高血圧性脳内出血

2022/02/18

 昨日塩分過多での高血圧のお話を書いたので、今日は自分の専門である、脳内出血の話を書いてみようと思います。

 脳内出血は文字通り、脳の中に血が出る病気です。一番の原因が高血圧で、血圧が高い状態(収縮期140、拡張期85mmHg以上)を10年以上放置していると、いつ出血してもおかしくない状態となります。いわゆる高血圧性脳内出血と言われるものです。

 脳内の、穿通枝と言われる細い動脈の壁が、血圧で傷み、脆くなってある日突然出血します。血管の壁はコラーゲンで出来ており、タンパク質不足やビタミンC不足も影響します。喫煙は1本で1日のビタミンC所要量の半分を消費してしまうため、脳出血のリスク要因となります。

 血圧が上がりやすい、ちょうど今のような寒い冬の時期に発症しやすい疾患です。また寒暖差が激しい季節の変わり目や、クーラーが入り始める夏の始まりの時期にも多くなります。交感神経が刺激されて、血圧が上昇しやすくなる時期だからです。8月くらいが一番少なく、脳神経外科は1年で一番暇になる時期となります。

 それ以外の脳出血の原因としては、少ないのですが、血管の奇形やモヤモヤ病などの血管の病気、高齢になって、血管壁にアミロイドが沈着して脆くなり出血するもの、抗凝固剤や抗血小板剤などの、血液がサラサラになる薬が効きすぎて出血するもの、腫瘍から出血するものや、脳動静脈瘻などからの出血などが挙げられます。

 高血圧性脳内出血を起こす穿通枝は大体決まっており、出血部位としては、被殻、視床、小脳、脳幹、皮質下出血などが代表的です。初発症状は麻痺や失語、構語障害、意識障害などが多く、収縮期血圧が200を超えるような異常な高血圧性緊急症を合併していることも多いです。

 死亡率が高いのは脳幹出血です。手術もできない部位で、脳幹に大きな出血が起こると、意識障害を伴い、生命中枢である延髄に影響が及べば、呼吸が止まります。命を取り留めても、植物状態になったり、麻痺などの重い後遺症が残ることが多い出血です。

 小脳出血も長径が3cmを超えてくると、脳幹への圧迫が強くなり、命に関わりやすくなるため、緊急での開頭血腫除去術+小脳の覆う後頭部の骨を除去して、減圧を行う手術が必要となります。脳幹が傷害されなければ、小脳出血のめまいや失調症状の後遺症は、リハビリで改善することが多いです。

 被殻の出血は、大きさによって治療が変わります。簡易的に血腫の縦×横×高さ÷2で計算して、血腫量が30mlまでなら、そのまま内科的治療、30~50mlで麻痺が強ければ、頭皮を小切開して、頭蓋骨にバーホールという穴を開けて、定位脳手術装置を使って、血腫の中心に金属の筒を入れ、注射器で血腫を吸引除去します。

 これは吸引の力が強すぎると、新たな出血を起こしてしまい、新たに大きく開頭する手術を必要になったりします。また吸引の力が弱すぎると、血腫がほとんど取れないこともあるため、手術する意味がなくなります。ある程度経験が必要な手術でもあります。被殻の内側には、内包という部位に手足を動かす繊維が走っており、内包への圧迫を早期に減らすことで、圧迫による麻痺が早期に取れてくるため、早期からリハビリできることで、回復が早くなります。

 50ml以上以上の大きな出血が起こると、頭蓋内の圧力が上昇します。小脳と大脳を分けている小脳テントという硬膜の端に、大事な脳幹部が押しつけられ、脳ヘルニア状態になることがあります。脳ヘルニアが完成してしまうと、命に関わります。その場合には片目の瞳孔が開くサインが出るため、それを見たらすぐに大きく頭蓋骨を開頭し、脳の表面を切って血腫に到達し、顕微鏡で血腫の奥にある出血点を探しながら、血腫を除去してゆきます。

 脳外科の手術の中では中等度の難しさの手術で、翌日の頭部CTで血腫が残さず取れていたら、とても嬉しかったのを覚えています。開頭手術になるような症例では、手足を動かす繊維も、出血によって傷害されていることが多く、重度の片麻痺が残ることが多いです。

 視床出血は脳表からの位置が遠いこともあって、基本的には手術をしない内科的治療です。この部位に出た大きな出血は、中脳も巻き込むため、意識状態が悪く、遷延性意識障害や片麻痺などの後遺症が残ることが多いです。

 視床から比較にかけて出ている出血に対しては、定位的血腫除去術を試みることもあります。視床は脳室に接しているため、脳室内に出血が広がると、髄液の循環が滞り、水頭症を合併することがあるため、その場合には脳室ドレナージ術を施行し、髄液を排出します。

 皮質下出血も、ヘルニアを起こすほど、大きな物は開頭血腫除去術の適応があります。小さなものはそのまま血圧を下げ、止血剤を投与して、脳浮腫の点滴治療を行なって、内科的に経過を見てゆきます。

 急性期病院での治療は、厚労省からの指導や保険点数との兼ね合いもあるため、2~3週間であることが多く、回復期リハビリテーション病院に転院することになります。出血が大きくなるごとに麻痺などの後遺症が残る可能性は高まります。最長6ヶ月くらいは入院可能です。

 秋田県脳卒中発症登録データによると、年齢が高くなるにつれて、生活が完全に自立できる確率は下がってゆきます。40歳以下であれば約40%が完全自立、65歳以上では約20%しか自立できません。もちろん後遺症はケーズバイケースで、出血部位と血腫の大きさが大きく関与します。

 被殻出血を例にとると、血腫量が20ml以下なら49%が完全自立、20~40mlで22%、40~60mlで13%、60~80mlで5%、80ml以上ではゼロです。完全自立というのは、杖歩行や装具装着の状態での歩行なども含んでいます。脳卒中を発症すると、生活が一変することがイメージできるかと思います。自宅での生活が困難であれば、施設で暮らすことになり、本当に大変です。

 後遺症ゼロを目指すためには、脳出血を起こしてはいけません。予防が全てです。脳内出血を発症すると、屋外での自立歩行が可能になるのは全体の30%以下なのです。脳出血の第一原因は血圧ですので、健診で引っかかるようになったら、120/85mmHg以下になるよう、しっかりとコントロールを行う必要があります。

 それ以外の要素としては、糖尿病、肥満、喫煙、過度の飲酒、脂質異常症、歯周病、血液サラサラの薬の効きすぎなどです。65歳を過ぎたら、5年に一度くらいは頭部MRIや、脳ドックなどを受けて状態を確認しておくと良いと思います。

 ベースにあるものは動脈硬化、血管の老化です。体内の酸化や糖化、慢性炎症を起こさないように、減塩や野菜中心に、しっかりタンパク質を摂取し、糖質は少なめに食べましょう。運動、質の良い睡眠を確保し、喫煙しないこと、大量飲酒しないことが重要です。睡眠時無呼吸もあれば治療を行いましょう。

 脳卒中はたくさん見てきましたが、本当になりたくない病気です。今日は脳内出血を取り上げましたが、脳梗塞にしても、起こさない生活習慣は共通しています。自分だけは大丈夫と思わずに、動脈硬化、老化を遠ざける生活を続けていきましょう!

もし記事が良かったよ!と思われた方は蒼野健造公式ラインのボタンをポチッと押して、ご登録くださいね。ライン登録された方で希望される方の中で、月に1人程(まだ春までは忙しいので)オンライン面談での相談に乗りたいと思っております。