今日は食べる頻度を減らした方が良い食べ物の話です。ハムやソーセージ、ベーコン、サラミなどの加工肉は、健康に悪いというお話は聞かれたことがあるでしょうか? 食べ物の健康に対する影響というのは、発がん物質だから一概に悪いとは言えないため、人間でのエビデンスについて知っておくことが重要です。
加工肉には亜硝酸塩という発色剤+防腐剤の役目がある物質が加えられていることが多いです。これは胃の中の酸性状態で、魚や肉の中のアミンと反応して、ニトロソアミンという発がん性物質に変わるとされています。話を聞くといかにも悪そうで食べたくなくなりますよね! しかし亜硝酸塩は緑黄色野菜にも、加工肉以上の量が含まれています。野菜を食べて癌になるというのは聞いた事が無いので、大丈夫! というのもちょっと違います。
なぜこんな物質が加えられているのかということから考えると、ボツリヌス菌の繁殖を抑えるからなのだそうです。また時間が経った肉は黒ずんで変色してしまいます。亜硝酸塩を加えると、肉はきれいなピンク色の状態が保てますし、ボツリヌスによる、命に関わる食中毒を防ぐことができるのです。必要だから入れられているし、これからも無くなりません。
動物実験で、癌が増えるとされる体重当たりの亜硝酸塩の量は分かっています。毒物および劇物指定令に指定されているため、食品に入れられる基準量はその100分の1となっており、安全域が広くとられています。こういう視点から見ると、ソーセージ200本とかを、毎日食べなければ影響が無い様にも感じます。
そこで判断の基準になるのは、やはり人間でのエビデンスです。2007年の世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)による評価報告書では、赤肉、加工肉の摂取は大腸がんのリスクを上げることが「確実」と判定されました。赤肉は調理後の重量で週500グラム以内、加工肉はできるだけ控えるように、との勧告がなされています1)。
その後も、2015年に国際がん研究機関(IARC)が、全世界地域の人を対象とした疫学研究や動物実験研究、メカニズム研究からなる科学的証拠に基づく総合的な判定を行った結果、加工肉については「人に対して発がん性がある(Group1)」と、主に大腸がんに対する疫学研究の十分な証拠に基づいて判定されました。
赤肉については、疫学研究で一日50グラムから100グラム、中には200グラム以上摂取する地域の発癌率を検討した結果、証拠は限定的ながら、メカニズムを裏付ける相応の証拠があることから、「おそらく人に対して発がん性がある(Group2A)」と判定しています2)。
心血管系疾患リスクとの関係を調べた研究もあります。カナダ・マクマスター大学などからの研究報告によると、5大陸21の国の、164,000人の食生活と健康アウトカムを調査した結果、未加工の赤肉と鶏肉の摂取と死亡リスクまたは主要な心血管系疾患リスクの間に有意な関連性は認められませんでした。しかし加工肉の摂取は、総死亡リスクと主要な心血管系疾患リスクの高いことに関連していました3)。
日本の食生活では、1960年代以降、肉類摂取による動物性脂肪やたんぱく質の摂取が増加したことで、栄養状態が改善し、脳出血の発症が減少しています。2021年の日本人の癌罹患率は男女合わせると1位が大腸癌、2位が肺癌、3位が胃癌です。消化器癌が増えていることを考えると、やはりそこを通る食べ物や新しい添加物の影響が大きいと考えられます。
2020年に報告された87,507 人を平均14年間追跡した日本の研究では、男性において、肉類(加工肉を含む)全体の摂取量が最も少ないグループと比較して、最も多いグループで総死亡リスク、心臓病死亡リスクが高くなっていました。しかし肉類の摂取が多いほど女性の脳卒中死亡リスクは低下していました。男性では赤身肉に限っても、摂取が増えるほど死亡率は上昇していましたが女性では関係ありませんでした。鶏肉摂取は、逆に死亡率が減っていました4)。
これには添加物だけの影響ではなく、飽和脂肪酸、コレステロール、ヘム鉄、保存料、高温調理による発がん物質などの、総合的な関与が影響しているものと推測されています。世界中の癌死亡への影響を推定した数値としては、喫煙による脂肪が年間100万人、アルコールが60万人、大気汚染が20万人で、加工肉は3.4万人でした。癌が心配なら、禁煙や禁酒の方がよほど有効ということになります。
