今日は少し重めの話題、若年性認知症です。蒼野も以前のクリニックでフォローしていたこともあるのですが、若くして認知症になると、本人もご家族も本当に大変です。10月に出た論文で、若年性認知症と診断され、診断後3ヶ月以内に自殺する確率は、一般の自殺率の約7倍になるという結果を見て、そうかもしれないなあと思ったので、皆様にも紹介したいと思います。
論文は英ノッティンガム大学の研究者が、国家統計データを元に算出したもので、59万4,674例を解析、このうち1万4,515例(2.4%)が自殺による死亡例でした。全体で見ると、認知症の診断と自殺リスクの相関はありませんでしたが、診断時年齢が65歳以下、診断後3ヶ月以内という条件では、非認知症者と比べて自殺リスクが6.69倍高いことが示されました1)。
これを見ると、若年性認知症を告知する立場にある者としては、これからの生き方についての情報とか、様々なサポートなどについても、ちゃんと説明しておかなければいけないなあと思いました。特に他の精神疾患(うつ病、双極性障害、精神病性障害)などが合併すると死亡率は高くなります。相談窓口を紹介しておくことは重要だと思います。
蒼野の自験例としては、40代の男性で、コンビニのオーナーになり、夜も昼も働いていて、食事はコンビニで廃棄になるお弁当やパンなどで済ませていたという方が、すぐに忘れてしまうので、仕事に大きな支障が出るようになったとの訴えで受診されました。
もともとアトピーがある方でしたが、肌の状態もすごく悪く、痴呆スケールでは認知症の領域にあり、MRIでは海馬萎縮がかなり進んでいました。残念ながらアルツハイマー型認知症と診断しました。若年性認知症には、明らかな家族歴がある方も結構おられるのですが、家系的には他に認知症の方は居られないようでした。
生活習慣によって、若くして脳にアミロイドβ等の、老廃物が溜まってしまい、脳の変性が進行してしまった方のようでした。幸いだったのは奥様がすごく良い方で、これからの食事や運動、睡眠などについてアドバイスしたことを、しっかり守るよう本人に働きかけてくれたため、少しずつ改善し、仕事をしていた時よりはかなり元気になられて、日常生活は送れる状態をキープすることが出来ました。
若い人でもちゃんとした食べ物を食べず、夜も寝ないで、運動もしないで生活していると、アルツハイマーになるのだなあと心に刻んだ患者様でした。しかし収入がなくなったご家族がどうやって暮らされているのかまでは、クリニックとして介入はできていません。
この疾患の初期に本人が感じることは、今までやってきたのに、仕事の手順がわからなくなったり、ミスが増え、時間がかかるようになることです。上司の指示さえも忘れ、周囲から責められますが、何度も同じ間違いを繰り返してしまうのです。
周囲としては、なぜこんなに仕事ができなくなったのかが理解できません。同じことを何度も聞かれるとイライラしますし、本人を責めたり、叱ったりしますがそのこと自体も忘れてしまうため、人間関係も破壊されます。家事をしている女性であれば、家族との関係も悪くなります。
若年性認知症は多くの人が現役で仕事や家事をおこなっている年代ですので、認知機能低下によって様々な支障が少しずつ出てきます。しかし症例数は少なく、まさか認知症とは、本人も家族も思わないため、更年期障害とかうつ病と間違われることが多いのです。初期の対応ができない間に、本格的な認知機能障害に進行すれば、仕事は辞めざるを得ず、日常生活でも介助が必要な状態に進行してしまうのです。
そんな何もかも上手くいかなくなる八方塞がりの状態で、若年性認知症の診断を告げられれば、蒼野自身も死にたくなるかもしれません。完全に分からなくなるまでに、家族に迷惑をかけないよう死んでしまおうと思うのも、無理はないように思えます。
我が国の令和2年3月発表の18歳~64歳の若年性認知症者数は3万5,700人、人口10万人当たりだと50.9人と推計されています。発症平均年齢は51.3歳、高齢者の認知症は女性に多いのですが、若年性認知症は男性に多いことが知られています2)。
若年性認知症は様々な原因のものを含みます。原因疾患としては、アルツハイマー型認知症(52.6%)、血管性認知症(17.1%)、前頭側頭葉変性症(9.4%)、頭部外傷後遺症(4.2%)、レビー小体型認知症(4.1%)などとなっています。
脳卒中(脳出血、脳梗塞、くも膜下出血など)で一気に脳が破壊されて、認知機能が低下する血管性認知症は、麻痺などを伴うことも多く、身体障害による手帳や補償などが使えることや、急に発症して入院した後の状態であることが多いため、診断や予測がつきやすいです。頭部外傷による認知症も同様です。進行させないためには、動脈硬化を進めない生活習慣が一番重要です。
大きな問題なのは、最も多いアルツハイマー病や、若い人に多い前頭側頭葉変性症、レビー小体型認知症などの神経変性疾患によって起こる認知症です。徐々にできないことが増えてゆくため、本人もご家族も本当に苦しいと思います。遺伝も一つの原因ですが、生活習慣による影響が大きいものと、蒼野は考えています。特に若年発症だと、高齢者の認知症の2倍以上の速さで進行するため事態は深刻です。
認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)が出てくると、本当に周囲は大変です。BPSDには不安や抑うつ、行方不明、興奮・せん妄、幻覚、介護拒否など、病気のせいと思っていても、周囲の介護負担やストレスは計り知れません。一人で抱え込まず、サポート制度を積極的に利用するべきです。
まず大切なのは早期診断と早期治療です。なりかけの状態で、生活習慣を変えることができれば、一部の症状は改善します。具体的には運動によって、海馬や前頭葉の神経細胞を増やしたり、食事や睡眠で全身~脳の慢性炎症を抑えたり、オートファジーを活性化して、脳内の変性物質を減らしてゆくことが重要です。
65歳以下ということで、若年性認知症は、通常の介護保険は範囲外です。しかし40歳から64歳の若年性認知症は特定疾病ですので、手続きすれば様々なサービスが受けられます。もし診断が下っても、絶望するのではなく、会社に診断書を提出し、理解してもらいましょう。そして今後の仕事が可能な部署を検討してもらいます。
運転免許は返納しましょう。住宅ローンも返済免除されることもあるため、様々な社会制度について確認し、利用することを考えましょう。生命保険で高度障害認定を受けるとかなりの金額を受け取れることがあります。窓口としては、地域包括支援センターや若年性認知症コールセンター、各都道府県の相談窓口などで、相談に乗ってもらいましょう。
もう一度まとめておくと、若年性認知症は、経済的ダメージが大きく、精神的ダメージが大きく、適切なサービスの提供が少なく、受診が遅れやすく、家庭内での問題が大きく、周囲から理解されづらいという、本当にストレスの多い疾患です。ストレスのために本人も周囲もメンタルまでやられてしまいます。有病率も徐々に増えており、現代生活をいかにコントロールするかが課題になると思います。
もし以前に比べて物忘れがひどくなったなあと思われる方は、是非生活を見直してみましょう。蒼野も、自分の物忘れが気になりだしてから、腸活を意識した食事と歩く距離を伸ばすことで、5年前に比べて随分物忘れは減ったように思います。人生100年、仕事が出来る脳を維持出来るよう、中年以降は誰もが生活を見直して欲しい蒼野でした。
参考文献:
1)Risk of Suicide After Dementia Diagnosis. : JAMA Neurol. 2022 Oct 3;e223094. doi: 10.1001/jamaneurol.2022.3094. Online ahead of print.
2)若年性認知症の有病率・生活実態把握と多元的データ共有システム
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