今日は亜鉛の話を書きたいと思います。蒼野は現在慢性期の患者様が多い病院に勤めているのですが、寝たきりの方などに、どうしても褥瘡が出来てしまいます。治りが悪い患者様を採血で調べてみると、亜鉛が不足している人が結構多いのです。栄養に亜鉛を増やしたりして対処していますが、よく考えてみると、亜鉛がどの様に作用しているのか知らないことに気付きました。
亜鉛は体内では作れない必須微量ミネラルの一種です。数百におよぶ酵素たんぱく質の構成要素として体内で働いています。亜鉛が不足すると、この亜鉛要求性酵素が働かなくなるため、体内で起こるべき反応が、起こせなくなるということです。細胞が分裂して増えて行くのが障害されます。
動物実験の結果によると、亜鉛は細胞外でATPを分解する酵素にも関わっており、亜鉛が不足するとATPをADPやAMP、アデノシンに分解することができなくなり、局所でエネルギーが作れなくなることが分かりました。そのため組織が壊れた時の修復とか、新陳代謝などが、エネルギー不足で出来なくなるということです。
ラットにおける各酵素活性の低下や、細胞外 ATP 代謝の遅延は、たった数日の亜鉛欠乏食の摂取で生じていました。さらにこの低下した活性は一日の亜鉛十分食の摂取で劇的に回復することも観察されたのです1)。
これによって、亜鉛不足で起こる様々な症状が説明できます。寝たきりの患者様では、褥瘡が出来やすくなり、治りにくくなります。傷が治るためには、局所の炎症と治癒のためのエネルギーが必要なのです。味覚障害も有名ですよね! 味を感じる味蕾は新陳代謝が激しく、常に新しく作られることで味を感じるのですが、エネルギー不足で作られなくなるからです。
その他にも免疫細胞の活性化や抗体酸性には、亜鉛が必要です。異物を免疫細胞が認識する情報伝達の際にも、亜鉛が必要なのです。免疫物質であるインターフェロンの合成にも亜鉛が使われます。感染症への罹りやすさや、自己免疫疾患にも亜鉛欠乏が影響を与えます。コロナ時代には十分に摂取したいミネラルなのです。
新陳代謝の激しい皮膚や粘膜、爪、髪などに影響します。亜鉛欠乏の状態では肌が荒れたり、爪が変形したり、髪が抜けたりします。出来た傷も治りにくく、アトピー性皮膚炎もひどくなりやすいです。貧血や下痢、骨粗鬆症にもつながります。
これは育ち盛りの乳幼児や子供では、低身長や成長障害につながります。もちろん生殖機能にも関与しており、精子の数が減ったり、男性ホルモン(テストステロン)が減ったりして、男性不妊症の原因にもなります。ED(勃起不全)を引き起こすこともあります。テストステロンを通じて、精力や若返りにも影響するのです。
更年期の女性では、亜鉛が不足することでも、女性ホルモンの分泌量が低下し、ホルモンバランスがさらに悪くなるため、更年期障害の症状も出やすくなってしまいます。
それでは我々は亜鉛が摂取できているのでしょうか? 実は日本人は潜在的な亜鉛欠乏状態である割合が高く、最近の報告でも先進国で唯一、10~30%が亜鉛欠乏状態にあると報告されています。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、摂取推奨量は男性で11g、女性8g、妊婦10mg、授乳婦12mgが必要です。しかし摂取量の平均は男性で9.2mg、女性で7.7mgなので、これで見ても少し不足しています。
亜鉛が含まれている食べ物をちゃんと食べているかどうかが大きいため、摂取量は人によって大きく異なります。亜鉛は汗と共に排出されるため、アスリートやサウナー、汗をかく職業などの方は、意識して摂取する必要があります。ダイエットや、ビーガンなどの菜食主義でも不足しやすいと言われています。アルコールによって亜鉛の排泄量が増加します。
亜鉛を含む食べ物で有名なのは、牡蠣やあわび、たらばがに、するめ、豚レバー、牛肉、卵、チーズ、高野豆腐、納豆、えんどう豆、切干大根、アーモンド、落花生などです。タンパク質と一緒に摂取すると吸収が良くなります。またビタミンC+クエン酸も、キレートを形成するため、亜鉛の吸収率をあげる作用があります。また水に溶けやすい為、煮汁ごと食べられる汁物やスープ料理が有用です。
食物繊維の多い穀類や豆類に含まれるフェチン酸は、亜鉛だけでなく、鉄、カルシウム、マグネシウムの吸収率も低下させます。ハムやソーセージ、蒲鉾などの練り物に含まれるポリリン酸
も亜鉛の吸収を妨げます。年齢とともに亜鉛の吸収率は低下する為、味覚障害なども起こりやすくなるのです。
一旦足りなくなったり、亜鉛不足による症状が出たりした場合には、亜鉛製剤やサプリメントでの補充が勧められます。しかし亜鉛の過剰摂取も健康に悪い影響がありますので、注意しましょう。100㎎/日の亜鉛サプリメントを毎日摂ったり、10年以上続けたりすると、前立腺肥大のリスクが上昇します。
急性亜鉛中毒になると胃障害、めまい、吐き気などの症状がみられます。男性で40mg/日、女性で35g/日以上の摂取は、他のミネラルの吸収障害を起こしやすく、銅欠乏や貧血、胃の不調などなどにもつながりますので、過剰摂取にも気をつけましょうね。
以上から、運動や汗をかくことが多く、飲酒が多く、食事は自炊せずに、超加工食品で簡単に済ませているような人は、おそらくベースに亜鉛不足があるのではないでしょうか? 最近では若い人に特に増えてきているようです。
疲れやすい、傷の治りが悪い、抜け毛が多い、ストレスを多く感じる、薄い味が物足りない、皮膚の調子が悪い、風邪をひきやすいなどの自覚のある人は是非意識して亜鉛も摂るように工夫しましょう。寒い季節なら牡蠣を5~6個食べれば、1日量はクリアできます。
ツヤツヤな肌や髪を手に入れたい人は、是非、亜鉛とたんぱく質を意識しましょうね。毎晩たっぷりのタンパク質と生レモンを絞って飲んでいる上、時々50mgの亜鉛サプリを飲んでいる蒼野は、今のところ不足の心配は無いと思っています。
参考文献:1)Zinc deficiency causes delayed ATP clearance and adenosine generation in rats and cell culture models
Communications Biology DOI:10.1038/s42003-018-0118-3
サプリメント: NOW Foods, 亜鉛、50mg、タブレット250粒
https://jp.iherb.com/pr/now-foods-zinc-50-mg-250-tablets/883?rcode=DBO7172
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