運動が大事な事は、皆様も頭ではわかっている事なのだと思います。しかし忙しかったり、あえて行うモチベーションが湧きにくかったりして、ついつい明日からにしようと思う気持ちは、過去の蒼野も、沢山経験したのでよくわかります。今日もSPORTEC2022で感じたことと関連した話題を書きたいと思います。
会場には明らかにムキムキの人や、細いウエストを見せて歩くカッコいい女性の割合が多かったです。フィットネスの最新を展示する催しなので当然なのでしょうね。一旦会場を出て街を歩いていると、フィットネスとは関係ないと思われる体型の方もやはり多いのは事実です。上京して久しぶりに義理の弟の話を聞くと、「コロナ禍で在宅ワークが増えて、1日1000歩も歩かないかも」とのことでした。
こうしてみると、日本人には日頃から運動を意識する人と、あまり気にしていない人に大きく分かれるようです。会場にも3%→10%という大きな広告が有りました。日本のフィットネス参加率はここ30年間3%程度(2018年3.33%)で変わっていないので、是非先進国並みに挙げてゆこうという呼び掛けです。
ちなみに2018年のフィットネス参加率は米国20.3%、カナダ15.5%、イギリス14.8%、ドイツ12.9%、スペイン11.2%と続きます。2020年からコロナ禍になり、スポーツジムのクラスターの報道などもあって、蒼野の外来でも、運動ができなくなったと言われる患者様が多くいらっしゃいました。フィットネス業界自体もかなり落ち込んだと聞いています。
コロナ禍に、運動をしなくなったことで、アメリカの大学生682人の調査によると、うつ病の高リスクの状態と判定された人は61%で、コロナ以前に比べて2倍に増えていたそうです。高齢者のフレイルや認知症リスクも増えています。コロナ太りは若い人ですが、高齢者では筋肉が減って体重が減るコロナ痩せの方が多いかもしれません。
もちろん、自分でこの状況がまずいと気付いて、新たに運動を始めた人もいます。今後も医療費が、どんどん増えてゆく事は目に見えています。国が賄いきれなくなる日も、遠からずやってくるかもしれません。個人負担が増えてゆく傾向は今後も続いてゆくでしょうね! 病気にならない予防の考え方をする人は増えてくると思われ、社会的にも運動に参加する、健康ムーブメントは今後ますます盛り上がってゆくように思います。
蒼野は脳外科医なので、運動の脳への影響は特に気になります。今日はそこを少しおさらいしておきたいと思います。蒼野の愛読書の一つに『脳を鍛えるには運動しかない!』という2008年にアメリカで出版された本があります。
運動で、新しく脳細胞が増えるというのは、まだ一般的ではない知識かもしれませんね! ウォーキングだけでも効果があります。生理的に毎日減ってゆく運命である脳細胞を増やすためにも、またストレス発散のためにも、散歩はおすすめです。認知症に対しても、今使われているどんな認知症薬よりも効果があります。アルツハイマー病の発症を40%も減らしてくれる薬は、運動以外にありません。
先日も書きましたが、時間がない人は心拍数が上がるような少し激しい運動を短い時間行う運動がとても有効です。HIITや縄跳びを1日5分で良いので、最初は慣らしながら、自分の最大限で、できる習慣を獲得しましょう。
運動すると脳が増える理由は、何度も書いている脳由来神経栄養因子(BDNF)です。BDNFが、脳の神経細胞や、脳に栄養を送る血管の形成を促すのです。本に書いてある有名な話ですが、継続的な運動によって、脳の認知能力が強化されることが明らかになっています。
アメリカの中学3年生28万人、中学1年生32万人、小学5年生35万人の調査では、子供たちの心肺能力や筋力、持久力と、標準学力テストの数学および英文読解力の成績の、関連性を分析したところ、体力調査での成績が高い子供ほど、学業成績も優秀な傾向があることが確認されているのです。
著者のジョン・J・レイティ博士によると、脳を育てるために効果的な運動は、一定時間にわたって心拍数を上げるタイプの運動です。心肺機能が特に学業成績と強い相関関係を示しています。週に2日、最大心拍数の75.9%までの激しい運動を短めに行い、週4日65.75%までの運動を少し長めに行うのが理想です。
具体的には早足のウォーキングやランニング、エアロビクスやエアロバイク、先日書いたHIITなどです。ちなみに最大心拍数は220ー年齢で、高齢者の場合は207ー(年齢×0.7)で計算しましょう。最大心拍数の80%はほとんど全力疾走、70%がやや息が上がるジョギングといった感じです。
効果的に頭を良くするためには、運動で心拍数を上げて、脳の血流を増やしたタイミングで勉強するのが思考力も集中力も飛躍的に高まるため、理想的です。日頃取り入れるには、朝少し息が上がる運動をしてから、勉強に取り組めると良いですね。
栃木県の田舎の小学校で、この米国発の頭脳発育プログラムを実際に実践しているところがあります。boksプログラムと名付けられた方法で、3つの条件のクリアがポイントです。1、最大心拍数の80%(顔が赤くなるまで全力疾走)2、ヨガやバレエのポーズなどの普段使わない筋肉を使い、複雑な動き、自分の動きを意識する 3、出来れば朝か、勉強の合間に行う。
具体的には1、5~10分の声を出しながら準備体操 2、10分程度ランニング 3、15分程度、体と頭を使ったゲームや遊び(床に伏せるだるまさんが転んだなど) 4、整理体操とクールダウンです。小学校では毎日ではなく月1~2回程度、全校生徒140人が、2時間目と3時間目の間に集まって行いました。
行った結果、記憶の定着や計算のスピード、授業への集中力が向上し、学年30人弱の学校ですが、中学受験した3人は全員第一志望校に合格したそうです。生徒間のトラブルが減り、メンタル面の安定も、目を見張る変化が出ているようです。この報告を受けて、栃木県の6校の公立小学校でboksプログラムの採用が予定されています。
コロナ禍で子供の運動も減っていると思います。将来の日本を担う世代ですので、こういう教育がどんどん広がってゆくといいですね! 子供には授業がありますが、大人はありませんよね! ここは自分で行うしかありません。デジタル社会になり、コロナ禍になって、運動しないデメリットは今後ますます明らかになると思います。
一般論として現役世代は、コロナの影響で体重が増え、座ることがさらに多くなったと思います。運動していない人は、している人より2.5倍コロナによる死亡率が高く、2.25倍重症化しやすいというデータが出ています1)。いつまで続くかわからないコロナ禍も、もう自粛しない方向性で進んでゆくと思います。
普通に元気で働くために、認知症にならないために、将来沢山医療費を払わないために運動は必須です。フィットネスに参加したり、毎日の生活の中にうまく運動を取り入れてゆくことを、蒼野は強くお勧めします!
参考書籍: 脳を鍛えるには運動しかない! ジョン・J・レイティ
参考文献: 1) Physical inactivity is associated with a higher risk for severe COVID-19 outcomes: a study in 48 440 adult patients : British Journal of Sports Medicine 55(19):1099-1105 2021
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