毎日蒸し暑いですね。皆様はワキ汗でお悩みではないですか? 蒼野は通勤で朝30分歩いてから地下鉄に乗るので、ちょっと気になっています。体質的にもねばねばの耳垢なので、臭いも気になるのです。今日は保険適応で使える原発性腋窩多汗症の薬などについて書いてみたいと思います。
原発性腋窩多汗症というのは、単なる汗かきというだけではなく、「日常生活に支障をきたす」ワキ汗を指します。20-60歳代の「働き世代」が悩む傾向にあり、遺伝性があったり、何度も着替える必要とか、人前で気になってストレスが強い、寝ている時には症状は出ないなどの特徴があります。全人口の1-3%程度に認められます。
通常のサラサラした汗はエクリン汗腺から分泌されます。ベタベタした臭いの元になる汗はアポクリン汗腺から分泌されます。いわゆるワキガはアポクリン汗腺からの、栄養分の濃い汗に細菌が繁殖して臭うものです。また含まれる色素のリポフスチンが服を黄ばませます。
アポクリン汗腺の数には遺伝があり、体質となります。両親のうちどちらかにワキガがあれば50%、両親ともワキガなら80%遺伝します。外耳にもアポクリン汗腺があるため、耳垢がキャラメル状ならワキガ体質、パサパサならそうではない様です。そして蒼野はキャラメルなので残念です。
肉食中心の食事がアポクリン汗腺を刺激します。逆に野菜や魚中心の食事にすると、アポクリン汗腺からの分泌が抑制されます。ストレスや疲労で交感神経優位になった時も、精神性発汗によってアポクリン汗腺からの分泌が増えてしまいます。手に汗握るという表現そのものです。
原発性腋窩多汗症は腋のエクリン汗腺からの分泌が異常に亢進した状態です。ワキガ体質が重なると、エクリン汗腺からの多量の汗の臭いも加わり、さらに臭いは強くなってしまいます。この状態では、なかなか通常の制汗剤やデオドラント剤でのコントロールが難しくなってしまい、病院での治療が必要となります。
蒼野は脳外科医にも関わらず、原発性腋窩多汗症の治療が出来ます。脳卒中後などの四肢の痙縮や顔面痙攣、痙性斜頸などに使うボトックス治療が使える講習を終了し、使っていましたが、ボトックスが原発性腋窩多汗症の適応が追加されたため、困っている人に治療した経験があるのです。
実際の治療はちょっと大変です。両腋の汗が出る部位を確認し、その領域の皮下に絨毯爆撃の様に、30箇所ずつくらい、1cm間隔でボトックス注射を打っていくのです。発汗は交感神経からの命令で出てくるのですが、ボトックスは交感神経からの命令をブロックするため汗が出なくなるのです。
極端な脇汗やワキガなどで悩む人は春先にボトックスを打っておけば、半年くらいは快適に過ごせます。ただ皮下に何箇所も針を打つので、保冷剤などで神経を麻痺させて打つにも関わらず、やはり痛い様です。また薬価が使用する100単位で、63587円もするので、3割負担としても、19000円ちょっとになってしまいます。効果は6ヶ月くらい続きます。
でも打った人は、臭いも汗も気にならなくなって良かったと言ってくれる人が多かったです。ワキガの根本原因となるアポクリン汗腺からの分泌を直接抑える作用は無い様なのですが、家族に聞いてみても、臭いがしなくなったと言ってもらえました。毎年春から夏に1回の治療が必要ですが、考え様によっては良い治療だと思います。
2020年までは、原発性腋窩多汗症に対して、保険治療はボトックス以外、手術で汗腺を切除したり、胸部の交感神経を遮断する治療しかありませんでした。自費で行う保険が効かないミラドライという電磁気エネルギーを使った高額な治療もある様ですが、それ以外は自分で制汗剤やデオドラント剤を買って使うしか無かったのです。
現在2剤ほど、保険適応の外用剤が使える様になっているので紹介しておきたいと思います。どちらもエクリン汗腺のアセチルコリンの受容体をブロックする薬です。神経の命令がブロックされ、汗が分泌されなくなります。1日1回塗るだけです。2020年11月26日から使える様になった「エクロックゲル5%」と、つい先月5月23日から使える様になった「ラピフォートワイプ2.5%」です。
どちらもエクリン汗腺のアセチルコリンの受容体である、ムスカリンM3受容体を選択的に遮断する薬です。エクリン汗腺からの発汗が無くなります。薬価は1日あたり243.7円と262円です。3割負担で70~80円/日くらいはかかる計算になります。蒼野はまだ処方したことは無いのですが、ボトックスの経験から考えると、神経からのブロックなので、同じ様に効くと思います。
副作用は抗コリン作用が主で、緑内障や前立腺肥大の人は使えません。腋がかぶれるなどの皮膚炎を誘発したり、口が渇いたり、薬が目に入ると散瞳して眩しく、視野がぼやける事もあります。薬を触った手で目をこすったりしないよう注意が必要です。
わざわざ病院に行く程でもないという方のために、市販の制汗剤についても説明しておきます。よく使われている成分は塩化アルミニウムです。これを腋に塗ると汗腺の出口を物理的に塞ぐために、汗が出なくなるものです。殺菌剤を加えて、臭いを出にくくしたものも発売されています。
臭いが強い場合には、殺菌作用の強い塩化ベンザルコニウムなどを含む製品を選ぶと良いでしょう。中等度のものには銀イオンなどを配合したものも、抗菌作用を発揮してくれます。注意点としては腋以外に広く使ってしまうと、発汗による温度調節が妨げられ、熱中症を誘発する事もあります。そういう意味では、使用部位は腋と足の裏に限り、スプレーよりもクリームやロールオンで腋に直塗りすると良いでしょう。
副作用としてもちろん、肌に合わずにかぶれたり、痒くなったりする事もあるので気をつけて使いましょう。時々は肌や汗腺を休める事も重要です。365日使い続けずに、外出しない日などは休肝日ならぬ、休汗日を作りましょう。衣類にスプレーして防臭したり、汗わきパットをうまく使ったりするのも良い方法です。
地球温暖化は年々進んでいるため、今年も例年以上に暑くなりそうです。ワキ汗や臭いに上手に対処できると良いですね。本当にお悩みの方は、皮膚科、形成外科など、病院で相談してみてくださいね! ボトックスの前に使える薬が出来たのは、素晴らしいことだと思います。
蒼野は食事も変わったせいか、若い頃の様に臭ってはいないと思います。でも自分では臭いは分かりにくく、家族以外に指摘されることも少ないと思うので、塗るタイプの制汗剤を勤務の時だけは使おうかなと思っています。
参考ページ: エクロックゲル5% https://ecclock.jp
ラピフォートワイプ2.5% https://www.maruho.co.jp/medical/products/rapifort/index.html
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