古代人のDNA!

2022/10/05

 2022年のノーベル医学生理学賞が決まりましたね! ドイツの進化人類学の教授であるスバンテ・ペーボ博士(67)に授与されました。研究は、「絶滅したヒトのゲノムと人類の進化に関する発見」で、ペーボ博士は「古代ゲノム学」という領域を開拓したのだそうです。

 蒼野は子供の時から恐竜とかも大好きで、人類の進化についても強い興味があります。健康長寿とはちょっと離れてしまいますが、今日はベーボ博士にまつわるお話と、その研究で面白いなあと思ったことについて、まとめて見たいと思います。

 ペーボ博士の父親は、1982年に同じくノーベル生理学・医学賞を受賞されているそうです。親子2代にわたってノーベル賞を受賞したのは「キュリー夫人」をはじめとして7組も居られるとのことです。もちろん頭が良いのは確かなのでしょうが、親の背中を見て育つことに、すごく大きな影響があるような気がしますね!

 ベーボ博士は子どもの頃から考古学に興味がありました。大学では分子生物学を学ぶことになったそうなのですが、そこでDNAの解析を学んだそうです。そこでずっと興味があったエジプトのミイラを分子生物学的に解析しようというのが研究の始まりだったようです。

 化石に残る古代人のDNAを分析し、ゲノムを決定するというのは想像以上に難しいことのようです。何十万年も前の骨の中にあるDNAは細かくちぎれて変質しています。バクテリアのDNAや、その肉を食べたハイエナなどのDNAが混ざっていたり、掘り出す時に触った現代人のDNAまでが大量に混ざっている可能性もあるのです。

 ベーボ博士は、その研究がどんな役に立つのかということよりも、単に「知りたい!」という気持ちで、理論的にネアンデルタール人のゲノムが決定できると信じて続けた結果が、受賞に繋がったということです。抽出したDNAを増幅させるPCRという手法や、一度に大量の解析が可能な『ハイスループット』のような技術が発達したこともあり、不可能と思われていた、古代人のDNA解析が可能となったのです。

 人類の遺伝子の解析は、現在の我々がどこから来たのか、どうやって進化してきたのかを示してくれます。ペーボ教授は,世界各地から出土した古代の骨に含まれるゲノム配列を解析して現代の人類のゲノムと比較し、その結果次のような事を発見しました。

 ネアンデルタール人がアフリカ人よりアジア人やヨーロッパ人に近いことが分かりました。さらにユーラシア大陸の人々のゲノムの1.8~2.6%がネアンデルタール人のものであることも明らかになったのです。7万年前にアフリカを出てユーラシアに広がったホモサピエンスが、ネアンデルタール人とも一緒に暮らして混血していたというのは、すごく興味深いです!

 またシベリアのアルタイ山脈のデニソワ洞窟から出土した1本の小指の骨と1本の大きな歯から抽出されたDNAを解析することによって、2010年に新種の人類の存在が明らかになっています。デニソワ人と名付けられたその人類は、ネアンデルタール人から分岐し、ネアンデルタール人が住んでいたヨーロッパと中東から、もっと東に進み生息していたことが分かったのです。

 しかもそのDNAの一部は現代人のアジア系集団に残っており、大陸に進出してきたホモサピエンスとも交雑していたことも分かりました。そのDNAからデニソワ人は、頭頂骨が他の人種に比べて広いという予想がなされたのですが、後に河南省で発見された10万~13万年前の2点の頭蓋骨の破片の頭頂骨が非常に大きかったこととも一致しました。

 頭蓋骨化石の8つの特徴のうち7つが、研究チームが予想したものと一致したそうです。2019年にチベット高原で発見された顎の骨も、デニソワ人の特徴がピッタリ一致していたそうです。DNAの解析技術は本当に凄いレベルなのですね! 蒼野はジェラシックパークが、未来で実現するような気がしてきました。

 ホモサピエンスとネアンデルタール人とデニソワ人の人類3種が何万年もの間、この地球上で共存していたということが分かりました。パプアニューギニアをはじめ、太平洋の島々に住むメラネシア人のゲノムの4~6%に、デニソワ人のDNAが混ざっているそうです。

 絶滅したヒト族から受けついだ遺伝子は,現在の我々の健康にも影響を与えています。例えば高地にすむチベット人には,低酸素状態への適応に関係するEPAS1という遺伝子にデニソワ人由来の変異が入っていることが判明しています。

 またネアンデルタール人から受け継がれた遺伝子が、新型コロナウイルスの重症化リスクにも関わっています。2021年の新型コロナに感染して重症化した患者2200人余りの分析で、ネアンデルタール人から受け継がれた、ある遺伝子を持つ人は重症化しやすく、別の遺伝子があると重症化が22%抑えられていたそうです。

 日本を含む東アジアでは、欧米などに比べて新型コロナの重症者や死亡者の比率がかなり少なく、未だその理由は明らかではありません。重症化させないための東アジア人固有の「ファクターX」が存在している可能性が指摘されていますが、古代人から受け継がれたDNAの違いである可能性をペーボ博士らが唱えています。

 本当に見事な研究ですね。ペーボ博士以前の研究では、他の動物や恐竜と同様に、化石の骨格的な特徴や、一緒に出土する遺物から推定する古生物学的・考古学的な手法しか無かったのですが、DNAを分析出来るようになって、どのように進化してきたのか、どのような姿形であったのかまでが、詳細に分かるようになったのです。

 古代のDNAは、変質し、他のDNAと混在してバラバラになっています。DNAが1冊の本とするならば、ゲノム配列は文字や文章のようなものです。ペーボ博士が成し遂げたのは、バラバラの文字や文章から、本を復元できたということなのです。ノーベル賞に値する研究だと本当に思いました。

 そして不可能と思われたDNA解析の技術的な進歩は、今後の他の研究を大きく進めてくれる可能性を秘めた、素晴らしい技術でもあるのです。チンパンジーが人類と分岐したのは600万年前。最古のヒト属であるホモ・エレクトス が出現したのが180万年前。55~76万年前に現生人類とネアンデルタール人が分岐し、更に38~47万年前にデニソワ人がネアンデルタール人から分岐した事がDNA解析で分かりました。

 とてもエキサイティングな話ですよね! 蒼野は古代のロマンを感じます。しかし遺伝子だけでは、身体も脳も大きく、先にヨーロッパに進出していたネアンデルタール人が絶滅し、またデニソワ人も絶滅して、地球上をホモサピエンスが席巻するようになったのかは、謎のままです。

 サピエンス全史でハラリさんが書いたように、ホモサピエンスだけが、架空の物を作り出して、それを全員が信じることで協力し、大きく変わる環境に対応出来たのかも知れませんね。アフリカやアジアなどの気候が暑いところでは、化石は残りにくくDNA解析技術を持ってしても、何が起こっていたかわからない空白の時代が、まだまだ多く残っています。

 それにしても人間の頭脳って素晴らしいですね。ペーボ博士も今回の受賞で希望するのは、「多くの取材に邪魔されずに、これまで通り静かに研究が続けられること」なのだそうです。本当に尊敬すべき人ですね! これからの研究がもっと進むことを蒼野も祈っています!

参照ページ: 祝!ノーベル賞 スバンテ・ペーボ氏が切り拓いた古人類DNA研究

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/15/327803/100400050/

もし記事が良かったよ!と思われた方は蒼野健造公式ラインのボタンをポチッと押して、ご登録くださいね。ライン登録された方で希望される方は、オンライン面談での相談に乗りたいと思っております。