長時間労働!

2022/07/03

 今日は健康にも大きな影響がある、仕事時間のお話を書きたいと思います。蒼野は会社の残業については経験がないため、具体的には分からないのですが、公立病院で主治医制であった時には、あまり家に帰らずに働いていました。若いから身体は何とかなっていたのですが、このままだと早死にするだろうなと思っていました。

 2019年より働き方改革関連法案の施行が始まり、コロナ禍も重なって現在、個々の事情に応じて多様で柔軟な働き方が求められる様になっています。医師に関しては、制度の見直し等に時間が掛かるということもあり、施行は2024年4月からということになっています。

 一般的にも残業や長時間労働は昔からあった問題です。働き手が多い時代、高度成長期には、ビジネスマンは「24時間戦えますか?」というキャッチフレーズもあり、バリバリ働くことが美徳とされ、できる奴という事になっていました。その影で身体や精神を壊す人も居られたと思うのですが、あまり注目はされていませんでした。

 現在は社会背景も変わり、今後の少子高齢化社会を支えてゆく働き手の健康と、働き手を確保する試みは必須事項となってきています。しかし会社の慣習を変えることは難しく、長時間労働が当たり前の職場を変えるには、「働き方改革」という形で政府主導でやってゆく必要があるのです。

 長時間労働が当たり前の職場には、長時間労働ができる人しか働くことは出来ません。共働き夫婦、外国人、高齢者などの「長時間労働ができない人」が働けなくなってしまうことは、今後ますます問題になってゆくと思います。一人ひとりのニーズにあった働き方を選べるようにしなければ高齢者を支えることもできなくなってしまいます。

 長時間労働のリスクの一つが、いうまでもなく健康リスクです。蒼野も40歳過ぎまで、月に12日当直し、夜中の救急や手術で眠れなくても、次の日も夕方まで働く生活をしていました。主治医制だった病院ではそれに加えて、自分の患者が悪くなったら、当直以外の日にも、呼び出されて夜も働いていました。

 おかげで子供の入学式や卒業式、授業参観なども行ったことがありません。患者さんが安定しているお休みには、遊びに連れて行っていましたが、今でも妻に、「家のことはほとんどしなかったね」と言われることがあります。妻が看護師で理解があったので、家庭は壊れませんでしたが、辛いこともあったのだと思います。人によっては仕事のために家庭が壊れることもあるのだろうと想像します。

 若かったとは言え、気分が落ち込んだり、やる気が出なかったりする時もありましたし、風邪をひいてもよほどでない限り、休んだ記憶もありません。このままの生活だときっと早死にするだろうとその頃から思っていました。運動も好きでしたが、定期的には難しく、ストレス発散で暴飲暴食もしたりしていました。本当に過労死しなくてよかったです。

 幸い鬱になったりすることはありませんでしたが、同僚が体調を崩して、長期欠勤するような話も時々耳にしました。今後人生100年時代には、還暦を過ぎても「長期間」働く必要が出てきています。他の職業も一緒だと思うのですが、「長時間」働くことで、「長期間」働けなくなれば、それは社会にとっても大きな損失になります。

 長時間労働のもう一つのリスクが、学びが進まないリスクです。ビジネスがどんどん変化する現代において、一度身につけたスキルや経験は使えなくなってしまうことも多いのです。どんな状況でも通用する人材になるには、新たな知識を学んだり、学び直したりする時間がどうしても必要です。

 長時間労働は企業経営側にもリスクをもたらします。試算では2030年、日本には644万人もの働き手が不足する事態になるそうです。外国人やグローバルに働ける人材、ワーク・ライフ・バランスを重視する若年層は、長時間労働を良しとしません。長時間労働がある企業は採用も難しく、もし採用できても、長時間労働を強いれば、早期離職のリスクがつきまとうのです。

 新入社員に対する意識調査では、75.9パーセントが「残業が少なく自分の時間を持てる職場」を希望していることがわかっています。またヨーロッパでは、超過残業には法的ペナルティが科されます。今後厚生労働省は、労働基準法違反の取り締まりを厳しくする傾向にあり、また長時間労働を放置して、ブラック企業のレッテルが貼られれば、行政や社会から制裁される時代になりそうです。

 昭和生まれの蒼野は、経験しているために分かるのですが、長時間労働に慣れてきている年配の労働者は、長時間働くことに「幸福感」を抱いている人がまだ居られる様です。これは終身雇用制の名残りでもあり、頑張っている姿勢を示せば、出世したり、自分が成長していると感じることができるからです。

 自分が成長するためには、やや難しい事に挑戦し、それを振り返って分析し、他者にフィードバックをもらうことが必須事項ですが、長時間労働では、振り返りもフィードバックも無いため、本人の実感ほどの成長にはつながっていないことがわかっています。長時間働くほど仕事の能率は低下します。

 仕事ができる人にも残業は起こります。仕事は、仕事ができる人に集中するのです。個人の仕事の範囲や責任範囲がはっきりしていないことが多く、仕事のスキルが上がり、残業が減って来れば、さらに仕事を任せられる様になってしまいます。

 日本人の忖度と、それまでの慣習で、周りの人がまだ働いていると帰りにくい雰囲気が残っています。「休憩を惜しんで作業を進める雰囲気」「始業時間よりも前の出社が奨励されている」など、明文化されていない慣習に従わざるを得ずに、残業や時間外勤務が常態化している企業も多いのです。

 また、若い頃に長時間残業をしていた人が上司になると、その部下の残業時間が長くなる傾向にあります。長時間労働の雇用慣行は、前の世代の上司から現在の部下へと受け継がれていくのです。蒼野の若い時も、上の人がみんなやっているので当たり前だと思い込んでいました。

 企業も思いきって変わってゆく必要があるのでしょうね! ノー残業デーの実施や、残業時間の上限設定、残業の原則禁止や事前承認制の導入、勤怠管理の厳格化などを整えてゆく必要があります。表面上の時間だけを削って、サービス残業が増える様な会社は、おそらく生き残って行けないでしょうね。もし残業が発生したら、きっちりと残業代を還元することも必要です。

 しかし、これが医師の働き方改革ではかなり難しくなりそうです。「勤務医の時間外労働の年間上限は原則960時間とする」と決まったのですが、仕事量の多い救急の病院では、今までの経験を考えると、守れそうにありません。目の前に急変した患者が居たり、救急車が到着したりすれば、自分の労働時間よりも、患者を救いたいと思う医師は多いと思います。

 しかし蒼野も、家で飲んでいて呼び出されて仕事をしたり、寝ていない時に仕事が立て込んだりすると、後から見直すと医療の質が下がっていたかもと思うことも多々ありました。誰もが、十分な休息で疲労を回復し、笑顔と最大限のパフォーマンスで、質の良い医療が提供できることが理想です。

 さて2024年までにどれだけ変えられるかは、医師の意識改革や医療機関の取り組みのみならず、医療行政による体制整備、他職種の協力や一般の患者さんの理解が不可欠なのでしょうね!

 AIの導入による効率化などを駆使し、働く人が健康で、幸せで、成長する時間も持てる企業が増えてゆくことは、健康長寿に大きな影響があるだろうなと思う蒼野でした。

参考書籍:  残業学   明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?  中原 淳

参考ページ: 医師の働き方改革について 厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000818136.pdf

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