片頭痛 その6 予防治療

2021/11/30

 今日は片頭痛の予防に使う西洋薬について書いてゆきたいと思います。

 寝込んでしまう、職場や学校に行けない、仕事や勉強が手につかないなどの辛い頭痛を抱えている人は、本当に悩んでおられると思います。コロナ禍のストレスや、食事、ライフスタイルの変化もあって、頭痛頻度は増加の一途を辿っているようです。特にコロナ以降、20代で増えているようです。

 最近行われた調査では、頭痛の頻度は「月1回以上」が10年前より16.1%増加、30代女性では「週1回以上」が半数以上もおられます。今回の調査で、自分が「頭痛持ち」であると思う割合は53.3%2人に1人以上、10年前の調査で34.8%3人に1人だったので、大幅に増加していました。 

 頭痛によって損失していると思う時間は、一日あたり平均183.8分(約3時間4分)。10年前の同様の質問では149.0分(2時間29分)で、頭痛頻度・程度の増加に伴い損失時間が30分以上増加していました。

 このように増えている頭痛の対処法ですが、最も多いのは、「鎮痛薬を服用する」68.3%です。10年前に最も多かった「我慢する・過ぎ去るのを待つ」は今回42.7%となり、「横になる・寝る」の64.7%よりも、低い順位となりました。頭痛はただ我慢するのではなく、鎮痛薬を服用するなどして対処する人が増加しています。

 頭痛外来をしていて感じるのは、頭痛が怖いし、仕事もちゃんとこなしたいという、真面目で慎重な患者様程、鎮痛薬の飲み過ぎで生じる、薬剤乱用頭痛に陥って、どうにもならなくなって受診される方が増えていることです。

 そういう患者様こそ、まず頭痛の予防治療を始めるべきなのです。今までに書いたように、片頭痛は脳が興奮しやすく、誘因があると色々な反応が脳内で起こって、最終的に頭痛になってゆく疾患です。予防治療は、脳の興奮を、毎日薬を飲むことで起こしにくくして、頭痛回数を減らしたり、頭痛の程度を軽くする治療のことなのです。

 薬剤乱用頭痛は、同じ鎮痛剤を月に15日以上、3ヶ月以上続けることで起こってくると言われています。予防治療で頭痛回数が減れば、起こりにくくなりますので、寝込むような強い頭痛が月に2日以上、あるいは頭痛回数が月に6日以上あるような方は、予防療法を検討するべきと言われています。3ヶ月平均で、月に鎮痛剤を10日以上飲んでいるような方では、予防薬を飲む方が楽になると思います。

 さて予防薬の使い分けですが、保険上認められている薬は4つ、適応外使用が認められているものが2つあります。いずれも2~3ヶ月、毎日飲み続けて効果を判定することになっています。

1、バルプロ酸(デパケン、セレニカR)は抗てんかん薬です。脳内の脳波の乱れを鎮静する働きがあり、脳の興奮が強い人に向いています。特に閃輝暗点と言って、片頭痛発作の前に、目の前にキラキラ、ギザギザしたものが見えたり、視野が欠けたりする人には向いていると言われています。
 副作用として、崔奇形性があるため、妊娠出産の可能性がある若い女性には使えない薬です。また体重増加作用があるため、過体重の方にも向いていません。頭痛予防効果は有効(グループ1)です。

2、プロプラノロール(インデラル)は心臓に作用して、脈を遅くするβブロッカーという薬です。正確な機序はわかっていませんが、脳の神経伝達に関与すると言われています。予防薬の中で妊婦にも使える薬はこれだけです。ドキドキしやすいあがり症の人、緊張しやすい性格の人に合うと言われています。
 副作用には、気分が落ち込みやすくなると言われています。喘息がある人にも使えません。治療薬でリザトリプタン(マクサルト)を飲んでいる人も使えません。この薬も体重増加作用があります。高脂血症も悪くなる傾向があります。頭痛予防効果は有効(グループ1)です。

 

