自宅にある漢方薬の話!

2022/11/21

 メンタル系とか、ちょっと難しい話が続いてしまったので、誰の家にもある隠れた漢方薬の話をしたいと思います。ズバリ七味唐辛子です。漢方の生薬に使われる材料がふんだんに使われていて、胃腸を良くする働きがあることを皆様に知っていただきたいと思います。

 七味唐辛子は、400年前の江戸時代、日本橋薬研堀町で生まれました。この地は医者や薬問屋が多く、別名「医者町」と呼ばれていた地域です。漢方薬研究家で薬種商人であった中島徳右衛門が、漢方薬をベースに生薬を加え、味を整えて、七味唐辛子と名付けて売り出しました。

 すぐに人気を博し、当時の将軍徳川家光に献上されるほどでした。食事に加えることで漢方の効果も期待できる画期的なもので、蕎麦に合うと江戸っ子に気に入られました。やがて江戸の食文化の伝播と共に、それぞれの場所で少しずつ配合が替わりながら、日本全国に広まりました。

 最初の七味唐辛子は、生の唐辛子、焼いた唐辛子、芥子の実、麻の実、粉山椒、黒胡麻、陳皮の7種類の薬味で出来ていました。その後味を整えるために青じそ、青海苔、しょうが、菜種なども加えられるようになり、7つの香辛料で出来たものではなくなりました。

 それでは成分ごとにその薬効を挙げてみます。まずは無くてはならない唐辛子です。唐辛子は南米アマゾン河流域が原産地で、9000年前から栽培され常食されてきました。薬用としては痙攣や下痢の治療にも用いられていたのです。これを世界に紹介したのはコロンブスです。1493年にスペインに持ち帰り、その50年後に南蛮船によって日本に持ち込まれました。

 唐辛子は、辛味成分カプサイシンが胃液の分泌を促し、消化吸収を助け、食欲を増進させます。体を温め血行を良くする上、脂肪燃焼するため肥満予防効果もあります。βーカロテンやビタミンEが豊富に含まれます。焼くことで辛味がまろやかになり、香りが増します。最初の七味唐辛子は、生と焼きの唐辛子の産地を変えるなどして、かなりのこだわりがあったようです。

 カプサイシンは非常に体に良い物質で、アドレナリン分泌促進作用があります。そのために脂肪が燃えて減少しやすく、血中中性脂肪も下げてくれます。ダイエットサプリには必ず入っていますよね! 風邪の初期に、蕎麦にかけて食べると、熱は蕎麦が冷ましてくれて、唐辛子が発汗させてくれることで、風邪が抜けやすくなります。

 次は芥子の実です。ポピーの花の実ですが、人類が食べてきた歴史は古く、紀元前2000年前のエジプト人はパンの薬味として香り付けにしていました。タンパク質、カルシウム共に豊富で、漢方的には止瀉薬(下痢止め)として使われてきました。

 麻の実は、タンパク質が豊富で、中国では五穀の一つとして、主食で食べられていました。良い香りがして食欲増進や強壮、エネルギー源となる上、亜鉛含量も多く、ホルモンの合成や分泌の調整、DNA合成、タンパク質合成、免疫反応の調節などにも作用します。

 粉山椒はみかん科の香辛料で、縄文時代の遺跡からも発見されている、日本最古の香辛料の一つです。中国最古の薬物書『神農本草経』にも収録されている即効性のある生薬です。粉山椒は実を包む皮を刻んだもので、その辛味成分はサンショール。舌を痺れさせ、胃腸を刺激し、機能を亢進させます。清々しい香りも特徴です。昔から鎮痛・健胃薬として使用されています。

 胡麻も古くから食べられてきた食材で、「アリババと40人の盗賊」にも「開けゴマ」という呪文で登場します。紀元前1600年のチグリス – ユーフラテス河文明ですでに栽培記録があります。ビタミンEが豊富で、抗酸化力の強いその油は動脈硬化を防ぎ、老化を予防します。血液中の過酸化脂質をゴマリグナンが除去し、老化、癌化を防ぎます。カルシウムも豊富で骨の栄養としても優れています。高血圧予防、がん細胞の成長制御、肝機能増強、老化制御、アルコール分解促進など多くの作用が報告されています。

 陳皮は蜜柑の皮を干したもので、古いほど効能が高いと言われています。10~15年ものの陳皮は朝鮮人参よりも高価なのです。リモネンを主成分とする油に、抗炎症作用を有するヘスペリジンというポリフェノールを含みます。現在の漢方にも多く使われており、健胃消化薬や鎮咳去痰薬として配合されています。

 元祖の七味唐辛子の材料について書きましたが、東京の蕎麦に合う元祖七味に対して、大阪はうどんに合う少し薄味で、香りが良い七味唐辛子が作られています。しそやのり、しょうがや菜種などが加えられ、風味や香りを増したものが関西では主流です。

 これらが組み合わさった七味唐辛子の効果は、肥満予防、風邪予防、抗酸化作用などが期待されています。漢方と同様に、一つ一つの食材の持つ効果が、複数組み合わさることで、食欲を増し、血流を促進し、病気を予防してくれる、日本人に合った、代表的な香辛料が七味唐辛子なのです。

 有名どころとしては、日本三大七味と言われるものがあります。まずは日本の七味の発祥の時から続いている東京の『やげん堀』。土地の食文化に適した独自の七味唐辛子が生まれた長野の『八幡屋礒五郎』と京都の『七味家』の3つです。いずれも300年以上続く七味唐辛子屋さんです。使われている食材がそれぞれ違うのは、やはり小さな頃から食べ慣れた味の影響が大きいようです。

 今蒼野の家の冷蔵庫には『八幡屋礒五郎』の赤と金で描かれた派手な七味缶と、『舞妓はんひーひー』という激辛の七味が並んでいます。蒼野はスパイス好きで、何にでもかけて食べています。今夜もおでんにネギと七味で食べてみましたが、かなりイケています。関西の七味唐辛子は、うどんに合わせた、香りがより重視された七味になっているようです。

 塩分過剰を防ぐためにも、七味唐辛子は有用です。辛い物を好む人は好まない人と比べて1日当たりの食塩摂取量が少なく、血圧も低いことが中国人を対象とした研究で明らかになりました。カプサイシンには塩味を強く感じさせる作用もあり、減塩の味方になるのです。

 スパイスは脳に働いて、メンタルにも影響することが分かっています。カレーにも強く惹かれますが、自宅では七味唐辛子の登場機会が多いと思いますので、全国各地の七味唐辛子を食べ比べしてみたいと思う蒼野でした。

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