今日はよく耳にする逆流性食道炎について書いてみようと思います。食事からさまざまな栄養をちゃんと吸収できることは、何を食べるかよりも重要です。消化管の健康は我々の健康に直結します。蒼野は脳外科医ですので、正直直接治療している訳ではないのですが、近年増えている逆流性食道炎を防ぐにはどうしたら良いかについて書いてみます。
我が国での発生頻度は、上部消化管内視鏡検査の10~15%と言われています。逆流性食道炎はどんな病気かと言われると、胃の内容物が食道に漏れて戻ってしまい、食道粘膜が火傷をしたように荒れてしまう病気です。胃と食道の間に蓋があるわけでは無いので、誰にでも起こり得る病態になります。
胃の分泌物には強酸性の胃液と消化酵素が含まれます。食べ物と一緒に入ってくる細菌を殺す作用と、タンパク質を分解する作用があるのです。胃の壁は胃液で消化されないように、粘液の膜を作って防御しているのですが、食道には粘液の膜はほとんどありません。
胃液や消化酵素が逆流すると、食道の壁が傷んでしまうのは当然です。通常は逆流しないように横隔膜の高さにある下部食道括約筋が、きゅっと収縮することで逆流を防いでいます。しかし様々な原因で、逆流が起こってしまうのです。それは最近の生活習慣によって明らかに増えてきています。
逆流した場合の症状としては、典型的なものは胸焼け、酸っぱいものが上がってくる呑酸です。食べた後気持ちが悪くなる人は疑ってみる必要があります。中には胸痛や喉の痛みのように一見消化管とは関係なさそうな症状も出ます。喉の奥に何か引っかかっているような感じや、上まで逆流して気管に入ってしまい、咳や喘息の原因にもなります。誤嚥性肺炎で命を落とすことさえあるのです。
逆流性食道炎の原因
1、下部食道括約筋が加齢で緩んだり、胃の上部が横隔膜の上まで飛び出してしまう食道裂孔ヘルニアなどがあるなどで、食道と胃の境界部分に問題がある。
2、食べてすぐ寝たり、きついベルトや補正下着などのようなもので腹圧が上がると、物理的に胃内容が食道に戻りやすくなります。肥満でも内臓脂肪のために胃が押され、腹圧が上がりやすく、逆流しやすくなります。
3、脂肪が多い食事を摂ると、十二指腸からコレシストキニンというホルモンが分泌され、胃から十二指腸へ送られるスピードを落とし、膵臓から消化酵素が十分に出てくるように働きます。コレシストキニンには下部食道括約筋をゆるませる働きがあり、長時間胃から出てゆかない胃内容が逆流しやすくなります。
4、もちろん食べ過ぎは大きなリスクです。沢山食べ物を貯めた胃では、ゆっくりとしか食べ物を排出できません。食べ物の上に胃液と消化液が溜まって層が出来てしまい、胃の上部から食道に漏れやすくなります。
5、近年日本人の胃のピロリ菌感染は、減少してきており、以前はピロリ菌による慢性胃炎で、胃の粘膜が壊され、 胃酸分泌が加齢とともに減少する傾向にありました。近年ピロリ菌が少なくなってきたことで、以前に比べて年をとっても胃液の分泌が活発なままになっています。
6、近年のストレス増加でも、胃酸の分泌は高まり、胃の粘液の分泌を減少させます。消化速度も遅くなるため、胃の中に長時間、胃酸が残ってしまうため、胃潰瘍や十二指腸潰瘍にもなりやすく、逆流性食道炎のリスクも増加します。
逆流性食道炎の治し方のヒントになる前向き研究があります。全米での胃食道逆流症患者は人口の30%にも及びます。42955人の女性を対象として観察し、逆流防止の5つのライフスタイルを実践している人は、していない人に比べて逆流性食道炎の症状の発症が半分になったという研究です1)。
その5つとは
1、毎日一定以上の全粒穀物(茶色い炭水化物)や野菜、果物などの摂取をしている。
2、BMI18.5~25の適正体重の維持。25を超えると逆流性食道炎のリスクが上がる。
3、禁煙(喫煙すると下部食道括約筋機能が低下する)
4、1日30分以上の有酸素運動(早歩きなど、何度かに分けても良い)(ランニングや筋トレなどのハードな運動は、逆にリスクを上げる)
