腸内細菌と慢性炎症

2022/01/10

 せっかくの連休でいつもよりも時間があるので、また大きな話題についておさらいしておきたいと思います。慢性炎症と腸内細菌叢の話です。健康を守ってゆく上で、避けては通れないお話になりますので、一緒に頭を整理して行きましょう。

 消化管は口から、肛門まで、つながっているチューブで、チューブの内側は、身体の外側です。腸粘膜上皮は細胞1個分の厚さしかなく、薄く作られていることで、体外から必要な栄養分を、体の中に取り込むことができます。

 病原菌や毒素の大部分は、皮膚の表面からではなく、とても薄い腸粘膜上皮を通して、食物と混じって入ってきます。栄養素を取り込みながらも、細菌やウイルス、毒素などは排除しなければいけません。そのため体の免疫システムの70%が腸に集まっているのです。

 腸粘膜上皮のすぐ裏には、腸関連リンパ組織があり、必要時にはリンパ球がすぐに働けるようになっています。また腸粘膜上皮の表面は、免疫グロブリン入りの厚い粘液で覆われており、病原体や毒素から細胞を守っています。

 腸の中にはさまざまな種類の、細菌が住んでおり、腸内細菌叢と呼ばれています。昨日も書きましたが、腸内細菌叢が多様で、バランスが保たれていることで、様々な作用が働きます。食事からの栄養成分の抽出や、吸収も補助してくれます。新たな病原菌がはびこらないように、排除してくれます。そして腸上皮細胞も保護してくれるのです。

 具体的には、炭水化物や脂肪、タンパク質の分解酵素も、様々な細菌が創り出します。またリラックス効果がある神経伝達物質のGABA(ガンマアミノ酪酸)やビタミンBやKも腸内で合成してくれます。ポリフェノールが、体の中で効力を発揮するように、腸内細菌が修飾して、活性化してくれるのです。

 食べたものが、本当に体に必要な働きをしてくれる形になるかどうかは、腸内細菌叢にかかっています。従って、腸内細菌叢が理想的な状態であれば、人は元気で、メンタルも安定し、病気にもならないということになります。逆に言えば、腸内環境が悪くなれば、全身が悪くなります。

 腸内細菌の数は100兆個以上、総重量は2~3kg、その種類は2000以上です。母親からもらった細菌に加えて、生後1000日までに、取り込んだ細菌が定着し、その人固有の腸内細菌叢が完成すると言われています。なるべく多様な細菌叢を作り上げるため、赤ちゃんはそこらじゅうを舐め回します。丈夫な体にするためには、赤ちゃんの周りを、しっかり除菌してしまうのは考えものです。色んな細菌を取り込んだ方が、腸内環境は良くなり、強い身体が作られるのです。

 腸内細菌叢は常に変化しています。これは毎日少しずつ口に入れるもので変わって行きます。同じものばかり食べると、腸内細菌の多様性が失われます。また食物繊維が少ない食事では、短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸、プロピオン酸)を作ることができません。酪酸は腸の炎症を抑えてくれて、正常な免疫反応を維持してくれる物質です。腸粘膜上皮の栄養でもあり、神経伝達物質の材料でもあります。食物繊維はとても重要な栄養素なのです。

 わずか4日間程度の食事の偏りで、変化が起こると言われています。しかしバランスの良い食事に戻せば、2日程度で戻ります。問題になるのは、何年も偏った食事を続けることです。腸内細菌叢の組成自体が、変わってしまう可能性があります。

 腸内細菌叢に大打撃を与えるのは抗生物質です。体の中の細菌が暴れている状態では必要な薬ですが、10日間程度、抗生物質を投与されることでも、腸内細菌の多様性は失われ、悪玉菌の割合が増えて、6ヶ月経っても元の状態に戻らなくなるのです。その上抗生物質が効かない菌が、新たに細菌叢に入ってくることもあります。耐性菌による感染症は重篤ですので、安易な抗生剤使用は禁物です。

 ウイルスで発症する風邪に、抗生物質は効きません。風邪の時に、抗生物質は飲まないことです。古い知識しかない医療機関では、いまだに処方されることがあるため注意して下さいね!また養殖された魚や、工場生産された畜肉にも、抗生物質が残っている可能性は高いので、なるべく減らす方が安全です。

 腸内細菌は加齢によっても変化します。徐々に善玉菌が減少し、悪玉菌が増えてきます。それに伴って、ビタミンB12の合成能力や免疫機能が低下し、ストレスに対する反応が大きくなります。歳を取るほど、腸内環境のメンテナンスは欠かせなくなるのです。

