見逃してはいけない足のトラブル!

2022/09/21

 昨日書いた高齢者の転倒に大きく関与する、見逃されやすい原因が、高齢者の足のトラブルです。人生100年時代、健康長寿の達成のためには、最後まで自分の足で転倒せずに暮らしてゆくことが必須の条件となります。足のトラブルは健康長寿の大きな足枷となってしまうため、見逃してはいけません。

 要支援、要介護の原因の半数近くがフレイルやサルコペニアから来るロコモティブシンドロームであることが分かっています。その一因として、足に起こる胼胝や鶏眼、肥厚爪や陥入爪といった問題は下肢機能を低下させ、転倒リスクを増大させるという検証があります。健康年齢を伸ばしてゆくために、足のトラブルを見逃さないことが重要なのです。

 米国内科専門医・老年医学専門医の山田悠史先生は、高齢者の診察をする時には、必ず靴下を脱いでもらって、足と靴を観察するそうです。靴が壊れていたり、靴底が不均一にすり減っていたりするのは、歩き方に問題があり、転倒しやすさにつながる所見であったりするのです。

 観察すると、足自体に、皮膚の傷やあざや発赤、腫脹、爪の変形や伸び過ぎなどがあり、日頃から歩いていなかったり、糖尿病で感覚が鈍麻し、傷があっても気付かない、きちんと爪などのケアができていないなどの生活状況が分かり、転倒リスクが高いかどうかも分かるのです。

 本人も家族も足まで注意が回らず、所見を見落としていることも多いのです。爪が伸び過ぎていないか? 爪の色が白や黒に変色していないか? 厚く変形していないか? 皮膚に水虫やカビや細菌感染のサインが無いか? 潰瘍などの傷、靴に当たって赤くなったり、腫れたりしていないか? などを見逃さないように観察しましょう。

 二本足で歩く人間は、足にトラブルがあると、すぐに歩行に影響してしまいます。特に糖尿病を患っていたり、透析治療を受けていたりする患者様は、足のトラブルを見逃すと、重篤な結果に陥りやすいので注意する必要があります。これらの基礎疾患で、足裏の知覚が衰えてしまうと、足に傷ができても気付きにくくなります。

 動脈硬化の進行を合併していることも多く、下肢への血流障害がある場合には、傷は治りにくく、短期間で悪化します。たとえば親指にできた小さな傷が、拡大してきて初めて気づき、その1週間後には親指が腐り始め、1か月後には親指を切断するといった患者様が居られるのです。

 足を切断した透析患者様の約半数は1年以内に死亡するという研究もあります。もちろんそれらの基礎疾患が無い高齢者も、安心はできません。脱水や、血がドロドロになったりすれば、足先の梗塞もあり得ます。人も動物ですから、歩けなくなると急速に衰え、フレイルやサルコペニアなどを併発し、寝たきりが近づいてくるのです。

 元気なうちから、足のトラブルに注意しておくことが重要です。高齢者の皮膚も常に新陳代謝は起こしていますが、その周期が長くなっています。通常他の部位の皮膚よりも厚くなる足裏で、ターンオーバーの周期が長くなれば、乾燥が進み、ひび割れて傷が出来やすくなります。循環が悪い人では、ひび割れが潰瘍に変わるのです。

 またクッションの役割をしている、踵の脂肪組織が、加齢と共に萎縮して薄くなると、痛みが出やすく、体重による圧迫で褥瘡も出来やすくなります。血管の加齢性変化で、心臓から最も遠い足先の血流は悪くなりやすく、また静脈灌流やリンパ灌流も悪化しやすいです。体重が最もかかる場所だけに、褥瘡や潰瘍ができやすくなるのです。

 筋力の低下等で、姿勢が悪くなり足裏にかかる圧力が一箇所に集中したり、外反母趾などの変形が進むと、局所的に過剰な圧力がかかります。その部分に皮膚の角化が進み、胼胝や鶏眼が出来やすくなります。皮膚からの出っ張りが強くなると、さらに圧力が掛かるため、潰瘍化し、強い痛みを伴います。痛みで歩けなくなれば、一気に筋力低下が進行し、転倒リスクは増大します。

 高齢者では爪に白癬菌が感染することも多いです。爪真菌症は爪甲が激しく肥厚し、普通の爪切りでは切りにくくなります。また同じように親指の爪が厚くなり、色調が黒ずんで凸凹になって、変な方向に曲がる爪甲鉤彎症という状態も、加齢と共に増えてきます。

 これは長期間に渡って爪を傷害する力が加わることが原因で起こるもので、小さな靴や先が狭い靴、前傾した姿勢でつま先に力がかかり続けるなどで起こりやすくなり、肥厚し、ねじ曲がった爪が靴を履くと皮膚を圧迫するようになると、びらんや潰瘍を起こし、痛みで歩けなくなります。

 また巻き爪も高齢者によく起こる変形です。あまり歩かない高齢者では、足指に体重をかける時間が少なくなると、もともと地面からの力を受け止めるために曲がっている爪の両端の曲がりが徐々に強くなってしまうのです。この部分が皮膚に食い込むと、炎症やびらんを起こし、痛みで歩けなくなります。

 これらの胼胝や鶏眼、足底の角化症によるひび割れ、爪の肥厚や食い込み、巻き爪などは放置していては治りません。皮膚科やフットケア科での治療が必要です。放置して歩く頻度が減り、筋力が落ちてしまうと、どんどん寝たきりに近づきます。痛みがある場合には受診をお勧めします。

 角質増殖や角化の改善、爪は厚みや形をなるべく正常に近づけるように整えるのが、フットケアの基本になります。治療後のセルフケアの方法もしっかり学びましょう。高齢者の足や皮膚には多くのトラブルが隠れています。超高齢化社会を迎える日本においては、まず足をしっかり観察することが必要になるのです。

 そして良い靴を履くことも重要です。つま先に十分な余裕がある靴で、少しつま先が反って上がっていて、クッションの良い、滑らない靴底が理想です。踵をしっかりサポートしてくれるカウンターが入っていて、自分の踵の形に合っているものを選びましょう。縫い目など当たって痛いところが無く、靴紐やベルトでしっかり甲が締まる靴が、トラブルになりにくい靴になります。

 日本ではまだまだフットケアの歴史は浅く、まだまだ一般的では無いようです。特に糖尿病や透析のようなリスクの高い患者様では、足に合った靴や個別のインソールを使う事が重要です。切断につながる足の潰瘍形成の原因の7~8割が靴擦れなのだそうです。胼胝や鶏眼なども個別のインソールを使うことで、徐々に改善するケースもあるようです。

 日本フットケア・足病医学会が発足したのは2019年です。フットケアの重要性が、皆様の常識になってゆくのは今からです。健康長寿は健康な足から始まります。今日勉強して、靴選びに慎重になりそうな蒼野です。でも良い靴って高いんだろうなあ……!

参考書籍: 最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM    山田 悠史

参考ページ: 高齢者のフットケア ~フットケアの必要性とケアのポイント~

https://pro.kao.com/jp/medical-hygiene/gakujutsu/hygiene-solution/no23/001/

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