある日突然、急激に疾患が発症し、急激に悪化して、24時間以内に死亡してしまうような状態! 怖いですよね。避けられるものなら避けたいものです。

 蒼野は今までに2回ほど、そういう人に遭遇しています。最初はフィットネスクラブに通って、エアロビクスに熱中していた30年くらい前、一緒に踊っていた同い年くらいの男の人が、急にばったり倒れ、その場で心肺蘇生しながら一緒に救急車に乗って救急病院へ搬送しました。

 ご夫婦で来られている方で、奥様に聞くと、元々肥大型心筋症を持っていたとのことでした。初めてのことだったので、かなり驚きました。幸い命は取り留められたとのことでしたが、後遺症が残ったとお聞きしました。

 次は20数年前に松山に住んでいた頃、夏の石鎚山のお山開きの時に、救急隊として参加していた時のことでした。石鎚山は霊峰で、山岳信仰の総本山でもあるため、お山開きには信仰心の厚いお年寄りが大挙して訪れます。その日も300人のバスツアーが登山していて、全員70歳以上ということだったので、『マジですか?』と思っていました。

 頂上までパトロールして、麓の本部まで戻り一息ついていたら、本部から500m位上がったところの登山道で、意識不明の人がいるとの連絡が入り、救命救急セットを持って走りました。ぜいぜい言いながら、奥様に見守られているお爺さんを発見、息をしておらず、脈も取れません。生まれて初めて屋外で、気管内挿管し、血管確保し、救急隊員と共に、アンビューバッグを押しながらタンカで移動し、地面に下ろしては、心臓マッサージをしました。本部まで降りると、ヘリが呼んであったので乗せて見送りました。病院までは着いたとの連絡に、みんなでホッとしました。

 突然死は若い人でも起こりますし、もちろん高齢者では多くなります。突然死の原因の多くは、心臓などの循環器系の病気ですが、原因の解明が困難な場合もまれではありません。突然死は、就寝中が多く、ついで入浴中のことが多いようです。これは心筋梗塞や狭心症の発症が、明け方や入浴中に多いことと、関連があるかもしれません。

 急性心筋梗塞では、心筋に血液を送る血管(冠動脈)が閉塞して、心筋が壊死(梗塞)することで発症します。梗塞の範囲が広ければ、全身に血を送り出すことができなくなり死亡します。また重篤な不整脈を生じることでも、突然死となります。

 様々な不整脈のうちでも、突然死につながりやすい不整脈は、心室頻拍や心室細動です。心筋が痙攣して、心臓から血液が送り出せなくなるのです。また徐脈性(脈拍数が減る)不整脈から死に至る場合もあります。

 最初の方のように、心臓の壁の一部が厚くなる肥大型心筋症では、心臓から流れ出る血流が阻害され、意識障害や突然死を生じることがあります。心室内腔の拡張する拡張型心筋症でも、心不全や不整脈から突然死となることがあります。

 心臓以外の循環器系による突然死の原因としては、大動脈瘤の破裂があります。強い背部痛・胸痛や肩の痛みで発症することが多いので、軽症の場合は、整形外科的な病気と思われてしまう場合もあります。

 脳血管障害による突然死は、蒼野は沢山診てきました。広範囲の脳出血や脳梗塞、脳幹部の病変では、突然死を生じることがあります。救命のために緊急手術になる方も沢山おられます。脳幹の出血や梗塞は、手術はできないため、保存的な加療になることが多いです。『Time is  Brain』と言って、脳血管障害は治療までの時間が、予後に直結するため、少しでも早く救急病院に運ぶことが重要です。

 突然死のうちで、最近注目されているのが睡眠時無呼吸症候群です。寝ている間に気道が閉塞し、低呼吸、無呼吸ののち、息苦しくなって再度呼吸をするようになる状態です。慢性的な酸素不足から、心不全や肺水腫、重篤な不整脈などを生じて、突然死の原因になることがあります。

 睡眠時の突然死については、寝る前のコップ1杯の水は習慣にしておきましょう。大量飲酒は脱水になるため危険です。心臓発作を防ぐには、カルシウムとマグネシウムを、日頃からしっかり摂取することが重要です。

 入浴時には、特に高齢者では注意が必要です。急激な温度変化にともなう血管の収縮・拡張のために血圧変動を繰り返し、また脱水などの影響もあり、心筋梗塞や脳血管障害を生じる危険が高くなります。

 冬季には、更衣室を温めておくことは重要なポイントです。入浴する前に風呂の蓋を開けて、湯気で温めることも行いましょう、急に熱い湯船に入るのは危険が高いので、注意しましょうね。もちろん暖かい部屋から、寒いトイレや屋外に出る時も注意しましょう。トイレも小さなパネルヒーターなどで少し温めておくと良いでしょう。

 そのほかにも色々なきっかけで、突然死が起こることが報告されています。例えば、スポーツ中や事故などで、胸部に強い衝撃を受けることで、心室細動が起こり、そのまま死に至るケースとか、若い人でも強いストレスが続いている時などに、突然死が起こった報告があります。

 また意外でもありますが、特にリスクが高いのはアスリートであり、突然死を起こす可能性は全人口の2~4倍と言われています。全てのアスリートという事ではなく、発見されていない循環器系の基礎疾患があることが主な原因で、運動中に過度の負荷がかかった際に、急性心停止や心室細動を起こしやすく、突然死に至るものと考えられています。

 まずは健康診断をきちんと受けておくことが大事なのかもしれません。特にアスリートは、循環器系の隠れた問題を見つけるために、定期的な心血管検査を受ける必要があると思われます。

 米国では、年間 30万人から40万人が突然死するとされ、我が国でも,年間およそ5万人が突然死すると、推定されています。原疾患は圧倒的に虚血性心臓病が多く、大動脈や脳血管障害も全身の血管病の一部です。動脈硬化を起こしにくい生活習慣が、突然死から我々を守ってくれることになります。

 睡眠不足や栄養不足、野菜不足、ストレス、糖質過多、加工食品過多、アルコール過多、運動不足、喫煙などは、いずれも動脈硬化のリスク要因です。生活習慣が乱れていると、突然死のリスクが高まる可能性があります。

 突然死を絶対に防ぐ方法はありません。もし自分の心臓が止まってしまったら、出来ることはありません。その時の状況や、その場にいる人によって、自分の運命は決まってしまうと思います。文字通りその人の命を救う可能性がある、最低限の知識は身につけておきましょう!

 万が一のために、多くの公共の場、公共の施設や職場などには、いわゆる自動体外式除細動器(AED)が設置されています。たくさんの人が、できるだけ速やかに、心肺蘇生やAEDによる救命処置を実施できることが求められているように思います。

 あまり遭遇したくは無いのですが、もし倒れた人が居たら、出来るだけのことはしてあげたいなと思う蒼野でした。

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