今日は男性更年期というものについて、書いてみたいと思います。蒼野は62歳、一般的に男性更年期は50歳の前後10年くらいと言われており、蒼野には無かった様に思います。男性ホルモンの減少の影響は、若い時みたいに四六時中エッチな事を考えなくなった程度でしょうか(笑)!
調べてみると男性更年期が日本で話題に上る様になったのは、クイズダービーで、圧倒的な正解率75%、27連勝2回を誇った漫画家のはらたいらさん(古いので知らない人が多いと思います)が男性更年期の症状に苦しみ、本を書いた頃からとのことです。
毎日怠くて、やる気が出ない、集中できない、頭が働かない、その他めまいや肩こりなど不定愁訴が沢山出現し、絶不調の状態となりました。はらさんの場合は色々調べた結果、男性ホルモン、特にテストステロンが低下していることが分かり、その補充を行う事で、症状が緩和したそうです。
女性ホルモンが閉経後に急に減るのとは対照的に、一般的には、テストステロンは20~30歳をピークに徐々に減ってゆきます。だったら歳を取ったらみんな症状が出るのかと言えばそうではありません。さまざまな理由、特にストレスなどの影響で、40歳代~60歳代の男性で急に分泌が低下して、様々な不調が出ることがあるのです。
テストステロンはもちろん性機能に大きく影響しますが、それだけではなくうつや不安、イライラなどの心理的な影響、脳機能低下、無気力、疲れやすさなどにも影響が出ます。肉体的には筋力低下や骨密度、脂質糖質代謝にも影響し、低下で糖尿病や肥満にもなりやすくなり、メタボリスクも高めます。
若さや機能を保つために必須のホルモンなので、もちろん女性でも、卵巣や副腎などから、男性の5~10%程度ですが分泌されています。やはり筋肉や骨量を保つ効果や、運動機能を高めるために、重要な役割を果たしています。
しかし男性更年期は、テストステロンが急に減った人がなる病態であるとは簡単に片付けられない様なのです。男性更年期障害の症状を訴える患者さんのテストステロン値は、約3割の方で正常なのです。また前立腺癌の治療では、男性ホルモンが癌を大きくしてしまうため、ホルモン療法と言って、男性ホルモン値をほぼゼロになる様な治療が行われます。
しかしホルモン療法中の前立腺癌患者様は、男性更年期症状の合併が少ないと報告されています。男性更年期は単純にテストステロン値の低下だけでは説明できない様です。20年以上男性更年期外来を続けてきた大阪大教授の石蔵文信先生は、治療にホルモン補充を行わなくても多くの患者様が改善すると言われています。
男性の40~60歳位までの年代が中心ではありますが、30歳前後の若い人や75歳以上の高齢者も男性更年期外来を受診されます。多くの人で会社や家庭でのストレスがのしかかっている方が多いそうです。中間管理職で、上からはパワハラまがいの扱いを受けたり、下からは突き上げられたりする年代が多いのです。
家庭でも妻との関係が冷え切り、子どもたちも父親を相手にしなくなる年代に多くみられ、「何のために働いているのか、むなしくなる」と言われることも多いとのことです。悩みに丁寧に答えながら、抗うつ剤などを併用すると、多くの患者様が改善します。
男性のテストステロンは睾丸で作られますが、それを命令するのが下垂体です。下垂体に命令するのが自律神経の中枢である視床下部です。視床下部から「性腺刺激ホルモン放出ホルモン」が分泌され、脳下垂体に届くと「性腺刺激ホルモン」が分泌されます。「性腺刺激ホルモン」が睾丸に届くことでテストステロンが作られるというメカニズムです。
テストステロンが低下する1番の原因は加齢ですが、ストレスが強いと自律神経が乱れます。もちろん自律神経の最高中枢である視床下部の働きも乱れるため、大元でテストステロンを作るための命令が出てこなくなるのではないかということです。石蔵先生の外来で、テストステロンを測定しているのですが、低下している人が4割、6割は正常です。
しかし話を聞いて、抗うつ剤等でストレスコントロールができる様になると、テストステロン値が正常化したり、正常の人でも2倍に増えたりしているそうです。その事実を見ると、ストレスがテストステロン値が上がらない原因であることは十分に考えられます。
そういう体験から、石蔵先生の外来では、時間は掛かりますが、最初からテストステロン補充を行うことは無いそうです。蒼野もこれには大いに賛同します。ホルモンは強力な体内での伝達物質ですので、安易に補充すると、体内のフィードバックシステムによって、自らホルモンを出す力が衰えて行ってしまうからです。また不用意に補充し過ぎると、攻撃性が高まることもあるのです。
悪い細菌がいるからやっつけるとか、ホルモンが足りていないから補充するというのは、人類が身体という大自然の一部であるものを、コントロールすることができるという西洋医学の思想がベースにあるからです。悪い細菌をやっつけると、必要な腸内細菌までやっつけられてしまって別の不調が出てきたりするのは良く経験することになります。
蒼野も40年近くも様々な患者様をみていると、本当に身体って不思議で、いくら勉強しても、薬や治療だけでコントロールすることはできないなあと痛切に感じます。身体の中には400万年以上も生き残ってきた自然治癒力があるので、それを最大限発揮できるように、心身の状態を整えてゆくことが、最良の医療だと感じるのです。
それは予防医学でもあり、食事、睡眠、運動、メンタルを整えることで、大抵の不調や慢性の病気は改善してゆくと信じています。だからこそ、がんや認知症、様々な生活習慣病を防いだり、改善したりする生活習慣は、全て共通しているのだと思います。テストステロンも亜鉛も含めてしっかりタンパク質やビタミンを摂取し、良眠して、運動すれば今以上に分泌されます。
石蔵先生自身が全身に転移した前立腺癌を患い、ホルモン療法を選択されています。テストステロンがほぼゼロの状態で過ごされていますが、メンタルの症状は無いそうです。ただ筋力低下は進んでしまい、ドライバーの飛距離が220⇨160ヤードになったり、テニスのサーブが相手コートに届かなくなったりはしたそうです。
そのことからも、男性更年期の原因はストレスの影響が大きいと確信されたそうです。ご自分のことも冷静に分析されていて、蒼野は本当に尊敬しかありません。蒼野が尊敬するドクターは、みんな現在のマニュアル通りの治療だけではなく、様々な可能性と、患者様の状態を合わせて自分で考えるドクターだなあと感じました。
蒼野もそういうドクターに近づけるよう、いろんな事を考えて、毎日を過ごしてゆきたいと思います。
参考ページ: 男性ホルモンだけでは説明できない 男性更年期の真実 石蔵文信
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20220427/med/00m/100/026000c
男性ホルモンがなくても更年期の症状が起きないわけ 石蔵文信
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20220427/med/00m/100/022000c
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