  腸内細菌は大きく分類すると、フィルミクティス門と短鎖脂肪酸を作るバクテロイデス門に分けられ、合わせて90%を占めます。別名、デブ菌と痩せ菌です。太りやすい人の腸内細菌にはフィルミクティス門が多く、バクテロイデス門が少ないのです。フィルミクティス門が多いと食事からより多くのカロリーを吸収させます。バクテロイデス門が少ないと、短鎖脂肪酸が減少し、腸の炎症が全身に波及することで、慢性炎症の元になるのです。

 糖質の取りすぎ、食物繊維の欠乏から、腸内細菌がフィルミクティス門優位となって太り、内臓脂肪を増やすことで、さらに慢性炎症が加速してゆきます。まず腸内細菌を整えて、バクテロイデスの割合を増やして、腸に炎症を起こさないことが重要です。

 また腸内細菌の乱れで、腸内にLPSという毒素が作られたり、小麦のグルテンや、牛乳のカゼインなどを摂取することで、腸内に炎症が起こると、1層しかない腸粘膜上皮の結合が緩み、腸内の物質が体内に入り込んでしまいます。リーキーガット(漏れる腸)と呼ばれるこの状態は慢性炎症を加速します。

 体内に入り込んだ異物やタンパク質に、免疫システムが過剰に反応することで、沢山の抗体が作られ、そのタンパクに類似した自分自身の身体のタンパク質を攻撃するようになると、様々な自己免疫疾患(喘息や1型糖尿病、セリアック病など)やアレルギー疾患(花粉症やアトピーなど)も発症しやすくなるのです。

 病的老化や、全ての慢性疾患に関与していると言われる、慢性炎症を起こさないためには、肥満しないことと、リーキーガットを起こさないことが重要です。リーキーガットの原因は、過剰な糖質、過剰な悪い脂質、抗生物質、グルテン、カゼイン、食品添加物などの様々な化学物質、ストレス、アルコール、カフェイン、痛み止め(NSAIDs)、ピルなどがあります。

 一旦悪くなってしまった腸内細菌叢は、どうやったら改善できるのでしょうか?これは発酵食品やサプリメントを摂ったり、食物繊維を摂ったりすることだけでは難しいようです。炎症が起こっている腸内にいくら良い菌や菌の餌を与えても、炎症が治らないからです。

 腸内環境改善のためには、まずは胃腸を休ませましょう。内臓脂肪を減らして、全身の慢性炎症も改善してゆく必要があります。まずは腸を回復させるタンパク質が豊富な、ボーンブロス(骨のスープ)と水分のみで3日間過ごす、ボーンブロスファスティングがおすすめです。糖質を摂らないことで腸の炎症が癒されて行きます。

 4日目からは、外食やお菓子などの悪い油を摂らないように、5日目までは糖質を極力控えて、手作りの料理を食べましょう。その後は、パンや牛乳、砂糖はできるだけ取らないようにして、糖質量は120g/日以下に抑えながら、厳選した食材を食べる16時間ファスティングに近づけて行きましょう。

 腸内細菌の餌となるプレバイオティックスとして、ネギや玉ねぎ、アスパラガスやオリゴ糖、こんにゃくなどを使いましょう。プロバイオティックスとして発酵食品を取り入れましょう。日本人なら、納豆やキムチ、味噌、醤油、味醂、糠漬け、麹などが良いでしょう。

 今まで糖質摂取が過剰だった人は、最初でつまづくこともあります。ファスティング中に気分が悪くなる場合には、一旦中止しましょう。準備が必要です。まずは手作りの料理を食べて、リーキーガットを起こす食べ物を排除し、できる範囲で糖質を減らしてゆけば、徐々に炎症が軽減します。1食分はボーンブロスにすると体重も減りますし、炎症も落ち着きやすくなります。

 腸内細菌叢の悪化と、肥満と慢性炎症はセットになっています。毎日エネルギッシュに、気分良く、不調も感じず、病気を寄せ付けない身体にするためには、全部を改善する必要があります。かといって、あまりに大きな生活習慣の変化は誰にとっても難しいと思います。

 まずは自分の身体の中で何が起こっているのか理解し、できる範囲から、悪い食べ物を減らし良い食べ物を増やして行きましょう。目安はお通じの状態です。毎日するっとバナナ状に出てくるようになれば、かなり良い状態だと思います。次は説明しきれなかったボーンブロスファスティングについて書く予定ですので、お楽しみに!

 書きたいことが多すぎて、まとめるのに時間がかかってしまった蒼野でした!

参考書籍: 食べても太らず、免疫力がつく食事法    石黒 成治

      最強 ボーンブロス食事術         ケリアン・ぺトルッチ  

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