バイオフィリアとは「人間が、自然及び他の動物に抱く愛着」を意味する言葉です。
この考え方は、1984年にハーバード大学の生物学者であるエドワード・オズボーン・ウィルソン氏が提唱したもので、人類が、色々な生物が生きる、地球の自然環境の中で、進化し生き残ってきたことで生み出された、本能に刻み込まれた性質である可能性があるという仮説を立てたのです。
バイオフィリアの遺伝子は見つかっていないのですが、近年色々な所で検証され、我々の生活の中にも応用が進んできています。簡単に言えば、人間は良い景色や、自然、他の動物などで癒される性質を持っているということです。
色々な生物にとって、環境は生き残るためには重要な要素です。人間は(進化の過程の)99.9%の時間を自然の中で過ごしてきため、生理機能はまだ、自然に対して適応しているのです。コンクリートやビルディングには適応できていないのです。人類は環境に対して、注意深く、熱意と愛着を持って接することで、生存確率を上げてきたからです。
人類は捕食者が潜む危険がない、開けた眺めの良い場所を好み、閉ざされた場所を恐れます。眺めの良い場所では、くつろいで良いのです。また、害を及ぼすことのない動物に対しても、愛情を抱き、ペットとして共に生きてきました。
正反対の現象としては、敵であった動物、ヘビや蜘蛛などに対しては、生まれつき恐怖心を抱いています。現代においては、剥き出しの電線や自動車の方がよほど危険ですが、それよりも敵であった動物を恐れるのです。交通死亡事故は大きな記事にはなりませんが、熊が人を殺せば、ニュースや話題になるのです。
現代社会では、私たちの多くは、毎日密集した電車に揺られて通勤し、鉄筋コンクリートのビルの中に閉じ込められて仕事をしています。ストレスや疲労が溜まるのも無理はありません。適応が難しい環境にも、肩こり・首の痛み、睡眠不足、腰痛、眼精疲労、ストレスなど心身の不調の大きな原因があるようです。
人間が自然環境から離れて暮らすことは、人類史上初めてのことで、長い間自然環境下で生活してきた人間にとっては、まだ人工化された環境(都会)に適応できないようです。ドイツのハイデンベルグ大学の研究では、都市部の居住者は、非都市部の居住者と比べ、不安障害の罹患率が21%、気分障害の罹患率が39%増大し、統合失調症の罹患率は倍増することが明らかになりました。
産業革命を都市化(人工化)の始まりだと仮定すると、人間が人工化された環境下で過ごすようになって、たったの2~300年しか経っていません。人類の長い歴史を考えると、適応できなくて当たり前なのです。
一方、千葉大学 の研究では、人は森の中をゆっくりと散策すると、都会を歩いている時と比べ、コルチゾール値が16%、交感神経の活動が4%、血圧が1.9%、心拍数が4%低下することが分かりました。また3日間、2~4時間ほど森の中をハイキングしてもらう実験では、NK細胞が40%増大することも分かりました。
樹木が発散する「良い香り」成分であるフィトンチッドが、NK細胞活性化の要因だと結論づけられました。日本の国土の7割を占める森林を有効活用する森林浴は、ストレスを緩和し、自律神経を整え、免疫力を上げてくれるため、健康作りにはとても有用です。
近年ではバイオフィリックデザインといって、環境素材に関しても研究が進んでいます。無塗装のホワイトオーク材、大理石、タイル、ステンレスの板を用意し、被験者に、目を閉じた状態で、各種素材を、手で90秒間触ってもらいました。すると木材に触ったときだけ、副交感神経の活動が亢進していました。
同じホワイトオーク材でも、塗装を施さない無垢材、オイル塗装材、ガラス塗装材、ウレタン塗装材、ウレタン塗装厚塗材で比べてみると、やはり無垢材に触れた時に、左右前頭前野活動の低下、副交感神経活動の上昇、心拍数の低下が見られました。 自然に近い無垢材が人間の脳をリラックスさせる効果があるということが明らかになっています。
入院中の人は、部屋に眺めの良い窓があるか、鉢植えの植物が置かれていると、回復が早まります。工場の見えるところに鉢植えの植物を置いておくと、全体の病欠時間が40%減少したそうです。
コロナ禍で、我々はオフィス以外の場所でも働けるようになり、仕事の環境も、ある程度選べる時代に入ってきています。郊外へと移住したり、気持ちの良い環境で仕事したりするときに、バイオフィリアは重要なポイントとなります。
生活や仕事の中に、バイオフィリアを取り入れてゆけば、メンタルも安定しやすく、仕事の効率も上がり、健康増進効果が期待できます。研究でも「自然光」や「植物」など、自然の要素を取り入れた環境の中で過ごせば、幸福度が15% U P、生産性が6% UP、創造性が15% UPすることが確認されました。それでは具体的にどうすれば良いか見てゆきましょう!
「窓」がもたらす自然光や眺望が、ストレスの軽減や疾病の低減につながります。窓が確保できない場合は、写真などで自然の景色を再現しても良いでしょう。多くの人が好むことから、日当たりが良く、眺めの良い窓のある家は、不動産価格や家賃も高いのです。
観葉植物を置きましょう。ある程度までは植物や木が多くなるほど、気分は良くなります。しかし、ジャングルの様に木々が茂るまで置いてはいけません。ジャングルでは、いつ捕食者が現れるかもしれないため、かえって落ち着かなくなります。
木の温もりは大事です、家具や、部屋の素材は、天然の木を使ったものが良いでしょう。時間が出来たら、近くの公園や、森に行きましょう。あと自然の奏でる音も落ち着きます。またペットは大きな安らぎになりますね。ちなみに蒼野は犬派です。
部屋の色調は、アフリカのサバンナで見られるような、河川の青、緑、褐色がかった金色、黄褐色、茶色などのアースカラーが、我々のDNAに染み込んでおり、落ち着く色とされています。
思い出してみると、おしゃれで、落ち着く店などでは、既に応用されていますよね! 健康長寿のためには、自分の環境にも、少しずつこだわってみると、ストレスコントロールが、より容易になるように思いました。
最近は毎晩、砂浜に打ち寄せる波の音を、BGMにして眠っている蒼野でした。
参考書籍: GO WILD 野生の体を取り戻せ! ジョン・J・レイティ