今日は変形性関節症について書いてみたいと思います。腰、頚、肘、股関節や膝などの痛みに悩んでおられる方はとても多いです。蒼野は幸い、たまに頚が痛む程度ですが、どんどん歳もとってゆくため、十分に注意が必要です。90歳の母親は歩くとすぐに膝が痛くなると言っています。
関節の骨の端を覆う、滑りやすい組織である軟骨は、クッションであると同時に潤滑剤のような役割があります。長年使っていると、負荷のかかり方によって、軟骨が徐々に壊れてすり減ります。軟骨の下にある骨同士が、擦れ合うようになると、骨膜の神経を刺激して痛みが出るようになり、関節がスムーズに動かなくなります。
長年関節を酷使してきた高齢者に多くみられますが、若い人でも無理をして関節を壊してしまうと発症することもあります。関節の負荷をなるべくかけない生活が、発症を防ぐための重要なポイントとなります。1:4で女性に多くみられ、高齢になるほど罹患率は高くなります。
初期の症状としては、起床後や長時間座った後の関節のこわばりや動きにくさ、関節の腫れや違和感、圧痛、動かすとガリガリした感触が出たり、擦れている音がしたりします。生活習慣としては職業的、あるいは運動のしすぎで関節を酷使することや、体重過多、姿勢、デスクワーク、運動不足、筋肉の減少、柔軟性の低下などが関係します。
厚労省の国民生活調査によると、国民の自覚症状のランキングでは、男性の1位が腰痛、2位が肩こり、3位が咳やたんです。女性は1位が肩こり、2位が腰痛、3位が手足の関節痛でした。痛いところがあると運動しにくくなります。運動は健康長寿のために、必要不可欠な要素ですので、日頃から痛みをコントロールしてゆくことは、本当に重要なこととなります。
もう少し疫学を見てみると、50歳以上のX線の疫学調査では、変形性腰痛症は3000万人、痛みがあるものが1020万人、変形性膝関節症は3000万人、痛みがあるものは1000万人と推計されています。変形性膝関節症は9割が女性ですので、60歳以上の女性に至っては60%~80%の方が発症しているという疾患となっています。
2023年には50歳以上の人口が、全人口の過半数になる時代です。様々な関節の痛みは、現時点で立派な国民病です。今後はますますお困りの方が増えてゆくのだと思います。それでは我々はどうしてゆけば、痛みの無い人生を送ることができるのでしょうか?
現在行われている医療は、痛み止めの外用や内服、関節内ヒアルロン酸注射など、いずれも対症療法です。根本から治すものではありません。さらに症状が進めば手術です。関節鏡視下に痛みの原因になる部分を取り出したりなめらかに整えたりします。姿勢が歪んで、関節の片側だけに負荷がかかる時には、骨の形を整える手術も行います。最後は人工関節に置換する手術です。
ずっと痛み止めを飲み続けるのは、胃腸障害や、腸内細菌叢の異常、腎障害などにもつながり、良いことではありません。手術は最終手段ですので、少しでも改善できるなら、他の方法を探したいところです。
一番に思いつくのは、関節軟骨の成分を十分補給したら、すり減った部分が改善するのではという考えです。しかしこれは様々な研究で、あまり効果がないことが報告されています。有名なものはグルコサミンとコンドロイチンです。テレビでもたくさん宣伝されていますよね!
