ストレスをうまくコントロールする方法は、人生にとって必須のテクニックですよね! 過去ブログでも「ストレスに強くなるには!」と言うことについて、アンデシュ・ハンセンさんの『BRAIN 一流の頭脳』と言う本を参考にして一度書いたことがあります。
先日アンデシュ・ハンセンさんの一流の頭脳の新版として『運動脳』と言う著書が出版され、脳科学的な裏付けがしっかりしている前著がとても面白かったので、読み始めました。今日は本に新しく加わった部分に、自分が調べたことも加えて、ストレスについて考えてみたいと思います。
ストレスは、人類がサバンナに住んでいた頃には生きていくのに必須の反応でした。猛獣に出会った時に、扁桃体にある警告システムが反応し、瞬時に視床下部から命令が出て、下垂体ホルモンが放出され、副腎からコルチゾールが分泌されます。身体も脳も一気に全力を出して闘うか逃げる体制を整えることができるのです。
扁桃体がアクセルだとすると、それに歯止めを掛けるブレーキが海馬です。健全な状態は、扁桃体と海馬がバランスを取って綱引きしている様な状態になります。しかしこの警告システムは、安全な現代社会では滅多に必要になる事はありません。しかし現代では、猛獣こそいませんが、扁桃体を興奮させるストレスは種類も量も増えています。
猛獣のストレスであれば、結果は逃げ切れるか、戦って勝つか、食べられるかですから、短時間で決着がつきます。しかし現代のストレスは慢性的なものが増えているのです。コルチゾールの分泌は、さらに扁桃体を興奮させるため、ストレスがストレスを呼ぶという悪循環が続くと、アクセルを踏みっぱなしの状態となり、制御不能になることがあります。
過度のコルチゾールは海馬細胞を殺してしまいます。ストレス反応が長引く程、海馬は減ってゆき、ブレーキが効きにくくなるのです。海馬は記憶の中枢でもあるので、ストレス反応がいつまでも続き、重いストレスを抱えた鬱病の様な状態になると、物忘れがひどくなり、言葉がうまく出なかったり、場所が分からなくなったりしやすくなります。
蒼野が認知症の相談を受けていても、若い人の仕事に差し障るような物忘れは、ほとんどが鬱病です。ストレス反応が制御不能になると、パニック発作が起こります。パニックになると、もう一つのブレーキである、前頭葉の前頭前皮質では抑えきれず、理性を失った行動を伴うのです。
扁桃体と前頭葉もお互いにブレーキとアクセルの関係です。不安症、心配性の人はこのバランスが悪くなっており、前頭葉もストレスを受け続けると、萎縮することが知られています。海馬にしても、前頭葉にしても、ブレーキがすり減って効かなくなると、脳内のバランスは保つことができずに、メンタル疾患につながってしまいやすいのです。
扁桃体と海馬、前頭葉にはバランスが取れにくい時期があります。ちょうど思春期から25歳くらいまでです。扁桃体は17歳くらいで完成しますが、前頭前皮質が完成するのは25歳くらいなのです。扁桃体の興奮を抑える部分が未熟な時期には、感情の起伏が激しく、時には衝動的な行動が起こり、毎日何かで悩んでいることが多いのです。
大人の日頃のストレスの発散方法として、手軽で多くの人が使っているのがアルコールです。ストレスや不安を消し去ることにおいて、お酒には驚異的な効果があります。扁桃体の興奮はGABAと言う、元々脳内に存在する神経伝達物質で抑え込むことができます。アルコールはGABAの機能を高める作用があるのです。
正常な脳では、GABAは脳の興奮に関与するグルタミン酸という神経伝達物質と釣り合った状態が保たれています。アルコールを摂取すると、グルタミン酸の作用を弱め、GABAの作用を増強します。しかし大量飲酒を続けると、GABAが優勢な時間が長くなるため、脳内ではグルタミン酸の産生を増やしてバランスを取ろうとするのです。
