あなたのお尻、大丈夫?!

2022/10/17

 今日はちょっと気軽に相談しにくい痔のお話です。蒼野は脳外科医ですので、痔に関しては一般的な知識しか持っていませんでした。しかし日本人でも、虫歯に次いで罹患する事が多い病気であるというお話を聞き、これは調べてみないとと思った訳です。

 1988年の聞き取り調査で、自分は痔があると自覚している方は36%だったそうです。しかしドイツの解剖の報告では、調べてみると御遺体の70%に痔核の病理を認めています。1982年にアメリカで、病院に来た外来患者すべての肛門部を観察した医師は86%に痔核を認めたと報告しています。自覚症状が無い人でも、痔の気が無い人の方が珍しいのです。

 痔とは肛門の病気の総称です。いぼ痔(痔核)、きれ痔(裂肛)、痔瘻(膿瘍から皮膚にトンネルができてしまう)の3つがあります。肛門の皮膚・粘膜に炎症が起こり、肛門のバリア機能が低下することが、これらの痔の原因になります。これにはヒトが二本足で暮らし始めたことと、肛門の粘膜構造自体が、それほど強く無い事が関係しているそうです。

 まず肛門の簡単な解剖です。胎児の初期には肛門はまだ穴が空いていません。上から直腸が降りてきて、お尻の部分で皮膚が窪んできて、繋がることで肛門ができます。繋がった境目を歯状線と言います。この部分より上が肛門粘膜でこれより下が皮膚になります。肛門粘膜には痛みを感じる神経が無く、皮膚は痛みを感じる部分になります。

 大腸菌など細菌が多数存在する肛門粘膜の防御は、そこに免疫細胞をたくさん動員して行います。全身の粘膜の厚さはほとんど同じで、1mm程度しかありません。目の結膜の粘膜も肛門の粘膜も厚さは同じなのです。結膜にウンチをつけて擦れば、必ず炎症が起きて、感染してしまうのは想像しやすいと思います。

 免疫細胞を供給するために、直腸粘膜から肛門の皮膚の下には血管網(動静脈叢)が豊富になっていて、白血球が常に動員されています。四つ足の動物で痔になる動物は居ません。心臓の高さと血管網の高さが同じであれば、肛門の内側にある血管網の循環が滞ることはなく、常に元気な白血球が動員できるので、感染が起こらないのです。

 しかし直立で生活する人間は、この部分の血流が滞りやすいのです。血流が悪くなって細菌を迎え撃つ免疫細胞が不足すれば、感染が起こります。疲労やストレス、冷えや座業などによって血流は悪くなり免疫力が低下します。また下痢や便秘、飲酒や生理などで粘膜や皮膚が傷付くと、その傷が感染のきっかけとなります。

 つまり、痔は生活習慣で良くもなるし、悪くもなる疾患なのです。傷つきやすい肛門粘膜の防御力を弱める要素と、肛門粘膜や肛門の皮膚を傷つける攻撃力のバランスによって、痔が良くなったり悪くなったりするということです。食事、運動、トイレの習慣などを痔にならないよう整えてゆく必要があります。

 生活習慣を改善すれば、手術せずに治すことができます。これは今や世界的な潮流になっているそうです。日本では、恥ずかしい気持ちも大きいためか、肛門科に受診するまでの期間が長く、肛門科の400人弱のアンケートによると、受診するまで平均7年かかっているそうです。そのために、いよいよ受診した時には、手術治療が必要になっている場合もある様です。

 痔の中で一番多いのが痔核です。歯状線より上の粘膜が断裂し下にある動静脈叢がイボ状に腫れたものが内痔核。歯状線より下で動静脈叢が腫れてイボ状になったものが外痔核です。内痔核は感覚が無い部分なので、痛みはありませんがイボが傷つくと大出血します。

 最近はありませんが、蒼野も痛く無いのに便器が真っ赤になり驚いた経験があるので、内痔核がありそうです。外痔核はかなりの痛みがあり、ひどい時には座ることも出来ない程です。痔核は加齢によって肛門が酷使されると、誰にでも出来るものの様です。

