皆様の尿酸値は正常でしょうか? 蒼野も健診や、患者様の採血結果を見ていると、高尿酸血症の方はとても多い印象です。日本の推定人数は1000万人超え、成人男性の4~5人に一人、30~40代の男性がピークで3人に一人が高尿酸血症と言われています。痛風発作を起こした人は、気をつけている人や薬を飲んでいる人も多いのですが、痛くも痒くもないため放置している人はとても多いのです。
今日は高尿酸血症について、深掘りしてみたいと思います。血液検査の尿酸値が7.0mg/dLを超えると高尿酸血症と診断されます。これは、高血圧、糖尿病、脂質異常症に続く、メタボリックシンドロームの4つ目の指標とも言われています。高尿酸血症の改善は健康長寿につながるという視点を持っておくのが大切です。
高尿酸血症に関連して、直接我々が困る病気が痛風です。風が吹いても痛いというくらいですので、よほどの痛みです。蒼野は幸い経験が無いので、うまく表現できませんが、特に足の親指の付け根が赤く腫れ上がり、靴も履けない患者様は見たことがあります。
痛風患者数はここ33年間で約5倍の125万4000人になりました。高尿酸血症の10人に一人強が発作を起こすという計算になります。閉経前の女性が発症することはまれです。男性に限れば6倍の約120万人が発作で苦しんでいます。急増の原因としては、ストレスや生活習慣の変化だと考えられています。
血液中の尿酸値が高くなると、体液に溶け込める量を超えた段階で、結晶になって析出します。これは関節を覆う膜や関節軟骨で起こり、異物として認識された尿酸の結晶を、白血球が攻撃することで強い炎症が起こるために、痛みとなるのです。この状態になれば病院で治療を受けることになります。
しかし高尿酸血症は「痛く無いから大丈夫」と放置しないことが、大事なことなのです。尿酸自体は元々悪いものではありません。ヒトでは核酸の主成分であるプリン体が代謝されて出来る、最終代謝産物が尿酸です。多くの動物では尿酸代謝酵素を持つため、体内に溜まらずに無くなってしまいます。
しかしヒトや、チンパンジーなどの大型の霊長類の一部では、進化の過程でこの酵素を捨ててしまったため、体内の尿酸値は一定のレベルが保たれています。これは、ヒトが体内でビタミンCを作る能力を失い、ビタミンCが摂れない時に、活性酸素を除去する作用を持つ尿酸で補ったためと考えられています。
必要な物質であったことから、腎臓で尿として排泄される尿酸は、排泄される前に尿細管で再取り込みされ、体内には常に一定量の尿酸がキープされるようになっています。農業革命以降、食べ物が十分になるにつれて、必要以上の尿酸が溜まるようになってきました。そして先ほど書いた痛風を筆頭に、尿路結石や腎結石、腎機能障害、そしてメタボリックシンドロームに影響するようになりました。
メタボリックシンドロームの内臓脂肪型肥満の人は、尿酸値が高めであることが多いのです。逆に尿酸値が高いほど、メタボリックシンドロームが悪くなる傾向も見られ、特に尿酸値が上昇してきた場合には、生活習慣の見直しを行う必要があります。
尿酸値を下げる薬はありますが、尿酸値を下げただけでは、メタボによる、健康リスクが下がる訳ではありません。薬を飲むだけではなく、生活習慣の改善が望まれます。高尿酸血症は全身病の現れですから、放置すると深刻な病気につながる可能性があるのです。
昔から言われているものとしては、プリン体の多いビールや、魚卵などを多く摂るなと言われていますが、蒼野が食生活についてお聞きした高尿酸血症の方では、ビールも魚卵も食べていないと言われる方が多いです。実は体内の尿酸値は8割が肝臓で合成されるものです。摂取する尿酸は2割しか影響しません。
実は米国での12年間のコホート研究では、アルコールの摂取量が多い人ほど痛風リスクが高くなっています1)。女性で痛風になる人は少ないのですが、その中で発症する女性はほとんどが大酒飲みです。プリン体の多いビールだけでなく、アルコール自体、肝臓で代謝される時に、尿酸合成を促進することと、腎臓からの尿酸排泄を抑えてしまうことによって、尿酸値は上昇します。