日本人の半数が一生の内、一度は罹患するのが癌です。治療法は進歩していますが、なりたくない病気であることは変わりません。ですから出来るだけはっきりしている発癌リスクは避けるに越したことはありません。大気汚染に関しては、自宅内に強力な空気清浄機を置くくらいしか対策はありませんが、食べるものは選べるので、日常的に食べない様にすることが重要です。
今日は加工肉について注目しましたが、近年になって新たに加えられた食品添加物や、超加工食品については、まだ本当の影響ははっきりしていないものが多いと思います。単独での動物実験のデータはありますが、複数を一緒に摂取した時の影響などは、全く調べられていないのです。
食品添加物が使われ始めたのは、第二次世界大戦後ですので、まだ75年くらいしか経過していません。その間に急速に罹患者数が増えた癌は大腸癌と肺癌、胃癌や乳癌、前立腺癌です。新たに食事に加えられるようになった物とか、大気汚染の影響などが大きいのではないかと推測されます。
大腸癌の中では、S状結腸癌や直腸癌が増えています。便が貯まる部分の細胞が変異を起こしている可能性が高いのです。加工肉が大腸癌を増やすのは紛れもない事実ですので、便中にニトロソアミンが日常的に入ることは避けたいですよね! ホットドックやベーコン、ハム、サラミやスパム、明太子などは、時々にしておきましょう。ニトロソアミンを作りにくくするビタミンCを一緒に摂るのは正解です。
また亜硝酸塩は、腸内細菌の中で有用な、ラクトバチルス属の4種の菌の増殖を阻害し、腸内フローラに影響するという研究も報告されています5)。保存料として使用されている面もあるため、これは当然の結果かもしれません。有益な菌を多様に含む腸内フローラが健康にもたらす影響はとても大きいと思います。その点からも、進んで食卓には上げない様にしたい食材です。
昔から食べられていた素材を、昔ながらの料理法で調理したものは、その安全性が年月によって担保されています。不思議なことに亜硝酸塩を沢山含んでいても野菜なら大丈夫なのです。可能であれば毎食そういう食事にできるのが理想です。かと言って身体に悪いとされるものを、全て排除するのは得策ではありません。選ぶのも大変ですし、時間もお金も取られます。そのストレスでかえって癌が出来やすくなるというのは、有りがちなことだと思います。
神経質になりすぎる事なく、加工肉の量と回数を気にしてゆきましょう。みんなで美味しく頂くときには、楽しんで食べましょう。食べ物の身体への影響は、まだまだ分からないことだらけなのだと思います。リスクを減らすためには、沢山の種類の食べ物を、偏る事なく摂ることが一番だと思います。
お歳暮でもらうハムは、美味しく食べようと思う蒼野でした。
参考文献:
1)AICR’s cancer prevention recommendations on diet and exercise
2)IARC Monographs evaluate consumption of red meat and processed meat
3)Associations of unprocessed and processed meat intake with mortality and cardiovascular disease in 21 countries. ; The American Journal of Clinical Nutrition, Volume 114, Issue 3, September 2021, Pages 1049–1058
4)Association between meat intake and mortality due to all-cause and major causes of death in a Japanese population. ; PLoS One. 2020 Dec 15;15(12):e0244007.
5)Sulfites inhibit the growth of four species of beneficial gut bacteria at concentrations regarded as safe for food. ; PLoS One. 2017 Oct 18;12(10):e0186629.
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