 肛門の皮膚部分は、周囲の括約筋のために括れて狭くなっており、硬い便が通ったり、下痢が勢いよく通ったりすると切れて切れ痔になります。元気な皮膚では起こりにくいのですが、感染しかけて弱くなっていると切れやすくなるのです。実は蒼野も水分を摂るのを忘れていたり、深酒したり、外食が続いたりして便が硬くなると切れて痛んだ経験があります。便秘がちの女性に多く見られます。

 歯状線にある粘膜のくぼみ(肛門腺窩)に感染が起こり粘膜下に膿瘍ができることがあります(肛門周囲膿瘍)。膿瘍がトンネルを作って貫通すると痔瘻になります。これは下痢になりやすい男性に多いそうです。治療せずに放置すると肛門がんにつながることもあるので、必ず受診が必要です。

 皆様はもし痔になっても手術せずに治したいですよね! 痔の発症率は、日本人と外国人とでは、さほど変わらない様です。外国人は痔かなと思った時点で受診し、生活指導を受けるため、手術になる確率が低いことが報告されています。市販されている痔の薬は緊急避難のためのリリーフピッチャーです。ステロイドが入っているものも多いため、長期使用には向いていません。

 痔瘻の手術率はドイツ7%、イギリス5%、アメリカ4%です。一方日本は40%に手術が行われます。初診までの時間が掛かることに加えて、ちゃんと生活指導できるDr.が少ないことも影響している様です。発症して1年以内に受診すれば、内痔核は88%、裂肛でも89%が切らずに治せるそうです。

 それでは何に気をつければ良いのでしょうか? まずはきちんとした毎日の排便習慣です。起床時には起立反射、そして朝食を食べれば胃結腸反射が起こるため、朝のうちに便意が起こりやすくなります。さらにストレッチや、起床時に水を200ml飲んだりするのも大切です。食物繊維は21g/日を目指して、豆や海藻、こんにゃくなどを意識しましょう。もちろん腸活は重要です。激辛や多量のアルコールには注意が必要です。

 トイレでは3分以上は頑張らないこと。便は出すものではなく勝手に落ちるものという意識が大事です。いきむのは危険です。座っているだけでお尻の血圧は150に上がり、いきむと200を超えてしまいます。蒼野も事故以来、トイレでいきむとガーンと頭が痛くなるのはこのためなのだと思いました。いきむ時には両手をバンザイにすると力が入りにくくなってリスクが下げられます。

 排便姿勢はロダンの考える人のポーズが理想です。前傾することで、解剖的に屈曲している直腸が真っ直ぐになって排便しやすくなります。またウォッシュレットは弱めで使う方が良い様です。最強にして浣腸の代わりにしていると、そうしないと出ない肛門になってしまうことがあるのです。

 運動は肛門周囲の血流を増やすことを意識しましょう。長時間座位は避け、1時間に1回は10mで良いので歩きましょう。通勤で一駅多く歩いたり、会社で階段を多用したりするのはオススメです。毎日湯船で身体を温めるのは痔にも有効です。歯を磨く時など、きっかけを決めておいて、スクワットをする習慣を付けましょう。

 血が出た時はもちろん、40歳を過ぎたら2年に1回程度は大腸内視鏡検査をすることが勧められるそうです。蒼野は今まで意識と機会が無かったため、カメラで見てもらったことはありません。大腸がんは怖いので、一度機会を見つけて診てもらっておいた方が良さそうですね!

 今日は痔について今まで知らなかった事が分かった蒼野です。加齢と共に増える病気でもあり、放置すると癌の原因にもなることがあるため、大痔主にならない様に、一緒に生活を気をつけてゆきましょうね!

参考書籍: マンガでわかる痔の治し方  平田 雅彦

参考ページ: おしりの医学   平田肛門科医院
       https://www.dr-hips.com/column/oshiri_no_igaku/

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