確かにグルコサミンとコンドロイチンは、関節の衝撃を吸収する組織である軟骨の構成要素です。米国国立衛生研究所(NIH)が行った大規模研究、グルコサミン・コンドロイチン関節炎介入試験結果を見てみましょう1)。
軽度の膝痛の患者を対象に、グルコサミン、コンドロイチン、両方、プラセボ、痛み止めの5群で検討しています。全体として軽度の痛みに有意差を持って効いたのは痛み止めだけでした。中等度から重度の痛みの少人数の群で、コンドロイチン硫酸+グルコサミンが有意な改善が見られました。
ヨーロッパで行われたいくつかの研究では、高容量グルコサミン摂取後に膝の感覚が良くなり、機能も改善したこと報告があります。ヨーロッパではグルコサミン硫酸塩の製剤を使ったのに対して、NIHではグルコサミン塩酸塩だったための違いかもしれないと推測されています。
20件を上回る研究で、変形性膝関節症または変形性股関節症の痛みに対するコンドロイチンの効果は、痛みを軽減するまでには至りませんでした。グルコサミン、コンドロイチン、両方を3年間摂取した大規模研究では、重篤な副作用は報告されていません。グルコサミンはワーファリンとの相互作用があるため、ワーファリンを飲んでいる人は飲んではいけません。
ということですので、飲みたい人はどうぞという事なのだと思います。選ぶならグルコサミンは硫酸塩製剤を選んだ方が良いかもしれませんが、米国リウマチ学会や、米国整形外科学会のガイドラインでは、使用は勧められていませんでした。ちなみに蒼野はグルコサミン+コンドロイチンを痛くもないのに飲んでいます。飲み出してからギシギシする感じが減った気はしています(私見です、プラセボの可能性あり)。
鍼治療に関する検討もあります。複数の研究の統合解析で、鍼治療が変形性関節症の痛みに有効な可能性があると報告されています。メカニズムが分かっておらず、メンタルのプラセボ効果などの関与も不明であり、まだ欧米では積極的には勧められていないようです。お灸やカッピングに関しても、エビデンスはまだありません。
膝の変形性関節症に対する太極拳の効果を評価した複数の研究があります。痛みやこわばり、身体機能に短期的な改善がみられています。副次的にバランスの改善やうつ病の軽減などにも有用でした。気功も少数の研究で、変形性関節症の症状の改善が示されています。ヨガに関する検討はほとんどなされていませんが、蒼野としては有効ではないかと思います。
温泉療法によって変形性関節症の痛みが軽減する可能性があるという研究報告がありますが、質の高い研究が非常に少なく明確な結論は出ていません。安全な方法ですので、やってみて痛みが緩和するようなら、取り入れるべきでしょうね!
変形性関節症は、ある意味加齢に伴う、関節の劣化ですので、誰でも起こります。若返りの薬が無いように、簡単に治す方法は無いのです。予防が一番良い対処法になります。そのために重要なのが生活習慣となります。少し痛みがで始めた人はもちろん、痛みの無い人も中年を過ぎたら、全員が意識して欲しいことになります。
食事による体重コントロールはマストです。姿勢も特に重要です。筋力が低下すると関節への負担が強くなります。タンパク質が不足しないように、糖質は少なめに食事を組み立てましょう。身体に炎症が起こると痛みが強くなるため、酸化、糖化を避ける食事が大事なのです。たっぷり水分も摂りましょう。
運動は柔軟性をアップし、筋力を維持、増強してくれます。局所血流も増やしてくれるので、痛みが出ないものを毎日行う必要があります。とにかく柔軟体操はやりましょう。蒼野も朝、夕やっています。筋肉を柔軟にして、関節可動域を保ちましょう。温めて血の巡りをよくしましょう。
高齢になって要支援、要介護1(軽い障害)となる1位は、運動不足による廃用。2位が腰痛、関節痛、3位が脳卒中、4位が転倒、骨折です。運動していれば防げる可能性がある疾患が大半なのです。運動習慣が無い方は多いと思いますが、隙間時間や、ながらエクササイズなども心掛けて、動く必要があります。
痛いところがある人は、ネットに運動の仕方が沢山解説してありますので探してみてくださいね! 無理すると悪くなるので、痛みの無い運動を心掛けましょう。日本人全員が毎日、運動する習慣をつけて欲しい蒼野でした。
参考文献: 1)The NIH Glucosamine/Chondroitin Arthritis Intervention Trial (GAIT)
J Pain Palliat Care Pharmacother 2008;22(1):39-43.
参考ページ: 厚生労働省 「統合医療」に係る情報発信等推進事業
厚生労働省 運動器の慢性痛を取り扱う視点から
健康長寿ネット 変形性関節症
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