老化は治療可能な病気です!

2022/11/20

 今日は皆様も興味があると思う『若返り』=『アンチエイジング』の話題です。2020年の国際疾病分類 ICD11で老化関連疾患というサブコード(XT9T)が追加になりました。蒼野も読んで感動した『LIFE SPAN 老いなき世界』をいう本を書いたデビッド・A・シンクレア教授も提唱している「老化は治療可能な病気である」という考え方が拡がってきている印象です。

 現在世界中で老化に関する研究が行われて、面白い論文が次々に発表されています。新型コロナで亡くなる人は圧倒的に高齢者が多いのですが、ICD11による高齢者のコロナ死亡は、老化による原疾患が悪化して死亡した場合、XT9TーCovid19という死亡病名として登録されることになります。

 統計的に大きなデータが蓄積し、老化研究も進んでゆくと、次回30年後の国際疾病分類 ICD12には、老化は一つの病気として本コードに登録されると思われます。その治療法としては、食事(栄養)、運動、精神(睡眠やストレスなどが関わる脳)へのアプローチと共に、腸内フローラや空気、光、温度、湿度、感染症や中毒などの要素の研究も進みそうです。

 老化には無論、様々な要素が関与しています。有名な説としては2013年にCellに報告されたThe Hallmarks of Agingという総説論文があります。少し難しいのですが紹介したいと思います。

1、DNAの不安定性  DNAにダメージが加われば老化が促進します。またDNAを修復する機能が低下しても老化が促進します。

2、テロメアの短縮  DNAが入っている染色体の端を保護しているテロメアは、分裂の度に短縮してゆきます。加齢と共に、あるところまで短縮すると分裂できなくなります。分裂できない細胞は老化し、正常に機能しなくなります。テロメアの短さは死亡率とも相関しています。

3、エピジェネティック変化  DNAを修飾する部分のことで、DNAに含まれるどの部分を活性化するのかを指示するエピゲノムが、加齢と共にうまく働かなくなり適材適所の細胞が作られなくなり老化します。サーチュイン(長寿遺伝子)はNADの元でエピゲノムがちゃんと働くのを助けます。

4、タンパク質恒常性の喪失  アルツハイマーやパーキンソンのように細胞内に異常なタンパク質が溜まって変化すると、細胞の機能は失われ老化します。

5、栄養感知機能の調節不全  細胞の中にも糖やアミノ酸などの栄養を感知するシステムがあります。インスリンや成長ホルモンが出ると、成長モードの状態を知らせるIGF-1(インスリン様成長因子)が分泌され、糖とアミノ酸を感知するmTORが活性化し、細胞は盛んに分裂し老化が進みます。逆に断食やカロリー制限でmTORの働きを抑えると、細胞分裂はゆっくりとなり、寿命の延長方向へ向かいます。

6、ミトコンドリアの機能低下  加齢でミトコンドリが壊れると、活性酸素が漏れ出て、細胞を障害し、老化が進行します。抗酸化物質がアンチエイジングに効くと言われるのはこのためです。

7、細胞老化  細胞分裂が停止し老化細胞(ゾンビ細胞)となると、正常の機能が失われ、組織が老化します。

8、幹細胞の枯渇  様々な細胞に変化できる高い分化能をもつ細胞は、加齢と共に減少し、組織を再生する能力が低下します。山中伸弥先生のiPS細胞でこれを補い、若返らせるという実験は動物では既に成功しています。

9、細胞間ネットワークの変化  年齢と共に体内の様々なホルモンのバランスが崩れ、細胞間のネットワークが乱れ、慢性炎症が生じます。炎症は肥満、2型糖尿病、動脈硬化、免疫力低下などの引き金となり、組織を老化させます。

 ここまでが2013年の論文です。さらに2021年のヨーロッパでの国際会議では、さらに5つの要素が強調されました。

1、オートファジー  加齢で壊れたミトコンドリアや細胞内器官(オルガネラ)はオートファジーで除去する必要があります。やはり断食やカロリー制限、寒冷刺激などが有用とされるのです。

2、スプライシング  DNAから転写されたmRNA前駆体に含まれる、タンパク質合成に不必要な部分(イントロン)を除き、必要な部分(エキソン)を連結する反応のことです。これがうまく働かないと癌や神経変性疾患の原因となります。

3、腸内細菌  長寿者にはある程度決まったパターンの善玉菌がいることが分かっており、腸内細菌を整えることは、老化を抑える作用があると考えられています。

4、DNA立体構造に対する影響  難しい書き方ですが、老化細胞(ゾンビ細胞)に変化するときに、人類の進化の過程で体内に組み込まれたレトロウイルスがDNA構造に影響を与えます。加齢と共に自身のゲノム(レトロトランスポゾン)をDNAに再び組みこんでしまうことで、細胞を老化させ、ゾンビ細胞にしてしまう2)ことが分かっています。

5、炎症   炎症自体が老化に影響するとされています。先日も書いたように内臓脂肪や脂肪肝を減らす必要があります。

 まずは老化の原因を同定し、知ることが重要です。そしてその対策もかなり進んできているようなので、蒼野はワクワクしてしまいます。たくさんのアプローチがあるのですが、その一つが山中先生のiPS細胞技術を応用したリプログラミングという方法です。遺伝子をオン/オフする山中転写因子を3種類発現させることで細胞が若返る現象が見られています。

 シンクレア教授の研究チームが、老化で引き起こされるマウスの緑内障に対して、網膜神経節細胞にリプログラミングを行い若返らせると、視力が回復しました。老化がエピジェネティックな変化の蓄積で起こるのを、若年期のエピジェネティックパターンに戻すことで、目の神経細胞が若返り、病気が治ったのです3)。

 まだ早老症モデルマウスに対してリプログラミングを行なった実験も成功しています。サンディエゴ、ソーク研究所のベルモンテ教授の報告では、弱りきった早老症マウスが、薬の投与で元気に動き回り、すべての臓器や細胞が若返るのを確認しています4)。教授はヒトの寿命も少なくとも30~50年は伸ばせると言っています。

 皆様楽しみじゃないですか? 老化に関する病気が全て治るようになったら、ほとんどの慢性病が治ってしまうかもしれません。蒼野にとっての問題は、安全が確認されて治療が行えるようになるのが何年後なのかですね! 30年後だったら92歳、結構厳しいかもです。

 ということで、今は効果が分かっていて、実行可能な生活習慣改善で対応してゆくしかなさそうです。抗老化の論文は他にも沢山あってめっちゃ興味深いです。またの機会に紹介したいと思います。100歳までは生きなくて良いので、死ぬまで元気で動いていたい蒼野でした。

参考文献 
1)The hallmarks of aging. ;  Cell volume 153(6):1194-217. 2013

2)L1 drives IFN in senescent cells and promotes age-associated inflammation. : Naturevolume 566, pages73–78  2019

3)Reprogramming to recover youthful epigenetic information and restore vision. ; Naturevolume 588, pages 124–129  2020

4)In Vivo Amelioration of Age-Associated Hallmarks by Partial Reprogramming. ; Cell volume 167(7) 1719-1733. 2016

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