癌と腸内フローラの意外な関係!

2022/10/12

 皆様がなりたくない病気の代表は、がんと認知症ではないでしょうか? どちらも加齢と共に増える病気で、生活習慣の関与についての研究がどんどん進んでいます。日本人が一生のうちに癌と診断される確率は驚くほど高いです。男性65%、女性50.2%ですので、国民の半分以上が癌に罹るわけです。

 蒼野も祖父は胃癌で無くなり、父親が様々な癌を患ったこともあり、癌についての記事がどうしても目に入ります。今日は癌と腸内細菌の関係の話を目にして、とても新鮮ですが、納得できるところもあり、これからの健康管理に必要な情報だと思ったのでご紹介します。

 50歳未満で発症する癌は世界的に増加しています。その原因として食生活や肥満、運動不足が関連している可能性については、以前から多くの論文で指摘されてきました。9月6日にオンラインで発表された、アメリカのレビュー論文1)によると、1990年代以降、50歳未満の成人で、14種類のがんの発症率が世界的に上昇傾向にあるそうです。

 その14種類の癌は、具体的には乳房、大腸、子宮内膜、食道、肝外胆管、胆嚢、頭頸部、腎臓、肝臓、骨髄、膵臓、前立腺、胃、甲状腺です。もちろん癌の診断技術の発達や、がん検診の発達による増加分も含まれていますが、その増加分の予想を超える増加を示す癌が見られています。

 著明な増加を示す癌は、消化管に沿ってできるものが多く、癌の原因の一つとして、腸内フローラの状態の関与が疑われているのです。特に大腸癌は、65歳以上では減少傾向にあるのとは対照的に、50歳未満では増加傾向で、1990年代から2倍以上になっています。

 早期発症型の大腸がんに腸内細菌叢が果たす潜在的な役割について研究を進めている、米ジョージタウン大学病院のweinberg教授によると、50歳未満の人に生じる大腸癌では、腫瘍に対する免疫がうまく機能しておらず、腸内細菌叢の状態が免疫系に影響していると考えられると述べています。

 ある意味当たり前の論理であると思えます。体内の免疫系の70%が集まっている腸の健康と腸内細菌は密接につながっています。そして腸内細菌叢を健康に保つには食事、睡眠、運動、ストレスコントロールがとても大切だからです。生活習慣が乱れれば癌にも掛かりやすくなるのです。

 もう一つ面白い研究結果があります。癌治療の第四の治療法であり、癌を治せる可能性がある薬として、免疫チェックポイント阻害剤というものがあります。癌細胞は、免疫細胞に殺されないように、免疫細胞の「免疫チェックポイント」に働きかけて、異物と認識されないスイッチを押すことで、免疫細胞にブレーキをかける機能を持っています。

 この「免疫チェックポイント」のスイッチに蓋をしてしまい、癌細胞が免疫細胞にブレーキをかけられない様にする薬が、免疫チェックポイント阻害剤です。これが京都大学の本庶佑教授のノーベル賞に繋がった発見であり、その薬が「オプジーボ」なのです。

 原理から考えれば、「オプジーボ」はどんな癌にも効くはずです。そしてうまく効いた症例では、3年生きられた人は、その後も5年、10年と再発せずに過ごせています。素晴らしい薬ですよね! しかしこの薬は実は2割程度の人にしか効かない事が分かってきました。

 その効果の鍵を握るものの一つが腸内細菌叢ではないかとみられているのです。アメリカとフランスの共同研究で、がん免疫療法を研究していると、同じ種類、同じ週齢のマウスなのに、飼育先の会社によって、がん免疫治療薬の効果が違うことが判明したのです。エサなど飼育環境の違いが腸内細菌の違いとなってあらわれ、治療薬の効きを左右していることが発見されました。

 さらに無菌マウスにがん免疫治療薬を与えても、治療効果があらわれないことを確認し、腸内細菌の存在そのものが治療に不可欠なことが明らかになったのです。この研究から、薬を使っている患者の腸内細菌を調べる研究が各地で始まりました。

 治療効果のあった患者の腸内細菌が効果のなかった患者に比べて多様性に富んでいることや、治療の前後で抗生物質を使っていると薬の効きが悪いことがわかってきました。蒼野が若い頃は、風邪を引いた患者様に、咽頭の細菌2次感染を防ぐという名目でどんどん抗生剤を出していたことが思い出されます。風邪はウイルス感染なので、全く抗生剤は必要ないのです。

 一旦抗生剤で死滅した大切な腸内細菌叢は半年経っても元には戻らないそうです。未だに、風邪の時には抗生剤を要求する患者様が居られたり、抗生剤を簡単に処方している古いお医者さんも居られるので、皆様も十分に気を付けてください。抗生剤を使うのは細菌による重症感染症の時だけにしたいと思っています。

 少し横道に逸れましたが、日本でも癌患者様の腸内細菌叢を調べる研究が進みつつあります。昭和大学を中心に約20施設での共同研究では、数千人分の腸内細菌のデータが集まり、オプジーボの効果があった患者さんの腸内細菌には、ビフィズス菌が多いこと、細菌の多様性があることなどがわかってきているそうです。

 がん免疫療法は、がんそのものに効くわけではなく、患者さんの免疫システムを変える治療法ですから、患者さん本人の免疫状態がその効きを左右すると考えられます。今後の研究で、腸内細菌叢をコントロールし、腸内細菌をがん免疫療法に生かせれば、がんを薬で治せる時代がやってくる。がんは糖尿病や高血圧と同じような慢性疾患になる日が来ると研究者は言います。

 現在患者様の便のサンプルだけではなく、病歴や食生活など臨床データや、手術で摘出したがん組織などのデータを照合し、がん免疫療法が効く人と効かない人の腸内細菌がどう違うのか、どの腸内細菌ががん免疫療法の効果を高めるのかについてのエビデンスが積み重ねられているところの様です。

 今我々ができる事としては、それぞれが持つ可愛い腸内細菌達を大事に育てる事ですよね! 多様な菌とビフィズス菌などの善玉細菌を育てましょう。色々な種類の野菜を沢山食べて、食物繊維を摂りましょう。厚労省の推奨である1日の食物繊維は、男性21g、女性18gです。しかし現在の摂取量の平均値は約15gなのです。

 これはあくまで平均値で、人によって食生活は大いに変わります。50歳以下で大腸癌を発症する様な人の食事は、加工度の高い食品、砂糖、赤肉の摂取量が多く、果物、野菜、食物繊維、「良質な」脂肪の摂取量が少ない食事である事が多いのです。アルコール摂取、喫煙、運動、抗菌薬の使用も大きな影響を与えます。

 癌と診断される二人に一人にならないためにも、もしなった時に薬だけで再発なしに治すためにも、日頃からの腸活、生活習慣が大事になるというお話でした。腸内細菌が良いかどうかの目安は匂いの少ない良いうんちと順調な便通ですので、お腹の調子がすぐれないという人は、放置せずに生活習慣を見直して行きましょうね!

 2万円近い腸内フローラ検査を、一度やってみたいと思いながら、なかなか踏み切れていない蒼野でした。

参考文献:1)Is early-onset cancer an emerging global epidemic? Current evidence and future implications. : Nature Reviews Clinical Oncology, Sept. 6, 2022, online

参考記事: 
最先端のがん免疫治療、腸内細菌が薬の効きを左右する https://www.asahi.com/relife/article/14211632

腸内細菌の活用で、がんを薬で治せる時代がやってくる https://www.asahi.com/relife/article/14211637

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