MCIを疑って、認知症を減らしましょう!

2022/12/02

 今日は認知症を減らすための具体的なお話を書きたいと思います。軽度認知障害(MCI)の段階で、ちゃんと診断できれば、生活習慣の改善で認知症になるのが防げます。もちろん何も症状が無い40歳くらいから、認知症予防生活が送れれば完璧なのですが、人によって様々な生き方があり、優先順位もありますので、実際には全員が生活を変えることは難しい事を感じます。

 世界一の超高齢社会となる日本では、現在も認知症患者数が激増しています。2025人には700万人を越えると予想されており、その前段階である(MCI)の人も同数程度居ると言われています。MCIはそのまま放置すれば、5年で40%が後戻りできない認知症に進行してしまいます。認知症を減らすには、MCI の段階でちゃんと診断することが本当に重要なのです。

 石川県の町で60歳以上の地域住民の92.9%を調査したコホート研究で、認知症の有病率を調べた論文によると、地域には認知症とほぼ同数のMCI患者がいることが判明しました。二つを合わせると、80歳代後半では住民の70%以上、90歳を越えると9割近くが、認知症かMCIであることがわかったのです1)。

 認知症もMCIも、原因の3分の2は、アルツハイマー型認知症でした。一方金沢大学の認知症専門外来を受診した約1600名の患者の内訳を見ると、認知症は57%である一方、MCIは20%に過ぎません。MCIの診断は難しい部分があり、簡単にできる認知症検査である、長谷川式簡易知能評価スケールやMMSE(ミニメンタルステート検査)では満点が取れることも稀ではありません。

 満点近く取れている場合、認知症に不慣れなかかりつけ医に相談しても、「加齢による物忘れですね!」と言われてしまう場合も多いのです。家族から見て、おかしい感じ、何か以前と違う感じなどの違和感がある場合は、現時点では認知症の専門外来を受診するのがベストです。認知症になる前に勝負しないと、現時点では認知症になってから元通りにすることは極めて難しいからです。

 アルツハイマー型認知症の場合、40歳くらいから脳のゴミであるアミロイドβが溜まりやすくなります。アミロイドβはある程度溜まると、重合して老人班という固まりになります。老人斑からは神経毒性のある物質が分泌されるので、周囲の脳細胞が死んでゆきます。脳はなんとか残っている脳細胞で機能を維持するのですが、一定以上の脳細胞が死んでしまうと、急に機能が維持できなくなり、もう元には戻りません。

 脳細胞が死に始めた状態がMCIで、それが明らかな機能低下につながるまで減ってしまった状態が認知症です。認知症がわかった段階で、老人斑を除去する薬を入れても、改善しない理由がお分かり頂けますでしょうか? まだ機能が維持できる脳細胞が残った状態であるMCIの段階で診断し、それ以上減らないように生活習慣を変えることが、現時点で認知症を予防する唯一の方法なのです。

 現在保険収載されている認知症薬は、脳細胞が一定以上減った認知症の状態で、神経伝達物質(アセチルコリン)が不足するのを補うものとか、神経を興奮させる物質(NMDA)がたくさん分泌されるために細胞間の連絡がうまくいかなくなった状態を、NMDAの受容体をブロックする薬で、神経伝達を改善するといった、認知症で起こる反応のごく一部のみをコントロールする薬しかありません。

 認知症を治す薬ではなく、認知症に伴って起こる病態を、薬で少し緩和するという意味で、半年から1年くらいは、病状の進行を先送りするという薬なのです。生活習慣の改善の方が、余程よく効くと考えられますが、認知症に進んでしまった段階では、本人の意志の力で生活習慣を変えることは出来なくなっています。だからこそMCIの段階で診断が必要なのです。

 MCIを疑うのに、一番鋭敏なのは、本人がよく忘れるという自覚で、二番目は家族の違和感です。いつもでは無いけど何度も同じ話をする事があるとか、やる気や意欲が無くなって、テレビばかり見ているとか、料理を億劫がる、味付けが変わってきたとか、ゴミ出しを忘れる事が多くなったとか、趣味を行わなくなったとか、薬を飲み忘れるとか、生活がだらしなくなったなどの些細な事です。もちろん生活は一人で送れますし、身の回りのことは出来ています。

 しかしこれらを『年のせいかな』と片づけてしまうのは危険です。特に気付きにくいのは若年性認知症の場合です。認知症にまでなってしまう人は少ないため、『疲れているため』とか『ストレスのため』と片づけてしまいやすいのです。コロナ禍でもあり、生活には困っていないため、こういう段階であえて認知症専門外来を受診する人は本当に少ないと思います。

 鑑別として、特に若い人の物忘れに関しては、うつ病が隠れていることも多いです。強いストレスがある、気持ちが鬱々する、夜眠りにくいなど、他の症状がある時には、うつ病の可能性もあります。もちろん認知症専門外来でも鑑別はしてくれるので、気軽に相談されることをお勧めします。

 MCIと診断されれば、認知症はすぐそこまで来ています。早急に生活改善してゆくことで、認知症になる人を減らせるのです。認知症になりにくくなる生活習慣は沢山あります。主なものは食事、睡眠、運動です。これらは解説が長くなってしまいますので、また明日まとめてみます。

 また明日改めて、まとめてご紹介したいと思います。今後MCIを検出する方法は、採血やAIの活用も含めてもっともっと進んでゆくと思います。是非皆様に知っておいてもらいたいのは、後戻りできない認知症になる前段階に気づいて対策を立てるしか、認知症を治せる方法は無いという事です。

 人生100年時代に高齢者になると、今のままであれば、認知症にならない人は一握りのままになってしまいます。可能であればMCIになる前の40代くらいから、一人でも多くの人に、認知症を遠ざける生活習慣をできることから、身につけてほしいと願っています。

 アルツハイマー型認知症の患者様を多く見てきて、本人だけでなく、それを支える家族も本当に大変である事は、身に染みて理解しています。蒼野は死ぬまで頭脳明晰で生きれることを、自分の中の優先順位の最重要項目にしたいと思っています。

 日本で認知症が増えることで、大きな負担を若い人に負わせないように、皆様に認知症の始まりについての知識を持ってもらいたいと思っている蒼野でした。

参考文献
1) 認知症コホート研究から ー中島町研究ー 日本内科学会雑誌 108(9)1743~1746

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