日本人男性の研究でも、6年間のコホート研究で、アルコールの摂取量が多い人ほど、高尿酸血症のリスクが高まるという結果が報告されています2)。痛風の発症リスクも飲酒量が多いほど高くなります。高尿酸血症に最も影響するのは飲酒量のようです。1日の飲酒量は20gまでとし、最低週1回は休肝日が必要です。
次のリスクが内臓脂肪型肥満です。インスリン抵抗性を引き起こす、内臓脂肪型の肥満は、高インスリン血症によって、腎臓での尿酸の再吸収が促進され、肝臓でのプリン体合成が促進されます。尿酸値はBMIとも連動しますので、生活習慣の改善(食事、運動、睡眠、ストレスコントロール)でBMI22を目指しましょう。
内臓脂肪の増加に大きく影響するのは果糖の摂取です。甘い飲み物(ジュースや缶コーヒー)や砂糖(ブドウ糖+果糖)の摂取は控えましょう。精製炭水化物(白いパンやご飯)、麺類などの摂取もほどほどにしましょう。食物繊維を増やす食事がポイントです。体重の3%、70kgの人の2.1kg、90Kgの人の2.7kgを1年間で減らすだけでも、尿酸値は下がります。
運動習慣も取り入れることで、過激なダイエットはしなくても、尿酸値のコントロールは可能なのです。尿酸値を下げる食べ物もあります。コーヒーと乳製品です。米国での12年間のコホート研究で、コーヒーの摂取量が多い人ほど痛風発症リスクは少ない3)、とされていますし、乳製品摂取量の多い人は摂取量の少ない人より痛風発症リスクが4割低かったという結果も出ています4)。
もちろんプリン体が多い食べ物は、続けては食べないようにしましょう。特に多いものはレバー、干した鰯、白子、あん肝、太刀魚など。意外に多いのはカツオや大正海老、マイワシや干した秋刀魚や鯵などです。レバーと魚の干物、白子以外は、時々食べるのはOKです。
水分摂取を増やすと、尿酸排泄が高まります。尿酸値が7.0mg/dLを超えている人は、腎臓と心臓に問題がなければ、1日2000~2500mLの飲水を心がけましょう。コーヒーも含めて摂っていくと効率的だと思います。
運動に関して、高尿酸血症の人には注意点があります。激しい筋トレを行うと、プリン体の一種であるATPが分解されるため、尿酸値が上昇してしまいます。重量上げや柔道のオリンピック選手などでは、いずれも6割以上に、高尿酸血症が認められています。緩い有酸素運動が有効です。
繰り返しになりますが、高尿酸血症は全身病です。尿酸が多くなると、各臓器の細胞内に取り込まれて臓器障害を起こすことが分かっています。長く放置すると、膵臓に影響して糖尿病を増悪し、腎臓に障害を起こし、血管や心臓に影響して高血圧、不整脈、心不全の原因となります。
尿酸値を下げる生活習慣は、他の病気のリスクを下げることにつながります。尿酸値が8.0mg/dLを超えている人は、内服も始めておく方が安全です。健康長寿のバロメーターとしての尿酸値にも、注意してゆきましょう! 高い人はぜひ、少しずつ生活を立て直してゆきましょう。
外来で尿酸値が高い人がいたら、説明することがいっぱいあることに気づいた蒼野でした。
1)Alcohol intake and risk of incident gout in men: a prospective study : Lancet. 2004;363:1277-81
2)Alcohol intake and the risk of hyperuricaemia: a 6-year prospective study in Japanese men : Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2012 Nov; 22:989-96
3)Coffee Consumption and Risk of Incident Gout in Men : Arthritis Rheum. 2007;56:2049-2055
4)Purine-rich foods, dairy and protein intake, and the risk of gout in men : N Engl J Med. 2004;350:1093-1103
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