この状態になると、正常な人に比べて、お酒を飲んでいない時間はグルタミン酸が優勢になってしまうため、今度はバランスを取るためにお酒が飲みたいと言う欲求が強く出てくるのです。これがアルコール依存症の本態です。飲まずにはいられない衝動に駆られるようになってしまうのです。
これはベンゾジアゼピン系と言う抗不安薬や睡眠薬でも同じことが起こります。初めて飲むと、GABAの受容体を修飾して、GABAの効きを高めてくれるため、ストレスや不安による苦痛を素早く緩和してくれるのです。しかしこれは怖い薬です。1ヶ月以上飲み続けると、アルコールと同様の機序で、飲まずにはおられなくなる依存が起こります(ブログ 睡眠薬参照)。
いつも飲んでいると、受容体の数が減るため、アルコール同様最初は少量で効いていたのが、次第に効果が薄れ、同じような効果を得るためには、高容量が必要となるのです。脳にブレーキをかけ続ける事で、ノルアドレナリンやセロトニン、アセチルコリンやドーパミンといった脳内の興奮性神経伝達物質も減ってきます。その結果、薬をのんでいるにも関わらず、不安が増したり、パニック発作が出てきたり、その他脳機能が低下するといった副作用に悩むことになります。
同じ量で続けていても、耐性が進んで効かなくなってくると、不快な症状が出てくることに加えて、記憶力、認知機能には悪影響が出てくるため、高齢者では認知症の原因にもなり得ると言われているのです。しかし不安や不眠の訴えがあると、手軽に処方できる上、最初は喜ばれることが多く、薬が続けたくて通う患者も増えることから、気軽に処方されることが多い薬でもあるのです。
ストレスを消し去る、副作用のない、唯一の解毒剤をご存知でしょうか? それが運動です。最初は少し脈がドキドキするくらいの運動を行うと、脳はそれをストレスと認識し、コルチゾールを出します。運動をやめるとコルチゾールの分泌は止まります。
体を定期的に動かすことで、心拍数や血圧が上がっても、それが危険なものではない事、運動でドーパミンやセロトニン、エンドルフィンといった幸せ物質が出て、良い気分をもたらしてくれること脳に教え込むのです。すると運動以外のことが原因で起こる、扁桃体への刺激(ストレス)があっても、コルチゾールがわずかしか上昇しなくなるのです。
また運動すると筋肉内に、ストレスで生じる代謝産物の「キヌレイン」を無毒化する物質が出来てきます。キヌレインが脳を傷害する作用を、筋肉が処理してくれるのです。運動で海馬や前頭葉の神経細胞が増えてくるという話は、何度も書いているので、皆様はご存知ですよね! 海馬と前頭葉の細胞が増えれば、扁桃体のブレーキがかかりやすくなります。
実は海馬で運動によって生まれる新しい神経細胞の中に、GABAを放出するニューロンがあるのです。運動自体にもGABAを活性化する作用があるため、運動でストレス反応を根絶することが出来ます。思春期でも大人でも効果は絶大です。ストレスによる食欲増進も抑えてくれます。
ストレスや不安を無縁にしてくれる運動は、フィンランドの調査では週2回以上は必要です。理想を言えば、少しドキドキするような運動、早足やジョギング、水泳や、HIIT、筋トレなどがお勧めです。全く運動習慣のない人は、朝散歩から始めましょう。朝散歩を続けていれば、数ヶ月すると、脳内のブレーキの効きが良くなり、メンタルが安定してきます。
毎日通勤で歩き、ワンコとも歩く蒼野はストレス知らずです。自重筋トレも短時間ですがやっています。思い出してみると車通勤で、毎日忙しかった日々には、毎晩の晩酌が楽しみでした。ちゃんと理屈はあっているなあと実感しています。運動習慣は絶対に必要だなあと今日も思った蒼野でした!
参考書籍: 運動脳 アンデシュ・ハンセン
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