痩せすぎ注意!

2022/02/08

メタボリックシンドロームは、全ての疾患につながる、病気の源流である、というのは事実です。しかし逆に日本では特に若年女性や、中学生や高校生の女生徒、小学生の女の子までが、痩せたい願望が強く、痩せることで健康被害が出ている現実について、今日は書いてみたいと思います。

これには社会の価値観が大きく影響しているようです。日本のミスユニバース代表のBMIの変遷を見ると、1959年:19.5、2006年:18.4、2012年:17.3になり、明らかにやせすぎです。マスコミなどの情報発信で、「やせること=美しい」という価値観を、若年女性に刷り込んでいることが一因と考えられます。

 アイドルの体型も変化してきています。80年代のアイドルと、いまのアイドルの体型を比べれば一目瞭然で、明らかにいまのアイドルの方が細くなっています。かわいい、きれいと言われる女性の体型はこの数十年でどんどんと細くなっているのです。

 おかげで、わが国の若年女性の低体重者の頻度は、諸外国に比べても比較的高いことが報告されています。20~29歳女性の「やせ」(BMI<18.5)の 頻度は1986年度以降、約30年にわたり20%前後で推移しており、30歳代女性の約15%、40歳 代女性の約10%と比較して高い水準にあります。 

 世界的には、やせ過ぎの女性をモデルとして起用しないとか、あるいは太った体型を笑いの対象にしないなど、社会的に不健康に痩せることに歯止めをかける動きになっています。しかし若い女性のやせ過ぎが深刻化している日本では、このような動きは一向に起こらず、いまだにメディアでは、肥満体型を笑いの対象にすることが許されています。

 平成13年に首都圏の小学4~6年生を対象に行われた調査では、普通体型の女児の70%がやせたいと思っており、やせたい理由は「自分に自信がもてる」「人からバカにされなくなる」などで、小学生がすでに、やせが自信や自分の価値につながると認識していました。確かに子どもたちが憧れるアイドルやモデルはみんなやせていて、インターネットやSNSでもやせ賛美が溢れています。

 脂肪はダイエットの敵で必要ないものと思われていますが、体重の20~30%を占める大切な「臓器」です。脂肪細胞から、食欲や代謝に関わる重要な物質が分泌されていて、その一つであるレプチンは性腺機能に重要です。女性では、体脂肪が15%以下になるとレプチン低下によって、卵巣からの女性ホルモンが低下し、無月経になります。

 女性ホルモンは、女性らしい体型の維持や、骨が過剰に減らないようにする役割があります。不足すると、骨カルシウム量が減り、骨粗鬆症が進行します。その予防は思春期に始まっているのです。14~15歳に全身の骨カルシウム量のピーク値(Peak bone mass)が決まり、この値が高いほど、骨粗鬆症のリスクが低減します。低栄養と女性ホルモン不足はPeak bone massを低下させ、高齢になったときに骨粗鬆症関連の骨折の原因となります。

 正常な骨密度を維持するためにはBMI20.8以上が必要です。BMIが18.5未満の場合、有意に骨のカルシウム量が低下します。健康長寿を達成するためには、女性は一生涯、極端にやせないことが重要なのです。

 また栄養状態は妊娠・出産にも影響します。近年、我が国では、低出生体重(2,500g未満)が増えていることを皆様はご存知でしょうか? 日本人女性のやせ願望・スリム志向による摂取エネルギー不足や栄養不良の問題が、大きな理由の一つになっています。

 妊娠前・妊娠中の女性の食や生活習慣が胎児に大きな影響を与えます。成人になってからの健康や特定の病気へのかかりやすさは、胎児期や生後早期の環境の影響を強く受けて決定されることがわかってきたのです。母体の栄養状態が悪いために、小さく生まれた子供は、成人期に動脈硬化性疾患や2型糖尿病、高血圧、うつ病が併発しやすいことが明らかになっています。

 人は社会的に認められる身体になるためには、進んで自らの身体を傷つける一面を持っています。中国の漢民族の女性に行われていた纏足(てんそく)では、3~4歳の頃から足を成長しないように縛り続け、歩けないほどの小さな足になることが美しいとされました。首長族は、真鍮リングを幾つも取り付けて、首が長い程、伝統的な美人だと評価されます。

 纏足も首長も痛そうですし、そういう文化のない日本人から見ると、理解し難い部分もあると思うのですが、よくよく考えれば、痩せ願望も、行き過ぎれば健康を害する可能性もある不自然な社会的価値観だと思います。『スリムな女性は「美」であり、目指すべきもの』という意識が強すぎるのは間違っています。

 やせすぎは大人も子どもも命に関わることがあります。食べていない子は、貧血にもなりやすく、水分摂取量も十分でないため、脱水症状などで意識障害やけいれんも起こり得ます。また、るいそうになる程痩せると、臓器や筋肉が壊れ、多臓器不全に陥り命に関わることもあるのです。

 コロナ禍でストレスが増えて、摂食障害が増えているといわれます。遊びが制限され、部活は禁止、修学旅行もなくなり、さまざまなことが制限されています。何かを達成したり、成し遂げたりしにくくなっている現在、真面目で頑張り屋の子は、ダイエットに成功したりします。すると周囲から称賛されたり、陸上の記録が伸びたりすることでハマってゆき、摂食障害につながりやすくなるのです。

 心理的な原因で、小食やむちゃ食いをする病気が摂食障害です。極端にやせる「神経性やせ症」(拒食症)と、過食後に嘔吐したり下剤を乱用したりする「過食症」があります。拒食症は中学生から急増して、女子高校生の有病率は0.17~0.56%。過食症はやせていないので、発見しにくいのですが、有病率は拒食症の5~10倍と見積もられています。

 拒食症になると、低血圧、徐脈、低体温、無月経になったりします。低血糖、肝機能障害、不整脈、感染症などの、重症の合併症がある拒食症患者の死亡率は、6~11%という報告もあります。成長期に発症すると低身長になり、骨粗鬆症や嘔吐による歯の喪失などの後遺症が出てきます。

 拒食症になると、少食、低カロリー食品の摂取、過剰な運動、長風呂などの、体重を増やさない行動をとります。一方で、食に執着する異常な行動をとるのも特徴です。飢餓の反動で過食が始まったりしますが、その後自分で嘔吐したり、市販の下剤を乱用したりします。

 米国で強健な男性に、約60%のカロリー制限食を6カ月摂取させる臨床試験が行われた際にも、拒食症に似た食への執着が見られ、試験後に全員が過食になりました。さらに、不眠、気分の不安定、思考力の低下、社会性や人格の変化、認知の偏り、病的な頑固さなどの深刻な精神的合併症や、窃盗をはたらいたものも出てしまいました。飢餓が重大な精神症状や人柄の変化をもたらすのです。

 個人の価値観は様々だとは思いますが、やはり目指すべきは健康的な身体と体重です。若い人であれば、体脂肪率が男性12~14%、女性20~22%、BMIでは20~22の引き締まったモテボディを目標に、食事、睡眠、運動のサイクルを整えてゆくのが良いのではないでしょうか。正しい知識を持って、栄養をたっぷり摂りながらボディメイクしてゆきましょうね。

 痩せすぎにはくれぐれもご注意ください!

もし記事が良かったよ!と思われた方は蒼野健造公式ラインのボタンをポチッと押して、ご登録くださいね。ライン登録された方で希望される方の中で、月に1人程(まだ春までは忙しいので)オンライン面談での相談に乗りたいと思っております。