5、胃酸の分泌を刺激するカフェインを含む紅茶やコーヒーや、ゲップで逆流しやすい炭酸水を1日2杯以下にする。というものでした。これらをふまえての予防法は次のようになります。
まず最初に書いた逆流しやすくなる原因を防いてゆくのが重要です。1番は食べ過ぎないことです。胃の容量は普通の人では1.5~2L程度です。いつも腹一杯食べる習慣は肥満にも繋がりNGです。腹八分目というのは逆流性食道炎予防の言葉でもあったのです。
食べる内容としては高脂肪食を控えることが重要です。脂肪は胃の中に長く留まり、十二指腸に送り出されにくいため、逆流リスクが上昇します。油っぽい肉などを食べる時には、大根おろしを一緒に食べるのは良い工夫です。また激辛も胃酸分泌を刺激します。柑橘などの酸味のあるものも胃酸分泌を促進します。コーヒーや紅茶、炭酸水は2杯までが良いようです。
胃を圧迫しない姿勢や生活習慣も重要です。デスクワークで前屈時間が長くなり、猫背や巻き肩も進んでしまうと、常に胃を圧迫しやすくなり、逆流を起こします。キツイものを着ない事です。寝かたも、左下にして横になると胃の体部に食べ物が収まり、逆流しにくくなります。
腹一杯食べてすぐに横になると、逆流しやすいことは理解できますよね。夕食が遅い人は、できれば夕方に軽く摂っておいて、寝る前にお腹いっぱい食べないことは重要です。できれば食事と寝るまでの時間は3時間置くのが理想です。食べてすぐ寝ると眠りも悪くなるので、気をつけましょう。「食べてすぐ寝ると牛になる」というのはこういう事からかもしれませんね。
もしも発症した時の薬は、病院ではPPI(プロトンポンプインヒビター)やP-CABが出されます。胃酸を抑える作用は抜群ですが。長期に渡って飲むのは、消化を邪魔することにもなりお勧めはできません。持続時間も短いので、症状があった時に頓用で使うのも良いと思います。コレらの治癒率は9割を超えているため、短期間しっかり使って、生活習慣を組み合わせて治しましょう。
胃酸を長期間少なく抑えてしまうと、鉄やビタミンB12。カルシウムなどの吸収に影響が出ます。軽症の逆流性食道炎の人は、食べ過ぎたり、症状が出た時だけ頓用で対処するのは、安全な方法になります。まず生活習慣から変えてゆくのがよい方法です。
OTCで売っているH2ブロッカーのガスターや胃粘膜を守る薬なども、まずは使ってみても良いのですが、長期内服する薬では無いため。症状がなくなったら一旦やめて様子を見るのが重要です。これらも食べ過ぎた時などに頓用で使うのは、一つの方法です。胃から腸への送り出しをよくする、ガスモチンとか六君子湯などを使うのも良い方法です。
逆流性食道炎は、不快な症状だけではなく、食道がんのリスクを上げたり、高齢者では誤嚥性肺炎リスクを上げたりするため、しっかり治しておきたい病態です。まずは生活習慣の改善です。逆流性食道炎を防ぐ生活習慣は、他の様々な病気を防ぐ効果もありますので、症状が疑われる人は少しずつでも、自分の生活に取り入れてください。
蒼野は自覚症状は無いのですが、飽和脂肪は大好きで、身体に良いと紹介したコーヒーも紅茶も緑茶も毎日飲んでいます。それに加えて毎晩レモンを絞って炭酸で割って飲んでいるので、逆流性食道炎リスクがいっぱいありました! 機会があれば一度内視鏡を受けておいた方が良いかもしれませんね。目に見えない食道を大事にしようと思う蒼野でした。
参考文献:
1)Association of Diet and Lifestyle With the Risk of Gastroesophageal Reflux Disease Symptoms in US Women ; JAMA Intern Med. 2021;181(4):552-554.
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