3、アミトリプチリン(トリプタノール)は三環系抗うつ薬です。うつに使う量ではなく、ごく少量で頭痛予防効果があります。肩こり、首こりなどの筋緊張亢進を伴う場合や、不眠、うつなどを合併している場合にはとても良く効きます。近年、スマホやパソコンでの凝りや、ストレスから誘発される頭痛が増えているため、こちらが合う患者様は多いと感じます。
 副作用には、眠気が翌日に影響する、ぼーっとして気分が悪くなるなどが見られ、緑内障や前立腺肥大があると使えません。頭痛予防効果は有効(グループ1)です。

4、ロメリジン(ミグシス、テラナス)はカルシウム拮抗薬です。血管を少し広げる作用があり、副作用は少なめの予防薬です。しかし妊娠、出産時には使わないよう書かれています。頭痛予防効果はある程度有効(グループ2)です。副作用が心配な方は試してみたら良い薬です。

5、ベラパミル(ワソラン)もカルシウム拮抗薬です。片頭痛にも適応外使用が認められていますが、主に使われるのは、群発頭痛の予防です。元々は頻脈性不整脈や狭心症などで使われていました。
 副作用としては、うっ血性心不全患者様には使えません。房室ブロックや洞房ブロックのある患者様にも使えません。胎児毒性があり妊娠の可能性がある人も避けるべき薬です。頭痛予防効果はある程度有効(グループ2)です。

6、トピラマート(トピナ)は抗てんかん薬です。海外で特に評価が高いのですが、我が国では単独では使用できません、保険上、少量のバルプロ酸と一緒に使います。頭痛予防効果は有効(グループ1)です。適応が医師用ですが、有効性も高く、肥満患者様には、使いたくなる予防薬です。
 主な副作用は、体重減少、不動性めまい、眠気、食欲低下あるいは大食症候群などです。こちらも妊娠中には口唇口蓋裂の発生が多くなる報告があります。

 副作用も含めて考えると、使いたくないなと思われるかもしれませんが、副作用の確率はどの薬も、それほど高くはありません。身体に合っていれば、ぐんと頭痛回数が減りますので、生活上のメリットは大きいと考えます。

 最後に、予防薬を止めるタイミングですが、効果の判定には少なくとも2ヶ月みてゆく必要があり、副作用がなければ3~6ヶ月は継続。片頭痛コントロールが良好となれば、徐々に減らして、可能であれば中止をするとされています。環境、誘因が落ち着けばやめられるのです。

 頭痛外来でみていると、一旦良くなってやめて、また人生の転機に誘因が増えて頭痛が増え、また再開するといったパターンが多いように思います。一方、数年以上続いた、連日性頭痛や、薬剤使用過多による、薬剤乱用頭痛の既往がある患者様では、頭痛に悩まされていた年数の、半分程度の年数は、予防治療を続けてから、減薬、休薬を考えるのが良いとされています。

 蒼野は、『厄介な片頭痛患者様の治療を、最小限の薬で行いたい』と思いながら診療しています。そのためには、可能な限り片頭痛の誘因を減らすことだと思い、生活指導しています。中には、お菓子をやめて、頭痛がほとんど起きなくなった主婦や、パンをやめた月から頭痛日数が半減した20歳の女の子などの、嬉しい報告を頂くことも増えてきています。しかし、生活習慣がどうしても変えられない方や、毎日頭痛があったり、会社や学校を休み続けたりしている方には、西洋薬の予防薬も含めてしっかりコントロールしてゆくことをお勧めします。

 最後に、これらの片頭痛の予防薬を使ってみるメリットとしては、使ってみて、予防薬が合わなかったり、片頭痛がうまくコントロール出来なかった場合には、今年発売された、CGRP製剤という、より副作用が少なく有効性の高い注射の予防薬が使えるようになることです。抗体製剤で高価なため、通常の予防薬治療が、上手くいかなかった症例にだけ、使うように厚労省から通達されているためです。

次回はCGRP製剤について説明しますね!  あなたの頭痛治療のお役に立てば幸いです!

参考書籍: 頭痛治療薬の考え方、使い方   竹島 多賀夫

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